第39話

 テスト前の日曜日。その日は和樹の家で勉強会をする事になっていた。

 勉強会をする理由は友樹、茜、雫の三人がメインとなる。リアラは間違いなくテストは赤点を取らないだろうし、和樹に関しても普段もそれ程点数は悪くない。リアラが来てからはより勉強に力を入れているため、赤点はまず無い。


 勉強会は10時頃から行う予定なので、和樹は今日だけ9時頃まで寝ていようと考えていた。

 だがそんな考えは思わぬ形で崩れ去る事になる。


(……ん……んむっ?……な、なんか苦しい、それに何か柔らかい感触が……はっ!?)


 謎の息苦しさにより目を覚ました和樹。目を開けるがその視界は何かにより遮られている。そして、その顔に感じる柔らかい感触。

 

(リ、リアラ!?いつもは俺よりも先に起きてるのに。てか近いし柔らかい!)


 リアラ普段くっついては来るが、これ程までに和樹を抱き締めて眠っていた事は無い。

 

「んっ……」


 柔らかい感触な脳がパンクしそうなところで、リアラの目が覚めた。


「……あっ、す、すみません。遅くなってしまいましたね」


 和樹より目覚めるのが遅かったリアラは申し訳無さそうにして、すぐに起き上がった。


「いや、別に疲れてる時もあるだろうし、そんな事で謝らなくても」


 普段からリアラに甘えているのは和樹だ。リアラに疲れが溜まるのは当然の事で、それを和樹がとやかく言う事はできない。


「い、いえ、疲れが溜まっているわけではないのです」


「ん?そうなのか?」


「は、はい、問題ありませんので、すぐに朝食を作ってきますね」


(い、言えません。夜抱き着いたまま匂いを嗅いでてドキドキして眠れなかったなんて……)


 リアラは顔を赤らめながら寝室を出ていった。出会ったばかりの頃はまだ余裕があったリアラだが、今は少しドキドキしたりする事も増えた。

 和樹はリアラが考えている事などつゆ知らず、何故慌てていたのだろうと考えを巡らせる。


「……まあいっか」


 時間を確認すると、8時30分。予定より少し早く起きているが、早起きするに越した事は無い。


「さて、今日も頑張りますかね」


 テスト前の最後の確認も兼ねている勉強会で、和樹はより点数が上がる事を期待していた。



 ―――――――――――――――



「お邪魔するぞ」


「邪魔するなら回れ右」


「酷っ!?」


 なんて冗談を言い合う友樹と和樹。冗談と分かっている友樹は、反応しておきながらも自然に靴を脱いでリビングに向かって行った。


「お邪魔しまーす!あ、やっほー雫ちゃん!リアラちゃん!」


「やあ、おはよう茜」


「おはようございます、茜さん」


 朝から元気なのは茜。雫は家が隣と言う事もあって、先に来て勉強を始めていた。

 5人ともなるとテーブルが少し狭くなるのではと考えていた和樹だが、そんな事はなく、案外5人が勉強の道具をテーブルに置いても、そこまで詰め詰めと言う訳ではなかった。


「さて、やりますかね」


「珍しく気合入ってるな」


「今回赤点は洒落にならないからな」

 

 友樹は言葉通りかなり気合が入っているようで、早速問題集とにらめっこを始めた。


 1時間程各自で問題を解いていたところで、茜は英語の問題集で分からないところをリアラに聞いていた。正直この中で分からない事があれば、リアラに聞けばなんとかなる。運動もできて頭も良い、完璧美少女である。


「なあ、和樹」


「どうした?」


 和樹に声をかけたのは雫。テーブルには茜と同じく英語の問題集を広げていた。


「すまない、教えてほしいのだが」


「ああ、いいぞ」


 問題集を見てみると、あまり進んでいなかった。雫なりに自分で考えたが、分からずに時間が経ってしまったのだろう。


「普段は勉強できそうな雰囲気はあるのにな」


「そ、そうか?でも実際はこれだからな……」


「誰でも苦手な事はある。克服すればいいだろ?」


 和樹も中学まではあまり勉強は得意ではなかった。と言うよりもあまり勉強に関心が無かったという方が正しいだろう。

 高校に入る前に流石にまずいと思った和樹は勉強をするようになった。すると思ったよりも点数が良くなっただけだ。


「……そうだな」


 和樹は雫が分からないところを丁寧に教えた。雫はそれを真剣に聞いていて、ふむふむと頷いていた。

 教えた後、雫に問題を解かせてみた。さっきまでは分からないと言って頭を抱えていたが、


「どうだ?」


「……うん、あってるよ」


 思いの外理解力が雫にはあったようで、全問正解していた。


「ほ、本当か?」


「ああ、スペルミスもないし、このまま次の問題をやってみよう」


「ああ!」


 問題を解けたのが嬉しかったのか、雫は顔をほころばせていた。


 そうして雫の勉強を見ていたところで、和樹は最も勉強ができない奴の存在を思い出した。

 その勉強ができない奴の方向を見ると、


「やべぇ!マジで分かんねえ!」


 予想通り友樹は、問題とにらめっこしながら嘆いていた。

 仕方なく和樹は、昼食の時間まで友樹の勉強を見てやった。


 昼食を食べ終わった後も、各自で勉強に取り掛かる。が、2時間程問題集を解いていたところで茜が、


「はぁ!もう駄目、集中力切れたぁ」


 そう言って茜はすぐ後ろにあったソファーに頭を倒した。


「ねえ和樹、ゲームしてもいい?」


「赤点取らない自信があるならいいぞ」


「多分大丈夫、リアラちゃんにも教えてもらったし」


 茜がゲームをすると言ったので、邪魔にならないようにテーブルを少しずらす。友樹もやりたそうにしていたが、赤点ギリギリのやつにやらせるゲームはないと、和樹は友樹をテーブルに縛りつけ


「俺もゲームしたいなぁ」


「我慢しろ、テスト終わったらまたできるだろ」


 和樹は仕方ないといった感じで、友樹の勉強をゲームをせずに見てやった。

 雫は分からない事が英語だけだったらしく、他の教科はそれなりにできると言って、茜とゲームをしている。

 リアラはそもそも勉強をしなくてもテストは難なくこなせる為、これ以上勉強する意味も無い。


「私が見ましょうか?」


「いや、リアラもゲームでもしてていいよ」


「ですが……」


「教えるのも自分の為になるだろうし、ゲームしたそうじゃん」


「そ、それは……」


「遠慮しなくていいから」


「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきますね」


 そう言ってリアラもソファーに座り、女子3人でゲームを始めた。その後もまた勉強しては少しゲームをしたりと、時間はどんどん過ぎていった。

 友樹は、急激に問題が解けるようになる訳でもなく、友樹はゲームをする事が無いまま勉強会が終わった。

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