第9話 俺もリア充になれました2

 玄関を出てマンションの駐車場に向かう和樹とリアラ。そこには既に和樹の父と母が車の外で待っていた。


「はじめまして、和樹の父の和真です。よろしくね」


 宮本和真かずま、現在は39歳で、大学を卒業後は会社に勤めていたが、昔から好きだったラノベを書いてみたいと思い、書いたラノベ小説を新人賞に応募したら大賞を受賞し、そのまま会社を辞めて小説を書き続け、売れっ子作家になった男。優しそうな顔立ちをしており、実際に優しい為、友人や仕事関係の人からは優男と呼ばれている。


「はじめまして、和樹の母の美代子っていいます。よろしくね、リアラちゃん」


 宮本美代子みよこ、和真とは同期で、同じラノベ好きの和真と学生時代から付き合い、そのまま結婚。歳にしてはかなり若く見える為、見かけた人は年齢詐欺にご注意を。


「和真様と美代子様ですね。私は和樹様のメイドをしております、リアラと申します。これからよろしくお願いします」


 リアラは丁寧に頭を下げる。その立ち振舞からは、彼女がメイドだという事を改めて実感させられる。


「そんなに畏まらなくてもいい、親だと思って甘えてくれ」


「丁寧でいい子ね。和樹、リアラちゃんに変な事してないでしょうね?」


「してねえよ」


 変な事してないよな?と自分に言い聞かせる。


 リアラは和真と美代子から見ても好印象のようだ。


「さあ、車に乗ってくれ」


 和樹とリアラは軽自動車に乗り込む。和真は車にあまり興味がなく、軽自動車でも良いと思っている人だ。


 最近は軽自動車の性能の高い車種が増えてきているので、問題はない。と言うか俺もあまり車には興味がないし、父さんと同じ考えだ。


 車は駐車場を出て、携帯ショップに向かう。ここからは大体20分ぐらいの所だ。


「しかし、まさか当てたキャラが現実に来るなんてな」


「本当にびっくりしたよ。扉開けたらリアラがいたんだから」


 俺は助手席に乗り、運転している父さんと話している。なおリアラと母さんは後ろの席で女子トークをしている。何か変な事を吹き込ま無いか心配だ。


 合うのも久しぶりな、他の話もしたいが、俺は気になっている存在の事を聞いた。会った本人しか分からない事だ。


「なあ、神様に会ったんだろ?どんな人だったんだ?」


 そう和樹が聞くと、和真は少し考えるように、


「あー……何というか、よくわからない人だったな」


「どういう事だ?」


「何か顔はぼやけて見えないし、何か雰囲気も他の人とは違う。それにリアラちゃんの事を説明しただけで帰っちゃたんだよ」


 ますます謎が多い神という存在。やはり実際に会って話をしないと分からないことも多いだろう。


「よくわからないな」


「まあ和樹もそのうち会えるさ」


 根拠のない事だが、実際リアラを召喚したのはおそらく神だろう。接触してくる可能性もある。


「……それよりも……お前羨ましいな」


「え……」


 和真は段々と態度が豹変していき、


「そりゃそうだよ!ラノベ書いてるこっちからしたらゲームのキャラが現実に来て一緒に暮らすとかどこの主人公だよ!俺もメイドに朝起こされたいよ!今じゃあ起こしてくれるのはおば」


 ラノベを書いているが故に、妄想していた事が現実になったのは羨ましいと思うのも仕方がない。だが、和真は思わず禁句を言ってしまいそうになり、


「ぐっ!?」


 和真は美代子に首根っこを掴まれ、


「運転に集中してね」


「ひゃ、ひゃい」


 運転中に首根っこを掴む方が危ないのではなかろうか、と言える雰囲気ではない。


 美代子は笑っているが、目の奥は全く笑っていない。どす黒いオーラでも出ているようだ。


「あと……今夜じっくり話し合いね」


「……はい」


 おそらく和真は美代子にボコボコにされるだろう。


 まあおばさんと言ってしまいそうになったのは和真なので自業自得だ。


 俺の母さんはいつもは優しいが怒れば怖い。母さんの怖さを改めて実感した。


 なおリアラの方を見ると、少し引いていた。多分この人が当てなくて良かったとか思ってるんだろう。リアラの父さんに対する好感度が下がってしまった。


(俺が当てといて良かったよ)


 父さんが当てていたら、これを見たあとでは何が起こるか分からないと考えてしまう。


 父さんはしばらく無言のまま運転し、無事に携帯ショップに到着した。


 ショップに入ると、少しぽっちゃりとしたおじさんの店員がこちらに向かってくる。


「スマートフォンを買うのであれば、こちらで機種の説明をいたしますが……」


 俺がスマホを買った時も、殆ど店員のおすすめで決めたので、リアラのスマホも店員に任せたほうがいいだろう。素人が決めたところでろくな事がない。


 四人で機種の説明を聞いているが、店員の目線がチラチラとリアラの方に向いており、気持ちが悪い。


(……リアラに手を出せばわかってんな?)


 俺は目線で訴えかける。すると、店員は威圧感を感じ取ったのか、その後はリアラの方を向くことなく、震えた声で説明していた。


 俺の眼力にここまでの力があったのに驚きだ。


「で、では、こちらの機種でよろしいですか?他にもありますが……」


「私は使えればなんでも……和樹様に決めてもらっても良いですか?」


「いいのか?……初めて使うわけだし……じゃあそれでお願いします」


 結局店員が決めた機種にした。


 その後はスマホの設定などを終え、リアラはスマホを手にする事ができた。


「じゃあそろそろ」


「あ、少しだけ待ってください」


 和真が声をかけ、店を出ようとしたがリアラがそれを制止する。


「どうしたリアラ?何かあったのか?」


「すみません」


 リアラはスマホの説明を受けた店員に近づき、


「視線が気持ちが悪い。……次は無いと思いますが、気をつけてくださいね」


 氷のような目つきで店員に向けて言葉を放つリアラ。


「は、はいぃ」


 店員は惚けた表情をして頷く。リアラはその姿に更に気持ち悪そうに顔を歪める。


(落ちたな、あの店員)


「お待たせしました」


「……どうだった?」


「気持ち悪かったです。視線がもういやらしくて」


「確かにな」


 あの視線を向けられたリアラには少し同情する。やはり美人だとこういう視線も向けられるものだ。


「おーい、そろそろ行くぞ」


「わかってる!……行こう」


「そうですね」


 こうして和樹達は携帯ショップを後にする。もうあの気持ち悪い店員とは関わりたくないものだ。

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