第34話
月日は流れて2月13日。明日はバレンタインデーだ。
村山に関しては、あの事件から2週間の停学になっていた。
停学が終わってからの村山は、今までとは違い、大人しくなっている。人は案外変わるものだなと、少しだけ感心した。
バイクの事故があってからは、優花と話すどころか、会うことも一度もなかった。普段は俺が優花を避けるように動いていた。最近では普通に行動していたが、多分優花の方が俺の方を避けているように感じる。
雫は最初にリアラに料理を教えてもらってからも、何度も和樹の家でリアラに料理を教えてもらっていて、上達してきている。
雫は要領もよく、器用なのだが、たまにドジを踏んだりする。リアラと料理をしていた時に転んだ拍子に小麦粉をぶち撒けてしまってリアラと雫が粉まみれになってしまった時があった。その時は流石にリアラも少し怒っていたようだったが、雫がドジなのは知っているので、本気で怒ってはいなかった。
そんなこんなで楽しい時間を過ごしていた。
「何かみんなソワソワしてんな」
「明日がバレンタインだからだろ。それにしてもソワソワすんのが早すぎるけどな」
和樹と友樹は帰る前のHRにバレンタインについて話していた。
こうしてHRの時間に話せているのは、白崎先生が適当な性格のおかげだ。周りの生徒達は、バレンタインが明日なのにも関わらず、ソワソワしたり女子の方に目線を送ったりしている。
「そりゃバレンタインはみんなチョコ欲しいよな」
「彼女がいる友樹が言うと嫌味だぞ」
友樹は茜という彼女がいる為、まずチョコは確定で貰える。何なら何故か前日に、しかも彼女がいる友樹にチョコを渡そうとしている女子もいた。相変わらず女子に人気の友樹である。
「お前もリアラちゃんがいるくせに。見ろ。殆どの男子がリアラちゃんの事気にしてるぞ」
喋ってても良いと言われて、当然教室は騒がしくなる。その声に混じりつつも視線はチラチラと、確かにリアラの方に視線が集まっていた。その視線は下心や単純に欲しいだけの気持ちがこもっているように感じられる。
そのリアラは気にする事なく、スマホで誰かと連絡を取っているようだ。
「こんな美少女からチョコ貰えるんだぞ、羨ましいな」
「茜がいたら詰んでたぞ。それに、貰えるかわからないだろ」
「今和樹がリアラちゃんと一緒に住んでる状況他に知ってる奴がそれ聞いたらぶっ飛ばされるぞ」
期待するのも期待せずに悲しい気持ちになるのも人それぞれ。和樹はあまり期待はしないタイプだ。期待して裏切られる、よくある事だ。それならはじめから期待しないほうが圧倒的にダメージは少ない。
それに期待して駄目だったときに自然と恥ずかしい気持ちがが込み上げてくる。
だから和樹は、
「あんまり期待しないほうがいいんだよ」
友樹に小さめの声で返事をする。それでも後ろの席にいるリアラに聞こえないわけが無く、その言葉を聞いてピクッと体を反応させる。
「……まあいいけど。それより今日遊びに行っていいか?」
「ああ、いいけど」
友樹は茜との予定がない時は、結構な確率で俺の家に遊びに来る。小・中と友達が殆どいなかった俺にとってはやはり有り難い存在である。
そんな話をしているところで、学校のチャイムが鳴り、白崎先生の声でみんなはぞろぞろと帰っていく。
和樹も、帰ろうと思って教室の扉に向かって歩みを進ませようと思ったところで、
「和樹様、今日メールで茜さんが遊びに行こうと連絡があって……」
HRの間にスマホを触っていたのはそれが理由か、と納得した。丁度友樹も遊びに来るので、リアラがいなくなって困ることは殆ど無い。
なので和樹は、
「いいよ、楽しんできたら。たまには羽根を伸ばすのもいいだろう」
「ありがとうございます。雫、あなたも行きますよ」
「ああ、そうだな」
そういえば雫もHRの時にスマホを触っていた。同じタイミングで茜がメールを送っていたのだろう。
リアラと雫は茜がいる教室の方に向かっていった。
「じゃあ男だけで帰るか」
「いちいち言うなよ、なんかむさ苦しくなるだろ」
いつもは一人で帰っている為、まだマシなのだが、こうして男が一人加わっただけでも、今の寒い時期にもかかわらずむさ苦しさが増す。やはり女の子という花が無ければどこか足取りも重たいものだ。
家に着き、取り敢えずお茶を友樹の分も入れてソファーに座る。
「やっぱり部屋綺麗だよな」
「おかげさまで」
リアラのおかげで部屋はいつも綺麗。誰を呼ぼうと恥ずかしくない部屋となっている。
「それで、何すんの?」
「ガールズブレイカー」
「俺雫当ててからまじでログインしかしてないんだけど……まあやるか」
久しぶりにガールズブレイカーをプレイする和樹。ログインしかしていない和樹は当然腕もなまっていて、友樹にボコボコにされた。
「駄目だ、勝てない……」
「LR当たってても使えないもんな」
「他のゲームしよう。……サッカーでいいか」
普段はリアラとレースゲームをする事が多いが、今回はサッカーゲームをする。
テレビとゲーム機の電源をつけ、リモコンを友樹に渡す。
「どっちが勝ち越してたっけ」
「いや、確か24勝24敗3引き分け、互角だ」
和樹と友樹のサッカーゲームは、どちらかが負けると、その次は負けたほうが勝つ。それの繰り返しで一向に差が開かなかった。今日こそ差を開かせてやろうと張り切ってゲームをする。
それでも結局変わらずに、点を決めては決め返され、負けたら勝つの繰り返し。4回やってまた勝ち負けは同じとなった。
「はぁ……またかよ」
「多分一生差は開かないぞこれ……」
そろそろゲームも飽きてきた頃、時刻は午後7時。既に外は真っ暗だった。
「もうこんな時間か、そろそろ帰ろうかな」
「なんだかんだ来週テストだしな」
「思い出させるなよ……てか和樹は余裕そうだな」
「最近は勉強してるからな。友樹は大丈夫なのか?」
「……あは」
「あはじゃねえよ、早く帰って勉強しろ」
友樹は毎回テストは赤点ギリギリな事が多いので、本音を言えば今からでも勉強を始めてほしいものだ。いつもはギリギリになってから勉強を始め、教えてくれと言ってくるので、それなら早めに勉強をすればいいとは言っている。
「今回は結構やばいんだよな、また教えてくれよな」
「わかったから、早く帰って勉強しろ」
「おう、また明日な」
友樹は急ぐようにして帰って行った。
「リアラもう帰ってくるかな」
リアラは誰に襲われようとも倒せるので大丈夫だろう。だけど一応心配なので迎えに行く準備をしようとしたが、ガチャッと玄関の扉が開く音が聞こえた。
「ただいま帰りました」
「おう、おかえり。言ってくれたら迎えに行ったのに」
「……今からまた出かけますね」
「なんでだよ」
何はともあれ無事に帰ってきたので問題はない。
明日はバレンタインデー。明日の学校はより一層ギスついた空気になるだろう。
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