第41話

 テスト明けの日曜日、和樹は和真が連載しているライトノベルを買いに行こうと、朝から外出している。

 テスト明けで羽根を伸ばそうと言う事でリアラと一緒に行くことにした。前にリアラの服を買いに行ったショッピングモールには映画館やゲームセンターもあるので、そこで本を買うついでに映画を見たりゲームセンターで遊ぼうと考えている。


「寒くないか?」


「はい、問題ありません」


 和樹とリアラは並んで駅に向かっている。リアラは周りに人がいるにも関わらず、和樹の腕をがっちりとホールドしていて、離れる素振りが微塵もない。


 和樹は流石に恥ずかしい為、「なあ、ちょっと離れない?」と提案するが、「嫌です」と言って離してくれない。それどころか更に密着してきて腕に柔らかい物が押しつぶされる。


(もうこれは否定するより慣れないと駄目だな……)


 確かに嬉しくないと言われれば完全に嘘になるが、和樹は自分の理性を抑えるので精一杯。

 

 正直知り合いに会わないかヒヤヒヤした和樹だが、バレる事なく駅に着いた。電車に乗ると、日曜日ということで電車の中は満員でかなり狭い。2駅差なのでそこまで時間はかからないが、次の駅に着いた時に更に人が乗ってきて、しまっている扉とリアラを挟む形になる。いわゆる壁ドン状態である。

 

 顔は殆どゼロ距離になっていて、和樹とリアラはどちらも顔を赤くしている。


「わ、悪い」


「いえ、少し恥ずかしいだけですし……もう少しこちらに寄ってもいいですよ?」


 耳元でそう言われて和樹は更に顔を赤くさせ、


「いや電車の中だし……」


 これ以上リアラの方に寄ると抱き着いているように見えてしまう。朝からイチャイチャを見せられてしまえば、電車に乗っている独り身の男からすると何だあいつと思われても仕方がない。


 結局和樹は何とか次の駅まで耐えて、電車を降りた。

 電車を降りたあと、リアラは和樹の手を優しく握ぎる。和樹からすれば知り合いにこの状態で会ってしまえば確実に噂になってしまうので少し遠慮してほしいところだ。

 それでもよく考えれば一緒に出かけている時点でリスクはあるため、和樹は諦めてリアラの手を握り返す。するとリアラは満足げに口元を緩ませる。


 ショッピングモールにつくと、和樹達は早速書店の方に向かう。

 リアラもライトノベルはよく読んでいて、和樹と感想を言い合ったりしている。


「リアラも読んでみたいやつがあったら選んでいいぞ」


「いいんですか?」


「俺も他に何冊か買おうと思ってたし、いいよ」


 リアラは「ありがとうございます」と言って、ライトノベルのコーナーに向かっていった。和樹は大体買う本は決めてきている為、ライトノベルではなく漫画コーナーに向かう。

 

「あ、これ面白そう。これも買おう」


 一冊面白そうな本があった為、和樹はその本も買う事にした。と言っても表紙だけを見て買っているので本当に面白いかは分からない。


 しばらく他の漫画も見ていると、リアラが一冊だけ本を持ってきた。


「これだけでいいのか?」


「はい」


 結局和樹とリアラは合わせて4冊の本を買った。リアラは一冊しか買わなかったが満足しているようだ。

 次にいつも見ているアニメが映画化されているので、それを見に行こうと思っていた和樹だが、その映画の放映時間が12時半。今の時間から1時間程ある為、先に昼食にする事にした。

 

 昼食はフードコードで丼物の店があったので、和樹達は親子丼を頼んで食べた訳だが、


「美味しいんだけど……何かなぁ……」


「そうですか?値段がかなり安いにしてはかなり美味しいと思いますが」


 確かにこの親子丼の値段は並盛で320円と破格の値段である。ただ和樹にとっては安いのは良いのだが、リアラの料理を食べ慣れている為に、物足りなさを感じていた。


「夜、親子丼にしよう」


「夜も食べるのですか?」


「リアラが作ったほうが美味い」


「ふふっ、わかりました」


 褒められて嬉しくなったリアラは、天使のように微笑んだ。


(このショッピングモールにも美人はいたが……リアラは規格外だ……)


 この笑顔を見て惚れないやつはおそらくいない。和樹の他にもリアラが微笑んだ様子を見て、夢中になって見ている人が沢山いた。


 そしてこの人混みで知り合いに会わない確率はかなり低い。その上テスト明けなので、学生は遊びに出かけていることも増えている。


「あれ? リアラさんじゃん」


「げっ……」


 偶然リアラの姿を見つけてしまったのは、彼女と一緒に昼食を食べに来た前園。彼女の名前は、和樹と同じクラスの斎藤さいとう綾音あやね。ショートカットの黒髪に端正な顔立ち。身長はかなり低く、野球部の前園とはかなり身長に差がある。

 何故彼女だと知っているのかは、普段から学校でも付き合っていると公開しているので、知らない訳がない。


 斎藤もリアラがいる事に驚き、


「ほんとだ! なんでリアラちゃんこんなとにいるの? それにこの男の人誰?」


 外出するということで、髪をセットしていた和樹だが、学校とは全くの別人に見えている為、前園と斎藤は和樹だと気づいていない。

 しかしリアラと一緒にいる以上どうせバレてしまうので、和樹は正体を明かすことにする。


「あー……俺、宮本だけど」


「「えっ……」」


 その表情は信じられないと言っているように見えた。


「あの宮本?」


「嘘……宮本君なの?」


「……一応、はい」


 すると前園は再度驚いたように、


「マジかよ、宮本こんなイケメンだったのか」


「凄っ、髪の毛整えたらこんなイケメンなんだぁ! カッコいい!」


 前園と二人でいるので、おそらくカップルという事が分かる。それなのに他の男を褒めててもいいのだろうかと、和樹は少し不安に思う。


「てかリアラさんと一緒にいるのは何で?もしかして付き合ってんの?」


(やっぱり聞いちゃいますよねー)


 ここまで来ると隠しようが無い。それでも和樹は苦し紛れに言い訳を考えてるが、


「はい、付き合っていますよ」


(えっ? そんなあっさり言っちゃう?)


 リアラはあっさりと付き合っていると言ってしまった。確かに言い訳をしてもこの状況じゃ無駄だと思うが、必死に言い訳を考えていた和樹は唖然とした。


「まあ、こんなイケメンなら付き合っててもおかしくないよな」


 簡単に納得してしまう前園。これ以上バレるのを避けたい和樹は、


「学校では言わないでほしいんだけど……」


「ん? 別に宮本がそう言うなら言わないけどさ」


 こいつはいいやつだ、と和樹は心の中で思った。取り敢えずこれ以上バレる事はないので一安心だ。


「ねえ、ここで一緒に食べていい?他に席が空いてないの」


 休日と言う事もあり、フードコードの席は和樹の場所以外空いていなかった。

 嫌というわけにもいかないので、


「俺はいいよ。リアラは?」


「私も構いませんよ」


「いいのか? 悪いな」


 前園と斎藤は荷物を置いて、和樹達と同じ丼物の店に注文しに向かった。

 しばらくして戻ってきた前園と斎藤は隣の席に座った。


「いやー、どこも席空いてなかったから助かったわ」


「休日だからな。俺達も偶然空いてた席に座っただけだし」


「けどリアラちゃんと宮本君が付き合ってるとは思わなかったよ。いつから付き合ってるの?」


 正直付き合ってるかすら曖昧な関係の和樹とリアラ。いつから付き合っていると聞かれても返答に困る。


「編入する前からです。日本に来た時に優しくしてくれましたので」


 リアラは臨機応変に答える。今の状況では妥当な答えだろう。


「なるほどね〜。リアラちゃんはどこに住んでるの?」


 これもまた和樹にとっては答えにくい質問。普通こんな時の為に適当な言い訳を考えておくはずだが、和樹はすっかり忘れていた。

 しかしこれに対してもリアラは、


「ホームステイで一緒に住ませていただいてます」


 あっさりと同居している事を暴露してしまった。ここまでになるとどうせいつかはバレるので仕方はないと思うが、ここまであっさりと言ってしまうので、和樹は言葉が出ない。


(俺が喋ってもドジ踏みそうだし、リアラに任せよう)


 返事は殆どリアラがしているので、和樹は返事を任せる事にした。


「なんか運命的だな」


「けどみんなリアラちゃんが付き合ってる事知らないよ?何で言わないの?」


「それは……」


 流石のリアラも答えにくい質問がきて言葉をつまらせる。リアラの召喚された経緯を話そうにも理解されるはずが無い。


「まあ色々あるんだろうぜ? あんまり詮索しても悪いだろ」


(前園……お前本当にいいやつだな!)


 和樹の中で前園の株価が急上昇していく。


「そうだね、ごめんねリアラちゃん」


「いえ、大丈夫ですよ」


 そこから料理を食べ終わるまでは、学校での事など、色々な事を話した。前園と斎藤は、和樹とリアラの関係についてこれ以上深い事は聞いてこなかった。

 人と関わる事を避けていた和樹は、今まで関わらなかったことに少し後悔する。


(何か悪くないな、こういうのも)


「……あっ! やべっ!」


「ん?どうしたの?」


 和樹はスマホで時間を確認した。すると、映画が始まるまであと7分になっていた。


「映画を見る予定なんだ、だから悪いけどもう行くわ」


「そうか、じゃあまた明日な」


 和樹とリアラは食器を店に戻して、映画館へと急いで向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る