第44話
顔に何か柔らかい物が当たる。その感触で和樹はゆっくりと意識を覚醒させていく。少しだけ目を開けると、カーテンから差し込んでくる光がより意識を鮮明にさせる。
「……はっ!?」
「目が覚めましたか? おはようございます」
何か顔に触れたような感覚があったのだが、今はもうその感覚はない。あるのは可愛らしいリアラの顔と、腕に感じるふわふわで柔らかい感触。
それに和樹は嫌な予感がしたので、恐る恐る布団をめくった。
「んむぅ? ……もう朝か」
そこには和樹の腕を抱いて眠っていた雫の姿があった。そこで和樹は雫を泊めて一緒に寝たという事を思い出した。
「和樹様、いつまで引っついているんですか?」
いつもは天使のように優しいリアラの顔が、今は不機嫌そうに口を尖らせて、和樹の方を見ている。
「いや……あの……」
「……私もまだ満足してないので」
そう言ってリアラは和樹の布団に潜り込み、腕を抱き寄せてきた。程よく膨らんだ柔らかい物が和樹の腕で押しつぶされていく。
「……いま何時?」
「6時半です」
「なら良いな……じゃねえよ! 雫もいるんだし引っつくのは……ってまた寝てるし」
「すー……すー……」
さっきまで目を覚ましていた筈の雫は再び寝息を立ててすやすやと眠っている。……和樹の腕を再び抱きながら。
「雫が離れていないのですから、私も離れないです」
「いや朝から内容が濃い!」
和樹は男心を弄ばれて悔しいという気持ちが再び込み上げてくる。今も和樹の脳内は自分の息子と必死に戦っている。
このままでは終わらないと、和樹は反撃に出ることにした。
「リアラ」
和樹はリアラに顔を近づけて、真剣な眼差しでリアラの顔を見る。
「は、はい」
予想外だったのか、リアラは驚いた表情をしている。
前に耳に息を吹きかけた時に、耳が弱点だと分かっている和樹は、そっと手で耳に触れる。
「ひうっ……か、和樹様?」
やはり耳は触られても同様に弱いようで、可愛らしい声をあげて顔を赤くさせながらリアラは和樹の方を見る。
次に和樹は、更にリアラの顔に自分の顔を近づける。今、和樹とリアラの顔はかなり近く、もう少し前に行けばキスしてしまうところまで来ている。
「え? いや……あの……」
「……」
和樹は更に顔を近づける。顔と顔の距離は、殆どゼロ距離の位置にある。
「あ……」
「……ん……朝か」
雫は再び目を覚ました。今度は完全に体を起き上がらせている。まだ寝ぼけているようで、和樹達には気づいていない。
(いやさっきまで寝てたじゃん!)
もう少し弄ぼうと思っていた和樹だが、雫が起きている為、これ以上はまずいと判断した和樹はリアラから顔を離す。
「リアラ、朝御飯食べよう」
「は、はい、準備してきます」
リアラは顔を真っ赤にしたまま、リビングにそそくさと向かった。
「……和樹、おはよう」
「ああ、おはよう。取り敢えず顔洗ってこい。歯ブラシはおいてあるし、朝御飯は多分リアラが用意してるし」
「ああ、ありがとう」
雫は眠たい目をこすりながら寝室を出ていく。
(はぁ……リアラやっぱ可愛いわ。たまに反撃するのも悪くない)
基本リアラが恥ずかしがっている事は殆ど無いので、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていたあの表情を見れるのは役得というものだ。
しかしリアラのいい反応を見たところで、眠たいのは変わらない。和樹は睡眠の大切さを思い知らされたのである。
朝御飯を食べる時も、半分寝ぼけながら食べていたので、味があんまり分からず、学校に向かう時も眠気は消えず、足取りが重い。
いつもよりゆっくりと歩いていたので、和樹は学校につく途中に友樹と合流した。
「あれ? 和樹、今日は遅いんだな」
「眠たいんです」
「あー、目の下にクマできてるぞ。寝れなかったのか?」
「それは……動画見てたらいつの間にか時間が過ぎてた」
「それは俺もたまにあるわ」
普通にリアラと雫と一緒に寝てたからと口を滑らせそうになるが、和樹は何とかこらえて適当な理由をでっち上げた。
教室につくと、普段よりは教室内が騒がしい。これは今日がテスト返却の日だからだ。先生達は休みの日を削ってテストの丸付けをするのだ。
「席につけー」
白崎先生が教室に入ってくる。テストの丸付けで寝れていないのか、少し眠たそうにしている。
「まずこれがテストの順位のプリントな。後テストの解答用紙も」
この高校は、テストの順位が50位まで書かれた紙を配る。この順位に入れるようにと頑張る生徒は多い。
和樹は配られた紙を虚ろな目で見る。
「……えっ?」
眠たかった筈の和樹は、一気に目を見開いた。それも当然、自分の名前が3位のところに書かれていた。リアラはいつも1位をとっていたやつを出し抜き、1位になっている。
「宮本、どうしたんだ? 今回は頑張ったな」
白崎先生が和樹を称賛する。和樹はまさかここまで順位が上がるとは思ってなかったので、嬉しさと困惑で頭が一杯になっている。
「まあ宮本みたいに頑張れば順位もあがる。みんなも頑張りたまえ。後は面倒くさいから好きに喋ってていいぞ」
白崎先生がそう言うと、再び教室が騒がしくなる。
和樹は返された解答用紙を見る。やはり勉強の成果が出ていたようで、すべての教科が90点を超えていた。
「おお……」
和樹は自分でも信じられないと、解答用紙を見て驚いている。
(……もっと頑張ろう)
慢心はしない、そう心に誓った和樹であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます