第30話
学校につく直前、和樹は既に体力が殆ど残っていなかった。やはり根が陰キャで好んで運動をしない和樹にとっては通学路を走るだけで体力は限界以上に消費してしまう。
「何で登校でこんなに走ってるんだ!」
「やはり私が抱きかかえて行きましょうか?」
「私もそうした方がいいと思うのだが」
雫もリアラに抱きかかえてもらったほうがいいと思っているようで、和樹に再度提案している。
「男として恥ずかしいから却下!」
そうこうしているうちに校門を抜ける和樹達。
「はぁ……雫は多分職員室に行けばいい。場所はわかるか?」
「ああ、昨日来たときに大体教えてもらえたから大丈夫だ」
下駄箱に着いて、上履きに履き替える。
「じゃあまた後で」
「ああ」
和樹とリアラは雫と別れ、教室に向かった。チャイムが鳴るまであと1分程。かなりギリギリだが間に合った。
「はぁ……間に合った……」
他の生徒は既に席についており、和樹とリアラは最後に教室に入る。自然と視線は和樹とリアラに集まり、少し気まずい雰囲気が漂う。
和樹は息がまだ整わないのに対し、リアラは表情一つ変わらずにケロっとしている。やはり圧倒的に体力や身体能力に差があるのだろう。
「何だ和樹、またギリギリだな」
「はぁ……はぁ……まあ、色々あったんだ」
和樹は椅子に座り、息を徐々に整えていく。周りはまだ和樹とリアラが一緒に教室に入ってきた事に、少しざわついていた。
(ここで変に見繕ってもバレそうだし、知らんふりしよう)
「あの……和樹様」
「ん?どうした?」
リアラが何か少し不安そうに和樹を呼ぶ。
和樹は少しだけ椅子を後ろに下げて、リアラに近づいた。
「雫なんですけど……大丈夫でしょうか?」
「どういう事だ?」
質問の意味が全く分からずに、和樹はリアラに問い返す。
「職員室の場所が分かるとは言っていましたが、雫ですし迷っているかもしれません」
「……言わない方が良かったんじゃないか?」
職員室の場所を知っているか聞いた時は、確かに雫は知っていると言っていた。
しかし、雫はドジだ。何なら女好きに見せないでもいいのにそれに気づいていなかったことから、和樹はもしかすると、雫は天然も入ってるんじゃないかとは少し疑った。なので、リアラの言った事も充分に可能性はある。
「フラグ?と言うものですか?」
「なんでそんな言葉知ってるんだよ」
「和樹様が読んでいたライトノベルで少々」
和樹が知らない間にリアラはラノベも読んでいたようだ。
「なあ和樹、さっきからリアラちゃんと何喋ってるんだよ」
小さめの声で話していた和樹とリアラだが、隣りにいる友樹には聞こえていたようで、会話に入ってくる。
「ガールズブレイカーのガチャで雫を当てただろ?」
「ああ、そうだな」
「案の定その日の夜に使えなくなったんだよ」
「なるほどわかった。それで? 今の話は?」
リアラを当てた時もこうなったので、流石に理解が早い友樹
「雫が今日編入してくるんだ」
「だろうと思ったよ」
「職員室の場所を知っているとは言っていたが、ドジっ娘ならもしかすると天然も含まれてるんじゃないかって」
「ほう」
「知っていると言っただけで、校内をさまよっているかもしれな」
喋り終わる前に、ガラガラっと音がして、教室の扉が開いた。
「あれ? ここでもないぞ……」
予想通り校内をさまよっていた雫だった。
教室の入口辺りに部屋名の札がついているはずなのだが、それでも分かっていない雫は、職員室が見つからず困惑している。
「……やっぱりか」
「言った通りでしたね」
雫の姿を見た生徒達は、リアラが初めてこの学校に来た時と同様、「誰だあの子めっちゃ可愛いぞ!」「黒髪ロング最高!」「あれってガールズブレイカーの雫じゃないか?」「馬鹿!そんなわけ無いだろ! でも可愛いな!」と教室内が騒がしくなる。
「ちょっと行ってくる」
和樹は前の入り口にいる雫に夢中になっている生徒にバレないように、後ろから教室を出る。余程夢中になっているようで、バレるような様子はない。
どうせこのクラス内ではモブ扱いの和樹なので気にされる事も無い。教室を出た雫は和樹に気が付き、
「和樹、職員室は何処なんだ?」
「やっぱりわかってなかったな」
「すまない、昨日聞いたからわかっているつもりだったのだが……」
自信満々で言っていたのにも関わらず、分からなかったのが恥ずかしいのか雫は身を小さくして少し頬を赤くしている。
「俺が連れて行くよ」
そう言うと雫はパアッと表情を明るくさせ、
「いいのか?」
「と言うかその為に教室を出た訳だし、行こう」
「ああ、ありがとう」
雫が来た1年2組の教室は南校舎にあり、この学校の職員室は北校舎にある。つまり雫はかなり見当違いな所に来ている。これなら北と南を間違えていると思っていた方が納得がいく。
職員室についたので扉をノックして、入室する。
「1年2組の宮本です。編入生を連れてきました」
「おっ!宮本か」
出迎えてくれたのは白崎先生だった。この感じだとまた1年2組に雫が編入する事になって、白崎先生は雫が来るのを待っていたと言う事だろう。
「高野を連れてきてくれたのか、助かるよ」
「やっぱり1年2組に来るんですね」
「何だ、知っていたのか?」
「いえ、勘です」
リアラが編入してきた時も大体予想はついていたので、雫が1年2組に来てもおかしくは無い。
と言うかどうせまた神様が校長先生と話でもしたんではなかろうか。
(当ったり〜!)
