第42話 

 映画の放映時間の5分前に映画館に着いた和樹とリアラは、ポップコーンとジュースを買って映画館の中に入った。

 本編が放映されるまでは、ポップコーンを食べながら待っていた。


 今回見る映画は世間でも有名なアニメの続きが映画となっており、そのアニメは和樹も観ていて、期待しながら観ていた。

 リアラにもそのアニメを見せた事があり、予想とは違って面白そうに観ていた。

 しかし最後に主人公とヒロインが恋人同士になり、キスをするシーンがあった。かなり情熱的なキスだった為、和樹は少しいたたまれない気持ちになった。

 放映が終わり、照明がついた時に和樹はリアラの顔を見た。リアラも少し恥ずかしそうに顔を赤らめている。


「……行こっか」


「そ、そうですね」


 二人は落ち着かない気分のまま映画館を後にした。


 次に向かったのは、予定を組んでいた通りゲームセンター。

 リアラはゲームセンターに来るのは初めてのようで、


「何というか、騒がしいですね」


「まあ、基本音がでかいゲームが多いからな」


 これをうるさいと思う人もいるだろうが、これもゲームセンターの醍醐味でもある。

 和樹は小さい頃に美代子と和真とゲームセンターに来た時はよくエアホッケーをやっていたので目新しさは無いが、リアラはゲームセンターは初めてなのでどのアーケードゲームも興味深そうにして見ていた。


「あれは何ですか?」


「ん? ああ、エアホッケーだな。確かスマッシャーだっけ? あれをパックを打ち合ってゴールに入れるんだ。得点が高いほうが勝利」


「なるほど……面白そうですね」


「やってみるか?」


「はい」


 正直リアラとこういう反応が物を言うゲームで勝てるとは思っていない和樹だが、リアラがやりたそうにしている以上、やらせてあげたい気持ちが勝つ。

 和樹は規定のお金を入れて、スマッシャーを持った。


「よし、やるか。先に打っていいぞ」


「良いんですか?」


「ああ」


 リアラがパックを打つとどれほどの威力になるか見てみたい気持ちが和樹にはあった。


「ふっ!」


 リアラがパックを打つと、いつの間にか台からパックは消えていた。和樹は唖然としていると、自分の方にある穴からパックが出てきた。


(み……見えねえ!)


「リアラ……悪い、見えない」


「す、すみません、加減したのですが……」


(うん、勝てないな)


 その後、リアラは最初よりもかなり手加減してパックを打っていたが、和樹は1点も取ることができなかった。

 ここまで反応できないとなると、流石に面白くないだろうと和樹は申し訳なく思ったが、この差は和樹がどれだけ練習しようと埋まる差ではないので、これはある意味リアラがこのゲームに向いていないとも言える。


「ごめんな、つまんなかっただろ?」


「い、いえ、そんな事は……」


 リアラも申し訳なさそうにしているが、リアラがそんな事を思う意味は無い。これは現代のゲームがリアラに適応して無いのが悪いと、和樹は勝手に思った。

 次は太鼓を流れてくる色のついた丸に合わせて叩くリズムゲーム、太鼓の名人をプレイした。

 リアラは適当に難易度を選んで、その難易度は鬼になっていたが、リアラの反応速度にかかれば流れてくる音符は遅すぎた。

 結局、リアラは初見にもかかわらずフルコンボをやってのけた。音声も「フルコンボだぜ!」と祝福している。


(もう驚かないぞ……)


 もうこの世にあるゲームは殆どリアラには適応していない。強いて言うならば、コインゲームとクレーンゲームぐらいだろう。

 あらかたゲームを遊び尽くした後、和樹は最後にクレーンゲームをする事にした。これならリアラもアームには干渉する事はできないので楽しむ事ができる。


「和樹様……あれが欲しいです」


 リアラの目線の先をたどると、可愛らしい猫のぬいぐるみがあった。


「やってみるか?」


「はい」


 リアラは以外にも可愛い物好きで、前に和樹がスマホを覗いたときは、猫の動画を観ていた。

 リアラは猫のぬいぐるみを取ろうとやる気充分。和樹はクレーンゲームのやり方を説明し、100円を機械に入れた。

 リアラはアームを丁寧に合わせるが、ぬいぐるみは取れない。その後も挑戦するが、ぬいぐるみは持ち上がりはするが、途中で落ちてしまう。


「難しいですね……これ以上は何故か沼にハマりそうなのでやめます」


 そう言って諦めるリアラだが、その顔は未だにぬいぐるみが欲しいと言っているようだ。


「よし、ここは俺がやろう」


 和樹はクレーンゲームは得意な方で、リアラが召喚される前は、一人で来た時には寂しくお菓子などを取っていた。

 ぬいぐるみの位置は、リアラがある程度動かしたおかげで、穴に近い位置にある。


(これなら端っこを持ち上げたらそのまま落ちそうだな)


 鍛え上げてきた技術はこの時の為にあったのだろう。作戦通りに穴とは逆の方にアームを合わせて持ち上げると、そのまま穴にぬいぐるみは落ちていった。


「はい、取れたぞ」


「……ありがとうございます、大事にしますね」


 リアラは優しく微笑んだ。和樹はその笑顔を見て、


(神様、俺にクレーンゲームの才能をくれてありがとう)


 そう心の中で思ったのだが、神にそう言ってしまうと、


(どういたしまして!)


(やっぱり出てくるのな)


(え〜最近暇なんだよ、相手してくれてもいいじゃん)


(俺はリアラとデートってやつをしてるんだ、邪魔するな)


(はいはい、まあ、今日の夜を楽しみにしててね、じゃあ)


 神の声は聞こえなくなった。


(夜を楽しみに? ……どういう事だ?)


「和樹様、どうされましたか?」


「いや……なんでもない。行こうか」


「はい」


 神の言うことを気にしてても仕方ない、と切り替えて和樹はリアラとショッピングモールを後にした。

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