第40話
勉強会の次の日からテストが始まった。テストは4日間で、余裕を持って勉強していた和樹は、今までのテストよりも解ける問題が圧倒的に増えていた。
正直テストが終われば早めに帰れるというのが、このテスト週間のメリットと言える。
早く帰れば、各自勉強したり、テストは余裕だからと遊んだりする奴もいる。和樹の場合は、1日目のテストでそれなりに問題が解ける事が判明したので、テスト週間は少し勉強をしては、ゲームをしたりスマホを見たりリアラの頭を撫でたりして休憩を挟みながら過ごしていた。
そしてあっという間に4日間のテストは終わり、肩の荷が下りた。
他の生徒達もテストが終わって一安心といったところで、遊びの予定やら、彼女がいる奴はデートの予定やらを立てていた。
「リアラ、テストはどうだった?」
「正直に言ってしまえば余裕でしたね」
「だろうな。俺、今回結構勉強したのに」
和樹とリアラは土曜日に出かける予定を立てていたので、テストが終わった日は家でゆっくりしていた。
「それで……」
「どうかしましたか?」
「なんで俺膝枕されてんの?」
テストが終わって家に帰ると、和樹はリアラに強制的に膝枕をしてもらう事になった。
程よく筋肉がついていながら、その枕よりも柔らかい感触でとても心地いい。これはいつまでも膝枕されていたいという気持ちになってしまう。
「勉強を頑張られていましたので、ご褒美です」
「……頑張っててよかった」
このご褒美を貰えるのなら勉強を頑張った甲斐がある。むしろお釣りが来るぐらいだろう。
正直言ってリアラなら頼み込めばいつでもしてくれそうだが、それだと少しありがたみが薄くなってしまう。こうしてたまに膝枕をしてもらうのがいいのだ。
和樹はその太ももの感触を堪能しているうちに、ウトウトし始め、しまいには寝てしまった。
―――――――――――――――
「……んっ……」
何か顔に柔らかい物が当たったような気がして、丁度その時に目を覚ました和樹。目を開けると目の前に殆どゼロ距離のリアラの顔があった。
「うおっ!?」
「目が覚めましたか?」
「ん……悪い、気持ちよくて寝てしまった。足痛くないか?」
「問題ありません。寝顔を堪能できましたので」
リアラはそう言って可憐に微笑んだ。
はっきりと言われて、和樹は流石に恥ずかしくなり、顔を背ける。
稀に顔を赤くする事はあるが、殆ど表情に出さないリアラに、和樹はいつも少し負けた気分になる。
「少し早いですけど、夕食の準備をしますね」
和樹はどうやら帰ってから5時間程寝てしまっていたようで、既に夕食を食べてもいい時間になっていた。誰かがその現場を見ていれば寝過ぎだろうと思うだろうが、それほどリアラの太ももが気持ち良かったのだ。
「ん? 誰だ?」
和樹が起き上がったところでインターホンが鳴った。時計の針は6を指している。この時間はあまり人が来ないので、少し身構えてしまう。
覗き窓を見ると、思いもしない人物がいた。
(優花……)
何故こんな時間に来るのだろうと疑問に思った和樹。そもそももう関わるなと言ったのにも関わらず、訪問してきたという事は何か重要な事でもあるのだろうか。
もしかすると何か変な事をされるかもしれないので、和樹は恐る恐る玄関の扉を開けた。
「優花、どうしたんだ。もう関わるなって言っただろ」
「……こんな時間にごめんなさい。……話があるの」
和樹は戸惑いを隠せなかった。普段の偉そうな態度とは違い、しおらしい態度になっていた。
声も自信なさげに小さい声で、普段の優花とはまるで別人のようだった。
「どうして急に……」
「……神について知ってる?」
「なっ……」
優花は神と話したときに、神が和樹の名前を出したことから、和樹も神の事を知っているのではと推測した。
和樹は、何故優花が神の存在を知っているのかと驚愕の声を漏らす。
「やっぱり知ってるのね……私、神と話したの」
「……分かった、ここにいても寒いし、入れよ」
神が何故優花に接触を図ったのかは分からない和樹だったが、いつまでも外で話をするわけにもいかないので、優花を部屋に上げた。
そこで和樹は思い出す。優花はまだリアラが和樹と一緒に住んでいる事を知らない。
だが今更やっぱり出ていってくれとも言えないので、どうするか悩んでいると、
「和樹様? どうかされ……あなたが何故ここに」
心配して見に来たリアラと優花が鉢合わせてしまった。
「あなたは編入生のリアラさんだったわね、何故ここいるの」
どちらも何故ここにいるのかと思考がシンクロする。なかなかややこしい状況になってしまった。
「……取り敢えず後で全部話すからいこう」
廊下で話してても埒があかないので、和樹は優花をリビングに連れて行った。
リビングに入り、優花を椅子に座らせて、和樹はその正面に座り、リアラは和樹の隣りに座った。
和樹はまず自分が神と出会った経緯を話し、リアラが何故ここにいるのかも全部説明した。以外にも優花はその話を信じたようで、納得した表情をしていた。
「これで俺が話すことはない。それで……話って?」
和樹の話が終わり、早速本題に入る。そもそも優花がここに来たのは、和樹とリアラの説明を聞く為ではなく、優花が話があると言ってここに来たのだから。
