第29話
興奮が収まらぬまま眠った翌日、和樹はいつも通りの時間に起きて朝食を食べていた。
……リアラは何故か上機嫌で前では無く隣に、しかもかなり近めに座っているのだが。
「……ちょっと近くない?」
「いいえ」
「いやでも」
「いいえ」
気にしても仕方のないと諦めた和樹は、再びご飯に手を付ける。
するといきなりインターホンが鳴った。
「俺が出るよ」
誰なのかも分からずに取り敢えず玄関の扉を開ける。やはり覗き窓を見るべきだったのだろう。
「あうっ!?」
ゴッ!と何かにぶつかった音と可愛らしい声が聞こえた。
「え……雫?」
そこにいたのは制服を着た雫だった。
おそらくドアのすぐ近くに立っていて頭をぶつけたのか、頭を押さえて唸っている。
(昨日はそんな事なかったのに何故?)
「痛い……」
「おい、大丈夫か」
「あう……あ、ああ、すまない、大丈夫だ」
大丈夫とは言っているが、額が少し赤くなってしまっているので、少し申し訳ない気持ちになる。
(ん?……俺が悪いのか? まあいっか)
「そうか……それで、どうしたんだ?」
「いや……その……昨日の事で謝りたくてな」
雫の顔を見ると、反省しているのか、かなり顔が暗い。本当に自分に否があると思っていなければこんな顔にはならない。
「……あがれよ、どうせご飯も食べてないだろ?」
「いや、それは申し訳な」
そう言おうとした雫だが、やはり何も食べていなかったようで、小さめにお腹が鳴った。
しかしバッチリと聞こえたお腹の音に雫は顔を赤くする。
「───っ、いやこれはっ」
「いいよ、食べていけって。ここらへんのこと知らなくて何も買えてないわけだし、食べれなかったのも当然だ」
「……すまない」
流石にお腹が鳴って素直になり、雫は和樹の部屋に上がった。
リビングに行くと、やはりリアラは少し驚いた表情をするが、すぐに元に戻った。
「どうして雫がここに?」
「いや、何も食べてないらしいし、一緒に食べさせようと思って。あと、謝罪したいんだとさ」
「そうですか」
リアラは納得したようで、雫の分のご飯を入れていた。
「おかずはこれだけしかないですが、どうぞ」
「すまない、ありがとう」
鮭の切り身と味噌汁。出汁巻き卵もあったのだが、和樹とリアラは既に卵は食べ終わっていて、雫のおかずはこれだけになった。
「昨日はすみませんでした」
「え?」
「ついカッとなって怒鳴ってしまって、申し訳ありません」
「い、いや、謝るのはこっちだ。和樹の事を何にも知らないのに、勝手な事ばっかり言って申し訳ない。人として失礼なことをした」
雫は立ち上がり、和樹とリアラに深々と頭を下げる。
「気にしてないからいいよ」
「私ももう気にしてませんので」
「……それよりも」
気になる事は、何故そこまで男が嫌いになったのか。昨日の言動からしても、男から酷いことをされたとは予想はつくが、内容が分からなければ納得のしようがない。
「ゲームの中で、何をされたんだ?」
「……それは」
男にしつこく交際を迫られ、何度も断っていたが、その男は諦めない。最終的に襲われそうになって逃げた。
しまいには集団で襲われそうになり、それでも雫からしたら男など雑魚でしかなく、男達をボコボコに。
だが、それ以来男が嫌いになり、信用できなくなった。これが話しの全てだった。
「なるほどな……。じゃあ女の子が好きってのは? 正直無理してそうに見えたんだが」
昨日の朝にリアラに飛びついていった時も、そこまで本気のように見えなかった。そこが単純に気になったのだ。
「いや、女の子が好きって思わせたら男も寄り付かないかなと思ったのだが……」
雫の考えは確かに一理ある。女の子が好きな女に好きとは言えないだろう。だが、おそらく根本的に襲われている理由が違う。
「いや、大抵男は雫の体目当てだろうから、女好きアピールしても無意味だと思うぞ」
そもそも女を襲おうとする時点で体目当てなのは確定。体目当ての男には女の子の事情などどうでもいいのだ。
可愛らしくも大人びた凛々しい顔に、女なら羨ましがるような胸に抜群のスタイル。襲われるのも無理はない。
「そ、そうなのか?」
雫は全く気づいてなかったようで、驚いた表情をする。
「じゃあ今までやってきたのは……」
「無駄だな」
「そんな……」
雫はショックだったのかガックリとうなだれている。
「てっきり私は本当に女好きなのかと思ってました」
実際に引っ付かれたリアラは信じ切っていたようで、少しキョトンとしていた。
「それは本当に申し訳ない」
今までの事を思い出し、恥ずかしがりながら謝罪する雫。
「まあ、これで色々分かったことだし一件落着だな」
「そうですね」
「さて……おい雫、ご飯食べ終わったか?」
急に何かを悟ったように、雫にご飯を食べ終わったか聞く和樹。
「あ、ああ、食べ終わったぞ。どうしたんだ?」
「急いで片付けよう、遅刻しちまう」
「そうですね、今日は本当に間に合わないかもですね」
冷静に状況を判断しているリアラ。昨日よりも5分程遅いので、リアラが言っている通り、本気で走らなければ間に合わないだろう。
「何でそんな冷静なんだよ。リアラと雫は走ったら余裕だろうけど」
「私が和樹様を抱きかかえれば問題ないと思いまして」
確かにリアラ程の力があれば和樹を抱きかかえたところで間に合わなくなるということは無い。
「恥ずかしいから却下。急ごう」
「わかりました」
「雫も行くぞ」
「あ、ああ」
急いで家を出て学校に向かって走る和樹。
リアラと雫は余裕な顔をして、一人だけ息絶え絶えで和樹は走り続けるのであった。
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