第13話 優花side 一つの過ち

 優花には小さい頃から家族の付き合いがある幼馴染がいた。その幼馴染は男で、宮本和樹という。和樹は引っ込み思案な性格で、自分を上手くアピールできない子だった。


 それに対して、優花は傲慢で我儘。顔もかなり可愛かった事から、友達もよくできた。優花は自分の思い通りに行かないと気が済まない。


 和樹と遊んでいる時でも、


「ねえ、これで遊ばない?」


「え、そのゲーム一人用じゃないの?」


「私はこれがいいの!」


「……わかったよ、やろうか」


「うん!」


 和樹は優花に対してほとんど反論しなかった。他の人が否定している事も、和樹は否定せずに一緒に考えてくれる。そんな和樹を優花は好きになっていた。


 しかし優花は傲慢が故に欲が多い。それこそ、和樹が他の女の子に優しくしているのを見て、苛立つ事が多かった。


 中学生になる頃には、和樹も少しだが反発する事があった。それでも最後には自分の言う事を聞いてくれる。


 だが、中学3年生の時、些細な事で優花は和樹を怒らせた。


「ねえ、どこか遊びに行くわよ」


「俺今父さんが書いた本読んでるんだけど」


 優花は前に自分と和樹の親同士が話をしている時にもその場にいて、和樹の父がライトノベルという小説を書いている事を知っていた。


 それでも優花にはどうでもいいことで、


「そんな本なんかどうでもいいから行くわよ」


「どうでもいいって……そんな言い方すんなよ!父さんが頑張って書いた本なんだ!」


 優花は和樹が怒ったのを見るのはこれが初めてだ。初めて怒っていた事に驚いたが、それはすぐに苛立ちに変わる。


 優花は和樹の頬を叩いてしまった。


「はっ?」


「何よ!いきなり怒って意味分かんない!私が行こうって言ってるんだからあんたはついてくればいいの!」


「……はぁ、わかったよ」


 和樹はこの時点で、優花に何を言っても無駄と思った。自分の利益の事しか考えず、我儘な要求を無理やりにでも通そうとする。それこそ相手に手を出してまでも。


 なので和樹はこの日から服従スタイルを貫いた。どうせ何を言っても無駄なので、それなら要求を呑んでいる方がまだマシだ。


 優花は和樹が服従スタイルになった事で、更に我儘になっていった。


 部屋で一緒にいるときでも、


「ねえ和樹、ジュース買ってきてよ」


「は……いや、わかった」


「お釣りもちゃんと返してね」


「ああ」


 これの酷いところは、優花は悪いともなんとも思っていないことだ。最初はお礼を言っていたことも次第に何も言わなくなった。


 どうせ私の事が好きなんだから、してくれるのが当たり前、聞いてくれるのが当たり前と、優花の考えはおかしくなっていった。


 高校生になっても優花は、和樹を、連れ回していた。


 それに嫌気が差していた和樹は、要件を呑みつつも、優花への態度は自然と冷たくなっていく。


 ショッピングに行った時も、


「ねえ、これどうかしら」


「ん……まあ、似合ってるんじゃないか?」


 もはや作業化された日常。和樹は心の何処かでいつか治るだろうと希望を持って耐えていた。だが、自分の利益だけを求め続けるだけの優花に、心の声は聞こえることはなかった。


 そして高校一年生の12月、終業式の前日、


「優花さんの事が好きです!付き合ってください」


 優花は学校の裏庭に呼び出され、告白された。


 その人は手紙を優花の下駄箱の中に入れていた。名前は中山なかやま秀平しゅうへい。優花とはクラスも違うので、告白された事に驚く優花。


「なんで告白してきたの?」


「それは、可愛いし、優しそうだったから。一目惚れなんだ」


 秀平は優花の裏の顔を知らない。優花は学校では自分を抑えているので、悪い印象はない。つまり和樹だけをいいように使っているだけになっている。


(顔も悪くない。和樹はなんか最近態度が気に入らないし、和樹といるよりもこっちの方がいいじゃない。私がいなくなったら態度も変わるかもしれないしね)


 もはや今の優花は自分の都合の良いようにしか解釈ができなくなっていた。


「いいわよ、付き合いましょうか」


「そっか!ありがとう」


 そして優花は終業式の日、


「私彼氏ができたから、アンタみたいな陰キャはもう私に近づかないで」


 最後にこの言葉を言った後、優花と和樹は一度も話していない。


 優花は家にいる時に母に聞かれた。


「優花、最近和樹君のところに行ってないけど、何かあったの?」


「別に、彼氏ができたから会ってないだけ」


「優花はそれでいいの?」


「だって和樹最近ずっと私に冷たいし、私を好きって言ってくれる人の方がいいじゃない」


「……それって優花が和樹君の事何にもわかってないからじゃないの?」


 優花には母が言っていることが分からなかった。


「それってどういう事?」


「……優花はもっと相手の事を考えて行動しなさい」


「……」


 優花は何も分からないまま、1月1日になった。


 優花は秀平と初詣に来ており、おみくじを引いている時だった。ふと後ろを向いた時にいたのは、


(あれは……和樹?)


 優花も小さい頃から和樹とは一緒にいたので、和樹の顔立ちは理解している。


(やっぱり和樹だわ……。隣りにいるのは……女の子?)


 和樹は隣りにいる銀髪の女の子と腕を組んで密着していた。


(何よあいつ……私といる時にはあんな顔……)


 和樹の表情は優花と一緒にいる時とは違う、心の底からの感情が出ているようだった。


(……相手の事を考える……)


「優花さん、どうしたの?そんな考え込んで」


「……いえ、なんでもないわ」


(……ああ、そっか)


 私といる時に和樹は一度も楽しいと思った事が無いんじゃないか。という考えが優花に浮かんだ。


 自分といる時には無かった表情の変わりように、


(何で……私といる時も言う事は聞いてくれたのに)


 この時も優花は自分の事を好きだから言う事を聞いてくれていたと都合のいい解釈をして、和樹の心情は何も考えられない。


 和樹はただ、その場しのぎの為だけに言う事を聞く、それだけの事だった。


 だが今の優花にはその考えには至れない。


「……ごめん、具合が悪いから帰る」


「えっ?大丈夫?家まで送ろうか?」


「……いらない。じゃあ」


 優花は急ぎ足でその場を離れて家に向かう。


(知らない……あんな表情知らない!)


 優花は自分といる以外のところで、まだ自分に見せていなかった表情をする和樹に苛立ちを感じている。


 何処から間違っていたのだろうか。


 優花がもっと相手のことを考えて、妥協できる人だったら関係の崩壊は起きなかったのかもしれない。




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