(ですよね……)
何だかんだ久しぶりに登場してきた神様。もう対応には慣れたので今更驚くような事は無い。
「ありがとう宮本、私と高野は後で行くから先に教室に戻っておいてくれ」
「わかりました、失礼しました」
和樹は職員室を後にする。
(……また仕組んだだろ)
どうせまだ何処かで聞いているだろう神様に心の中で問いかける。
(当然、今回の反応も中々面白かったね)
(俺で遊ぶんじゃない)
(別にいいじゃないか。メイドとお風呂っていう最高のシチュエーションも経験できたんだし)
どうやらリアラとお風呂に入った事も筒抜けていたようで、和樹は顔を赤くする。
(見てんじゃねえよ!)
(ははっ! ごめんごめん、じゃあまたいつかお邪魔させてもらおうかな)
(はぁ……あんたに何を言っても無駄なのはわかってるし、仕方ない)
(じゃ、またいつか)
そう言うともう神様の声は聞こえなくなった。
「……本当に疲れる」
神様の文句をぶつぶつと言いながら和樹は教室に戻った。
教室に入ると生徒達は雫の話で盛り上がっている。席につくとリアラは、
「お疲れ様です」
確かに雫を職員室に連れて行った事と神様の事でお疲れと言えばお疲れだ。
「どうだった?」
「どうだったも何も、職員室は北校舎にあるのに見当違いな所に来てるんだから」
やはり雫はゲームの設定通り、いやそれ以上なのかもしれない。何がそれ以上なのかはお分かりだろう。
「リアラがフラグ立てるから」
「えっ、私のせいですか?」
「嘘嘘、冗談だよ」
「そうですよね、そもそも和樹様がドジっ娘を当てるからですよ」
「当てたのはリアラだしドジっ娘なのは雫を作った人に言え」
「ふふっ、すみません」
この様子を見ると、リアラはもう雫の事は何とも思っていないようだ。これからも付き合いが増えるだろうし、いつまでもギスギスした関係では困るので、取り敢えずは一安心だ。
「よーし席に……着いてるな」
白崎先生がいつも通りの少し気だるそうな顔で教室に入ってくる。
「また編入生がこのクラスに来るから、今から自己紹介だ。高野、入っていいぞ」
雫は教室に入ろうと扉の取っ手に手をかける。だが何故か扉は何かに引っ掛かり中々開かない。
(なんで先生は普通に空いたのに雫の時だけ突っ掛かってんの?)
和樹は苦戦している雫をぼーっとして見ていた。
埒が明かないので、雫は力を込めて扉を引いた。すると勢いよくスライドしていきバコッと扉がぶつかる音がする。
「ひうっ!?」
(声可愛い。てか開けた本人も驚いちゃってるよ……)
「あ……今日から編入してきた高野雫だ。よろしく頼む」
ちょっとしたアクシデントはあったが、そんな事は関係なく生徒達は雫が来た事に、「また美少女!」「このクラス神だ!」「蔑まれて踏まえたい!」などの声が聞こえてくる。最後のやつはもう既に末期です。
「高野は男が少し苦手だから、男子は安易に声掛けたりするなよー」
先生からの注意が入る。雫も男子がいる事は分かっているので、白崎先生には予め言っていた。
「えーと席は……おい、田中」
「え?はい」
和樹の席の前にいる男子生徒の田中。いきなり白崎先生に呼ばれて戸惑いながらも返事する。
「お前そんなに目が良くなかったな。偶然前の席が開いてるからそこに移動だ。高野は田中がいた席にいけ」
白崎先生は面白がるように和樹の方を見てそう言った。
(白崎先生も話聞いてるのかよ……絶対面白がってるじゃん……)
この席替えにより、和樹の席の周りは殆ど知り合いで構成される事となった。
「和樹が後ろなら少し安心だな」
「雫、俺の隣の奴は俺の友達だから信用してもいい……多分」
「おい多分ってなんだよ! ……吉野友樹だ、よろしく」
「あ、ああ、よろしく頼む」
まだ少し警戒気味だが、和樹の友達と言う事で何とか話はできている。
「もうすぐ授業も始まるし、高野と話がしたいなら休み時間にしろよ」
雫が職員室に行ってなかったので、待っている時間があった為にHRの後はすぐに授業が始まる。
新たな編入生の雫が加わり、より和樹のクラスは賑やかになるだろう。
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