第38話 優花side
優花は和樹に助けられてから、バイクに乗っていた人に声をかけられた。
加害者はその場で示談の申し入れをせずに、連絡先を聞いて後日正式な示談交渉すると言った。
そして2週間後の示談交渉の日。加害者は常識的な人だった為、示談交渉の時も、優花の怪我に応じた金額を渡すと言った。それでも優花の怪我は擦り剥いた程度で済んでいたので、それ程の金額にはならなかった。
本当はあの場にいた男子高校生の連絡先を知らないかと聞こうと思ったのだが、あの場にいた事を言わないでほしいと、言われていたので、加害者は連絡先を聞くことはなかった。
そして示談交渉が終わったその夜。
「……もう、ほんとに何なの……」
近頃本当に上手くいかない事が多い。自分でも分かる。制御が効かず、誰にでも強く当たってしまう。自分の思い通りにいかないと腹が立つ。
「和樹……」
何故か自然とその名前が出てくる。しかしその名前が出てくるのはどの感情からなのだろうか。怒りからなのか、それともあそこまでの態度をとってしまったことの罪悪感からなのか、色々な感情が混ざり合う。
そんな時に思わぬ客が優花の部屋にやって来た。
扉が開き、そこにいた人物は、
「どうも」
「だ、誰よあんた!」
「誰……そうだな、まあ神と名乗っておくよ。好きに呼べばいい。口調もどうでもいい。堅苦しいのは嫌いなんだ」
何故知らない奴が家にやって来ていきなり自己紹介してきているのだろうか。雰囲気的には泥棒の類ではないことは分かる。
だがおかしいのはその顔。何かモヤがかかったようになっていて、素顔が全く分からない。
そもそも神と名乗った意味が分からない。神などいる訳が無い。ただの頭がおかしい人にしか思えない。
「今頭のおかしい人とか思ってたね」
優花は驚きを隠せない。考えていた事が簡単にバレていた。
「な、なんで分かったのよ!」
「だって……神だからね」
まさか本当に神?確かに普通の人とは何か違う感じがする。
「不法侵入じゃない、ちゃんと君のお母さんには許可を取ってるんだ」
「……取り敢えず信じるわ」
おそらく何を言っても埒があかないと考えた優花は、ひとまず信じる事にした。
「そう言ってもらえて助かるよ」
「……それで、何でここに来たの?要件は何?」
「……君はこのままでいいのかい?」
「───っ!?……どう言うことよ」
まるで全てを見透かしているように聞こえた今の言葉。それでも優花はしらばっくれるように言う。
「本当は分かってるんだろ?」
「……そんなの分かるわけ」
「逃げるな!」
「ひっ……」
いきなり怒鳴られて優花の体は勝手に反応してしまう。その威圧感に圧倒され、言葉が出ない。
「……君はそうやって逃げ続けるのか?」
「な、なんの事よ」
「はぁ……。今の君は和樹君にとって邪魔でしかない」
何故ここで和樹の名前が出てくるの?あいつやっぱり隠してる事でもあるんじゃ……。
「何で和樹の名前が出てくるのよ」
「全て見ているからね。いくらなんでもあの態度は無い。正直目障りだよ」
「何よいきなり!勝手な事言わないで!」
苦し紛れに否定する事しかできない優花。
そこに神はさらに、
「だってそうでしょ。昔から彼に甘えてばっかで、言う事も何でも聞いてもらって、自分はふんぞり返ってるだけ。しまいに彼の事好きだかなんだか知らないけど、束縛紛いのことしてるし。そりゃあんな事言われて当然さ」
「……」
自分のしてきた事を全否定されて何も言葉が出ない。確かにそうだ。和樹は何でも言うことを聞いてくれて、何処でも着いてきてくれた。そんな和樹が好きだった。
だが、和樹は優しすぎた。優しすぎたが故に今の歪んだ優花の性格になってしまった。我儘で傲慢。和樹の事を考えずに自分の考えを貫く。それでも自分がおかしい事に気付けるきっかけはいくらでもあった。それでも自分が正しいと思い込んだ。
その結果今の現状は、和樹から嫌われて頭の中はぐちゃぐちゃ。
「学校でも上手くいかない。友達も離れていってるだろ?」
「……本当になんでも知ってるのね」
小・中まではまだ何とか交友関係は何とかなっていた。それでも高校になると通用する訳もなく、友達もどんどん優花から離れていった。
今では学校でも殆ど一人で過ごしていた。いじめが起きなかっただけでもマシだろう。
「謝罪も何もしないしねぇ……。君、このままじゃ何も残らないよ。残るのは君がクズだったって言う記憶だけ。他人に刻まれたままになるよ。大人になっても通用しない」
「……そんな事分かってるわよ」
「おや?分かってるなら何故何も行動しないのかな?」
煽るように喋る神。改めて自分の現状を他人から言われて、本当に自分が惨めに感じられる。
「……色々考えたわよ……どうかしてたわ。……でも今更合わせる顔がないじゃない」
「だからそれが逃げてるって言ってるんだよ。そんな事じゃいつまで経っても成長しない」
「……そうだけど……」
「……まあそうして反省できてるだけでも成長だ。……今度は間違えるなよ」
そう言って神様は扉のドアノブに手をつける。
「あ……な、何でここに来たの?別に私の事見てたならこんなクズに言う事なんか……」
「……気まぐれさ」
神様は部屋を出ていった。
いきなり誰か来たと思ったら、初めてあった人に説教された。でも、まだこうして声をかけてくれるだけ、まだやり直せる可能性があるのかもしれない。
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