「……本当はもっと早く来るべきだったと思うけど……。今までの事を謝らせてほしい、ごめんなさい」
そう言って優花は頭を下げた。
そこに今まで見ていた優花の姿はなく、本当に心から謝罪しているような態度と声。おそらく神と話をした時に、自分の考えを改めるきっかけがあったのだろう。
「私、事故の後色々考えていたの……そしたら神って名乗る人がいきなり現れて……」
「……それで?」
「和樹に甘えてるだけのクズって言われたわ……私もそれを言われてやっと自分が間違っている事がわかった。……だから、ごめんなさい、今まであんなに酷いことして……」
優花の目から涙が流れた。
「本当はもっと早く来るべきだったのに……私、合わせる顔がないって思って会うのが怖かった……」
「……」
「許してくれないんじゃないかって……それでも、私がしてきた事は本当に最低だったから、やっぱり謝らなきゃって……また、やり直せないかなって……」
「……わかった、もういいよ」
和樹はまさか優花がここまで反省して謝ってくるなど思っていなかったので、こうして泣きながら謝罪してくる優花の姿が信じられなかった。
それでも聞いているうちに、この涙を流しながら話す優花は、本当に心から悪いと思っている事が感じられたので、和樹は許すことにした。
「優花の気持ちはわかった。許すよ。俺も酷いこと言って悪かった。優花がこうなったのは俺のせいでもある、本当にごめん」
「な、なんで和樹が謝るのよ、私が酷いことしてただけなのに」
「俺がいつまでも弱いままだったから……優花は間違いに気付けなかった。だから、ごめん」
「そ、そんなの私が我儘だったんだから仕方ないじゃない……和樹に謝られたら私、どうしたらいいか分からないわ」
優花は泣きながらも和樹の言葉に困惑する。
「……まだ話はあるのか?」
「……やり直せないかって言ったけど、私、しばらく和樹に関わらないようにする」
「えっ……」
優花の口から出た言葉に、和樹は驚きを隠せず声が漏れた。リアラもそれは同じだったようで、和樹と同様に驚いていた。
「このまままた関わってもきっとまた和樹に甘えてしまうから。だから、もっと落ち着いてから……また和樹がやり直してくれるなら、また一緒に遊んだり喋ったりしたい」
「……そうか……わかった、じゃあ俺も優花に関わらないようにする」
「うん……じゃあもう帰るね。これ以上いると甘えてしまいそうだから……今日はありがとう、話聞いてくれて」
優花は椅子から立ち上がり、リビングの扉に手をかけた後、
「……また、ね」
そう言ってリビングから出ていった。それに続いて和樹も玄関に向かったが、既に優花の姿はなかった。
「和樹様……」
和樹がリビングに戻ると、何やら複雑な表情をしたリアラがいた。
「なあ、リアラ」
「なんですか?」
「俺、最低かもな……」
「なっ……なぜそんな」
「だって俺、優花がしばらく関わらないって言った時、昔の事を思い出したのかわからないけど、少し安心したんだよ……話したくないとも、少し思ったりしてた」
「和樹様……」
リアラが見た和樹の顔は、悲痛の表情が感じとれ、目から大粒の涙が溢れていく。
「もっと他に言う事もあったはずなのにな……優花はちゃんと反省して、嫌われてるのも覚悟して来たのに……俺は……」
「……」
「俺は……何も変わってない……弱いままだ……」
和樹は自分の弱さに腹が立ち、歯を食いしばりながら涙を流し続ける。
「……和樹様」
しばらく和樹の様子を見たリアラは、和樹の背中に手を回して優しく抱き締めた。
和樹の表情を見て、すぐにでも壊れてしまいそうだったから。
「リアラ……」
「……私は和樹様の味方です。それはたとえどんな事があっても変わりません」
「……」
「たとえ和樹様が道を踏み外しても、私は正しい道へ戻します」
「……」
「まだそうやって優花さんの事を考えれる事だけでも立派だと思います。同じ立場でそんな考えにならない人のほうが多いでしょうから」
「……っ……でもっ!」
「優花さんが覚悟を決めたのですから、和樹様も、覚悟を決めなくてどうするんですか?」
「……それを言われると、痛いな」
「またやり直せますよ。和樹様なら」
「……そうかな……」
和樹はリアラの顔を見て、確認するようにそう言った。
「はい……多分ですけど」
「そこははっきり言ってくれよ……」
「私にはわかりかねますので……これは和樹様の問題ですから」
「……そうだな」
和樹は少し考えた後、リアラから離れた。その表情は少し吹っ切れたような感じに見える。
「ありがとう、リアラ」
「ふふっ、泣いている和樹様、可愛かったですよ」
「からかうな! ……風呂入ってくる」
「はい、私もすぐに行きますね」
「いや来るなよ……」
冗談を言って和樹とリアラは笑いあった。案外こんな冗談を言ってくれたほうが助かったりする。不安な心を少しでも和らげてくれるからだ。
リアラは和樹の様子を見て、もう大丈夫だろうと思い、納得した表情でキッチンに向かっていった。
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