第51話
唇に少し暖かい柔らかい感触、だがそれはいつも和樹が腕に感じているような2つの柔らかいものとは違う、そんな物が触れた事により和樹は目を覚ます。
「おはようございます、和樹様」
「……はい、おはよう」
(うん、やっぱり眠いな……けどリアラの機嫌はいい)
もう一緒に寝なくなってからのリアラとは違い、少しの変化だが機嫌がいいのは和樹はすぐに分かってしまった。それ程身近にいて、ずっと見てきたのだから。
「朝食は出来ていますので」
「わかった、すぐ行く」
既にリアラは制服を着ているのだが、春休みでしばらく見ていなかったからか、和樹は謎の懐かしさを感じていた。
それに、リアラはいつも髪をおろしているのだが、今日はポニーテールにしている。風でなびく銀髪もいいのだが、ポニーテールも新鮮で可愛らしい。いつもは見えないうなじが見えていて、何処かエロさを醸し出している。
「ポニーテール似合ってるな」
和樹は朝食を食べている時に何気なく言ってみたのだが、
「ありがとうございます」
褒められて嬉しいリアラは口元を緩ませて微笑んでいる。
朝食を食べ終わった二人はソファーに座って登校の時間まで休憩する。
朝のニュースを見たりガールズブレイカーのログインをしているが、リアラは足の間にちょこんと座っている。朝は座ってても隣にしか座っていなかったのだが、今日からは朝もこうらしい。
(髪の毛サラサラだなぁ……)
和樹はポニーテールに触れてみる。やはりいつ触ってもリアラの髪はサラサラとしていて艷やかで光沢がある。髪は腰まで伸びているので毎日手入れをするのはかなり苦労するだろう。
「あ……もうこんな時間か」
ポニーテールに夢中になってポフポフと触っていると、登校しなければいけない時間になっていた。
「じゃあまた後で」
「はい、いってらっしゃいませ」
和樹は一人でマンションを出る。しばらく歩くと見知った顔を見かける。それと同時にあちらも気づいたようで、
「おっ、和樹おはよう」
「おはよう友樹」
相変わらず爽やかスマイルで挨拶してくる友樹。和樹は自分から挨拶する性格ではないので、和樹から挨拶することはない。
「クラス替えどうなってるかな」
「知らね。そこは神にでも祈っとこう」
(どうせ神様の事だ……同じクラスに決まってる)
(……何だ、つまんないなぁ)
(いや本当に同じクラスかよ!)
心の中で独り言を言っていると、神に祈ると言う言葉からか分からないが、神が心の中に話しかけてくる。違うクラスになるのは確かに嫌だが、こうも予想通りに同じクラスになってしまうと、
(映画のオチをバラされた気分だ……)
(どうせ予想してたんだから意味ないじゃん)
(まあそうなんだけど……ちょっとは気になるだろ)
(まあそういう事だから、じゃあね)
何をしに来たか分からないまま、神の声は聞こえなくなった。
神と話しているうちに学校についた。掲示板の方にクラス替えの紙が貼られているので、和樹は一応見に行くことにした。
掲示板の前に来たが、当然生徒はぞろぞろといるので中々入り込めない。和樹は体を無理やり押し込んで何とか名前が見えるところまで来た。自分の名前を探す。しかしそれよりも先に友樹が、
「あったぞ、2組だ。和樹の名前もあるぞ」
和樹も2組の欄を見てみると、自分の名前がそこにはあった。神の言っていた通り、リアラ、雫、茜の名前も2組の欄にあった。
2組で他の人の名前も適当に確認すると、前園と斎藤の名前もあった。よく見れば、それ程和樹のクラスのメンツは変わっておらず、変わったのは6人程だった。
(まあこっちの方が俺は良いけどな)
世間一般的に見れば和樹の容姿は髪をセットしなければ陰キャそのものなので、見慣れている人の方がまだいい。いちいち知らない奴に陰キャやら言われるのは、和樹としては面倒くさい為避けたいのだ。
「やっほー!」
人混みを抜け出すと朝から元気な茜がこちらに向かってくる。その近くにはリアラと雫もいる。どうやら茜がリアラと雫を連れてきたのだろう。
「皆同じクラスって運命だね!」
「そうだな」
(運命……まあ、そう言えばそうなのか?)
神がこうなるように操作している以上、運命と言えば運命なのだろう。もはや全ての事象が神によって操られてるんじゃないかと和樹は思っている。
(まあいっか)
和樹達は決められた教室に向かって荷物を置いた後、始業式の為に体育館に向かう。
始業式は校長が話の短い人なのでスムーズに進んで早めに終わった。
その時に担任の発表があったのだが、担任は変わらず白崎先生だ。
「言う事は何も無いから適当に喋ってていいぞ」
教室に戻ってきた時に白崎先生がそう言うと、生徒は各自友達の席の近くに行って雑談タイムに入る。
(やはり顔の偏差値が高い……負けられないな)
(可愛い人が増えましたね……負けられません)
今回のクラス替えで少しだけ女子の割合が増えた。そして学校でもトップクラスの美少女二人は何故か闘志を燃やしている。
その気持ちが誰に向けられているかは言うまでもない。
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