第3話 最高のメイドだった
友樹と茜を部屋に入れた和樹は、リビングで対面して座っている。テーブルには、リアラが入れてくれたお茶と、友樹が持ってきたお菓子が置かれている。
リアラは和樹の隣に座っており、その距離はほぼゼロ、ピッタリとくっついている。
「ちょっと近くない?」
「適切な距離です」
「いやでも」
「適切な距離です」
何を言おうと和樹から離れようとしないリアラ。
「それで?どういう事か説明してもらおうか」
「そうだよ和樹君、どういう事?」
どういう事と言われても、急に現れたとしか説明できない。状況はかろうじて理解したが、リアラが現実に出てきた事を説明するのは不可能だ。
「なんか、朝になったらいたんだよ」
「何でだよ」
「知らねえよ」
何でだよと言われても、そうとしか言えない。リアラも和樹の情報と、ここに召喚されたという事しか知らないのだから。
「てか本物なの?」
「本物らしい。ゲームでもガチャの排出からリアラ消えてるし」
友樹と茜はその事を知らなかったようで、スマホでゲームを起動して、確認する。
「ほんとだ、消えてる」
「私も一覧から消えてるよ」
「だろ?」
「不思議なものですね」
一番存在が不思議な人がその言葉を使うのはどうなのだろうか。
ともあれ何とか本物だと納得した友樹と茜。
「と言うことは、世間で騒がれてるだろうな」
「そうだね、リアラちゃんが消えちゃったんだから」
リアラが消えた。かなり有名なゲームのガールズブレイカーは、世間で騒ぎが起こっていた。
和樹はネットニュースを確認してみた。すると、
「あ、マジじゃん」
『遂に!ガールズブレイカーからリアラが当てられた!』とネットニュースに書かれていた。やはりリアラは和樹が当てた、一人限定のキャラだったようだ。
「そりゃこうなるよ、課金者が、どれだけ金つぎ込んでも当たらないからな」
「和樹君人生の運使い果たしたんじゃないの?」
確かに0.000001の確率を当ててしまったことは、一生分の運を使ったとも言えるだろう。
「いいよ、リアラが現実にいるってだけで俺はどうにかなる!」
和樹からすれば運を使い果たした事などどうでも良かった。リアラが隣りにいるという事実は変わらないのだから。
「……じゃあ改めて、和樹の友達の友樹だ、よろしく」
「同じく友達の茜です、よろしく!」
「こちらこそよろしくお願いします」
リアラは和樹の時と同じように丁寧に頭を下げた。これがメイドたる所以ということだろう。
「じゃあ何して遊ぶ?」
「取り敢えずゲームでいいだろ。てか家に来たらそれぐらいしかない」
和樹はテレビの電源をつけて、家庭用ゲーム機にレースバトル系のソフトをセットする。
「リアラもやってみるか?」
「私もですか?」
「そんなに難しくはないし、操作方法は教えるから」
「そうですね、私もゲームに興味がありましたので」
和樹はリアラにコントローラーを渡し、操作方法を教える。それをリアラは興味深そうに聞いていた。
一通り教え終わり、1レース目を開始する。このレースゲームはコースにアイテムが置かれており、そのアイテムで他のカートを攻撃することもできる。
「あっ!ずるいぞ和樹君!」
「一位は俺が貰う」
和樹はアイテムの甲羅を茜のカートに当てて、一位に躍り出た。
ふとリアラの事が気になった和樹は横目でリアラを確認した。
(何これ可愛い!)
リアラは自分のカートが曲がる時に、一緒に体も傾けていた。本人は体が傾いていることは気がついておらず、その仕草がなんとも可愛く見える。
リアラに夢中になっていた和樹は、
「よっしゃ!一位いただき!」
「あっ!」
和樹のカートに爆弾を命中させた友樹がそのまま一位でゴールした。リアラはまだ操作に慣れておらず、最下位になっていた。
その後も何レースかしたが、リアラが一位を取ることはなかった。
「和樹様、また一緒にやりましょう」
「そうだな、いつでも相手になるよ」
リアラは結構な負けず嫌いだったようで、またやりたいと言ってきた。
「じゃあもう昼だし帰ろうかな」
時間を見れば、いつの間にか12時になっていた。
「お邪魔しました」
「お邪魔しました!またねリアラちゃん」
そう言って二人は帰っていった。
和樹は朝食も食べていなかったので、かなりお腹が空いていた。どうしたものかと冷蔵庫の中身を見た。大したものもなく、あるのは炊飯器に残っている米と、卵が4つ、玉ねぎが半個分だけだった。
「オムライスでもするか……でもあんまり得意じゃないんだよな」
「私が作りましょう」
いつも自分で作っていたこともあり、リアラに頼むという選択肢を忘れていた和樹。
「いいのか?」
「私は和樹様のメイドなのですから、遠慮せず何でもお申し付けください」
「じゃあ頼んでもいいかな」
「お任せください」
リアラは手際よく玉ねぎを切っていく。和樹は自炊はするものの、別に料理が得意というわけではなかったので、リアラがこうして料理をしてくれるという事は嬉しく思っていた。
そしてあっという間にオムライスが二人分完成した。和樹は半熟のオムライスが好きだったので、何も言っていないのに注文通りに料理が来たことに驚く。
「おお、半熟だ」
「半熟がお好きでしたよね」
「本当に知ってるんだな。注文通りだよ」
「お口に合えばいいのですが」
「いただきます」
オムライスを口に運ぶと、和樹は驚いた顔をした。
「美味い、店で出せるレベルだ」
「それは良かったです」
リアラが作ったオムライスは、そこら辺の店とは比べ物にならないほど美味だった。流石メイドと言ったところだろう。
お腹が空いていた事もあり、すぐにオムライスは和樹の腹の中に消えていった。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
食器を運んでくれるリアラ。和樹はソファーに座って、改めてリアラについて考えていた。
「やっぱりメイドなんだなぁ。……こんな美人が俺のメイド……」
「はい、和樹様のメイドです」
「うおっ!?」
いつの間にか食器を洗い終えていたようで、リアラは和樹の後ろにいた。
リアラはすぐに和樹の横に座った。
「他に何かして欲しい事はありますか?」
そう言われて和樹は少し考える。とは言っても特にしなければならない事は無かったので、
「いや、大丈夫だよ」
「そうですか」
しばらく沈黙が続く。案外こんな時間も悪くないと和樹は思う。この時もリアラは和樹にピッタリとくっついている。
和樹はふと思いつき、
「なあ、頭撫でてみてもいいか?」
リアラは少し驚いたような顔をしていたが、
「どうぞ」
控えめに頭を差し出してくれた。その艷やかな銀髪の頭を和樹は優しく撫でる。
(いいな……ずっと撫ででいたい感じだ)
サラサラな頭の感触はずっと撫でていたいと思える程のものだった。和樹はこれまで彼女ができた事が無く、見た目の事もあり、あまり女性に触れることが無かった。
だがこうしてメイド兼彼女のような存在のリアラがいる。不純な動機が全くないと言えば嘘になるが、単純に撫でてみたいと思ってしまった。
撫で続けていると、
「和樹様の手、温かいです」
そうして更に体を寄せてくるリアラ。自分を受け入れてくれていることを嬉しく思った和樹は、しばらくリアラの頭を撫で続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます