第37話

 雫をおろして戻ってくると、既に試合は終わっていたようで、決勝戦の前に昼食の時間になった。昼食の事を忘れていて、意気込んで優勝してくるとか言ってしまったので少し恥ずかしい。

 リアラと雫は、茜の友達の一緒に弁当を食べているようなので、俺は友樹と二人で弁当を食べる事にした。


「……」


「リアラちゃんの愛が凄い」


 今日はオムライスにしたと言っていたので、楽しみに弁当の蓋を開けると、卵の上にケチャップで、ハートマークとLOVEと書かれていた。

 前も書いていたことがあったが、今回はハートマークもあるので、より強化されている。


「書いてくれるのは良いけどバレたらどうすんだよ……」


 そう言いながら口にオムライスを運ぶ。すると、家庭の味ならぬリアラの味が口に広がる。いつも食べているオムライスの味に、取り敢えずホッとする。


「なんか落ち着く」

 

「ほんとオムライス好きだな」


「リアラのオムライスは別格だな。冷めても美味い」


 もう個人的にはリアラが作ったオムライスが一番美味しいと思っているので、今後外食をしても、オムライスを頼む事は無いだろう。


「友樹は茜が作ってくれたんだろ?」


「ああ、リアラちゃんに教えてもらってからも頑張って練習したらしい。だいぶ美味くなってるぞ」


 友樹は自分の弁当に入っている唐揚げを、一つだけ和樹の弁当箱に入れる。

 それを食べてみると、


「普通に美味いな」


「俺達の愛が深まってるって事だ」


「急に惚気んな」


 そうして喋っているとすぐに時間は経っていき、すぐに決勝戦の時間となった。

 Aチームの中で全勝した和樹のチームは当然決勝に上がり、Bチームの方はバスケ部の集まった3組のチームだった。

 決勝だけ試合は1ゲームあたりを7分にして、2ゲーム行う。


「チャンスあったらしっかり決めないと勝てないな」


「そうだな、頑張ろう」

 

 こうして決勝戦が始まった。

 リアラのチームも決勝に進んでいる。雫は事情をチームのメンバーに話したようで、試合には出ていない。


 やはりバスケ部なだけあって、パスやシュートの精度は他のチームとは別格。

 だが、俺と友樹は必死に食らいつく。

 野球部の前園まえぞの、サッカー部の式部しきべ赤松あかまつ、この3人も同じチームで、それぞれのクラブの中でも運動神経がいい方なので、それなりに戦えている。それでも球技大会で均等に出番が回るようにする為、そこで点差が開いてしまう。


「相手のバスケ部が減った時が攻め時だな」


「取り敢えず点差を離されないようにしよう」


 途中で入れ替わりなどもあったが、第1ゲームが終わった時点で、点数は12対16。何とか点差を抑える事ができた。

 相変わらずリアラは無双していて、相手との点差は10点程離れていた。これなら優勝は確実だろう。


 休憩が終わり、第2ゲームの準備をする。俺と友樹の動きが皆が思ったよりも良く、どうせなら優勝の可能性もあるという事で、第2ゲームは最初に出た面子でフルで出ることになった。

 相手は油断しているのか、第2ゲームに出てきたバスケ部は一人だけ。


「前園、悪いな。俺まで出してもらって」


 Aチームのリーダは前園。その前園が俺もフルで出てくれと言ったので、その事について話すと、


「何言ってんだよ、勝てそうなんだから出たほうがいいだろ。てか宮本がそんなに動けると思って無かったし。今まで本気出してなかったのか」


「まあそんな感じだ」


「宮本いつも一人でいたから話しにくそうだなとか思ってたけど、そんなこと無いな。普通に話せるじゃん」


「一人が好きだっただけだ」


 俺もここまで普通に話してくれるとは思っていなかったので、これは自分の想像力が足りなかったのだろう。

 こうして絆?も少し深まったところで第2ゲームが始まる。


 宣言通り俺と友樹はここで、積極的にシュートを打ちにいく。相手も負けじと点を取り返してくるが、差は縮まっていく。


 試合時間が残り10秒となった頃、点差は2点差で負けていた。相手はまたバスケ部が全員出ていてマークも厳しい。スキが見つからず、このままでは負けてしまう。

 

「宮本!」


 とっさに前園は俺にパスを出してきた。

 

 残り5秒


(駄目だ、シュートに持ち込めない……)


 残り3秒


 どうせこのままではシュートが打てないと判断した俺は思い切って、相手の手が届かないところまで下がった。

 スリーポイントラインより4メートル程離れた位置。


 残り1秒


(入れ!)


 希望を込めて放ったシュートは綺麗な放物線を描いてリングへと向かっていく。


「あっ」


 試合終了の笛が鳴ると同時にリングにボールが当たり、真上に高々と跳ね上がった。

 落下してきたボールはそのままリングの中に吸い込まれた。まさしくブザービーターってやつだ。


「お、おお……入ったわ」


 クラスの皆は俺のもとに駆け寄って来た。「凄えじゃん宮本!」「まじヤバかったな!」と以外にも称賛の声で溢れかえる。


「こんなこともあるんだな」

 

「なんで決めたお前が一番冷静なんだよ」


「いや入ると思わなかったし、皆普通に駆け寄ってくるし」


「……感想は?」


「……悪くない」


 陰キャと言われていつも一人でいた頃よりも、充実した気分になった。

 人との関わりは人生において避けきれない事。いつまでも周りとの交流を拒んでいた俺だが、今日はどうして、悪くない。


 

 ―――――――――――――――



「お疲れ様でした」


 俺のチームが優勝し、嬉しさの余韻に浸りながら家に帰った。リアラからもねぎらいの言葉を貰った。


「リアラもお疲れ様、余裕だったな」


「まあ、そうですね。身体能力が違いますし」


 少なくともこの世界でリアラと雫に勝てるやつなど存在しないだろう。その圧倒的な身体能力で、余裕で優勝を掻っ攫った。


「それより」


「ん?」


 何やら真剣な眼差しでこちらを見てくるリアラ。


「途中で雫と出ていっていたようですが」


(見てたかー)


「いや違うぞ、やましい事は何もない。足を捻っていたから保健室に連れていっただけだ」


「そうですか、てっきりエッチな事でもしに行ったのかと」


「やらねえよ!」


 これも冗談で言っているのだろう。取り敢えず誤解は解けたようだ。


(皆さんとの交流も増えているようですし、いい方向に進んでますね)


 リアラは少しだけ心配していた。俺が一部の人としか関わっていなかった事に。それでも今日の球技大会の様子を見たリアラはひとまず安心する。


(……和樹様は私のです)


 交流が増えるのはいいが、友樹や茜、雫と一緒にいる事が増えて甘えきれていないリアラは少しだけ嫉妬してしまうのであった。

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