第4話 メイドを外に連れて行った
リアラの頭を撫で終わった頃、時刻は午後1時過ぎ、冷蔵庫に食べ物が残っていないので、買いに行こうと思っている。
「そう言えば、リアラってメイド服しか持ってないの?」
「申し訳ございません、このメイド服しかありません」
本当にメイド服しか持ってないようで、リアラは申し訳なさそうに謝る。
「謝らなくていいよ、いきなり召喚されたんだから仕方ないし」
とはいえ、リアラにも買い物にはついてきて欲しい。この辺りの地形を理解してほしいのが理由だ。今後も一緒に出かけたりすることも増えるだろう。
だが、メイド服のまま外に行ってしまえば注目されてしまうのは間違いない。
自分の服を貸すにも、サイズが合わないだろう。
「うーん、どうしようか。下着とかも買わないといけないし……」
スリーサイズを聞くという考えもあるが、女の子のスリーサイズをそう簡単に聞いていいものか心配だ。リアラなら言ってくれそうだが、何だか申し訳ないと思うので却下。
「もういいや、一緒に行こう」
和樹は考えることをやめた。財布を持ってリアラと家を出た。
「本当によろしいのですか?」
「構わない、どうせリアラの事が周りにバレるのは時間の問題だしな」
和樹とリアラが向かっているのは近くにあるショッピングモール。服と食材を買いに行くためだ。荷物が多くなるかもしれないが、最悪何処かで外食すればいいだけなので問題はない。
「寒くないか?」
「問題ありません」
ショッピングモールには電車で二駅先の所にある。駅に行く途中もリアラは注目されていて、「何あれコスプレ?」「あの子滅茶苦茶可愛いぞ」と声が聞こえてくる。
なかには、「あれリアラじゃないのか?」とガールズブレイカーを知っている人がリアラのことを見ている。
だが、現実にゲームのキャラはいないという先入観から、リアラの存在がバレることはなかった。
「案外バレないもんだな」
「お友達にはバレましたけどね」
「あれはしょうがない、それに友樹と茜は口が堅いから大丈夫だろ」
基本的に友樹と茜は人の秘密をバラすような人じゃない。なのであの二人は信頼している。
そして電車に揺られること数分、和樹とリアラはショッピングモールに到着した。
「ここがショッピングモール……大きいですね」
「こっちの世界も馬鹿にしたもんじゃないだろ?」
「そうですね、素晴らしいと思います」
こっちの世界に始めて来たリアラは興味深そうにショッピングモールの全体を眺めていた。
「と言うかゲームの中でショッピングモールとか無かったっけ?」
「召喚されてからは、私がゲームのキャラと言う事と、家事や食材に関して、その他は大まかにしか理解していませんので」
ゲームにはストーリーでリアラも登場していて、その中にはショッピングモールなど、こっちの世界と同じようにあったが、どうやら記憶は無くなっているらしい。
「まあいいや、こっちにはゆっくり慣れていったらいいよ、行こうか」
「はい」
ショッピングモールの中に入ると、やはり注目を浴びてしまう。気にしててもきりがないので、洋服店にまっすぐ向かう。
「そこのお姉さん、なんでコスプレしてんの?てか可愛いね」
注目を浴びるとは思っていたが、面倒くさい奴にも遭遇してしまった。まさしくラノベみたいな展開になってしまった。二人組のチャラそうな男達はリアラに話しかける。
「こんな陰キャ置いといて俺らと行こうよ」
そう言ってリアラを連れて行こうとする男達。だが問題はないだろう。リアラはゲームのキャラで、それも、戦闘が主な内容のゲームのキャラなのだから。
逆に男達が怪我をしかねないので、和樹は忠告する事にした。
「あの、やめといたほうが身の為ですよ」
和樹は優しさから忠告したのだが、そんな事は知りもしない男は、和樹を押し飛ばした。
「うっせえんだよ、陰キャは黙ってろ。さあ、行くぞ」
特に痛くもなかった和樹は、すぐに起き上がる。和樹はこの男達に同情した。何故ならこれから男達に想像もしない事が起こるのだから。
リアラは手を掴んでこようとする男の腕を掴み、見事な一本背負いを決める。
受け身をとれなかった男は体を強打した。
「ぐはっ!?」
(あ〜あ、だから言ったのに)
「私の和樹様に何してるんですか?」
リアラは倒れている男を睨みつける。男は完全に震え上がっていて、怯えている。
「早く答えてください」
リアラは男の胸ぐらを掴み、更に怖い表情をして睨みつける。既に男は怖がりすぎて言葉が出ていない。
「リアラ、もういいよ。目立ってるし」
「……」
リアラは掴んでいた手を離し、男に笑顔で話しかける。
「次近づいたら殺しますよ」
リアラ程の強さなら本当に殺しかねないが、男達は完全に怯えていて、逃げるようにこの場を去って行った。
周りからは、「あの人すげぇ!」「お姉ちゃんカッコいい!」と声と拍手が聞こえてくる。
「流石にやりすぎましたね、行きましょうか」
「そうだね」
何事も無かったようにリアラは和樹の横を歩いている。
(……怒らせないようにしよ)
怒らせると勝てるわけがないので、リアラには絶対優しくしようと心に誓った和樹だった。
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