第10話 俺もリア充になれました3

 携帯ショップを出た後、和樹達はケーキ屋さんに向かっている。今日がクリスマスと言う事で予約していたからだ。


 ケーキを食べるのは二人だけなので、予約したケーキは小さめのサイズを予約した。


 予約していたケーキを受け取った後は、家に帰って解散する。


 和真と美代子はただ息子とリアラの様子を見に来ただけで、まだ小説の原稿が終わっていない為、戻って書かなければならない。


「和樹、また何かあったら連絡してこい。時間があれば行ってやるから」


「うん、ありがとう父さん」


「リアラちゃんも、何かあったら連絡するといい」


「はい、ありがとうございます」


 リアラのメールアプリには、和真と美代子の連絡先が登録されている。もしもの時に連絡先が多い方が安全だからといって美代子が登録させたのだ。


「年越しは二人でゆっくりするといい、じゃあ」


「またね和樹、リアラちゃん」


 そう言って和真は車を走らせた。


 和樹とリアラも階段を上がり、部屋に戻った。かなり寒かった為、和樹はエアコンの暖房をつける。


 ケーキは夜食べるので冷蔵庫に入れておく。


 この後は、特に何もする事がなく、和樹は、ソファーに座ってゲームをしたり、スマホで調べ物をしていた。


 リアラは今日の夕食の仕込みをしている。


 そしてぼーっとしていると、インターホンの音が聞こえた。


「ん?誰だ?」


「私が出ましょうか?」


「いや、いい、俺が出るよ」


 和樹は玄関の扉の覗き窓を覗く。


(……ん?)


 覗き窓の先には人がいた。人はいたのだが、普通は顔が見えるはずなのに、その人は何故か顔がよく見えない。まるで和真が言っていたのと同じように……、


「もしかして」


 玄関の扉を開けると、そこにいたのは和樹の予想通りで、


「あ、どうも、神様です」


 なんとも適当な挨拶で現れたのは、神と名乗るものだった。


「君の父から聞いているよね?僕の存在を」


「あ、はい、聞いてますけど」


 雰囲気的にはかなり適当そうに見えるが、確かに一般の人とは違う何かを感じる。おぞましいとかそういうのではないが、不思議な感じがした。


「敬語はいらないよ、堅苦しいのは嫌いでね。取り敢えずちょっと話をしよう。部屋に入れてくれないか」


 神と名乗るものに敬語を使わないのはどうかと思ったが、本人がそう言っているので、


「……わかった、入ってくれ」


 和樹は神を部屋の中に入れた。リビングに案内すると、リアラはその姿を見て、


「誰ですか?」


「いや、神様らしい」


「えっ?……あなたが」


「神様です、よろしく」


 神を椅子に座らせ、和樹は向かい合わせで座る。リアラは和樹の隣に座らせる。


「何で来たんだ?」


「いや、今日はただ様子を見に来ただけさ。変な意味は無い」


 そう言って神はリアラが入れたお茶を啜っている。


「神様、聞きたいことがあるんだ」


「ああ、答えれる範囲ならなんでもいいよ」


「……なんでリアラを召喚したんだ?」


 それを聞いた神は、遠いところを見るように考えた後、


「……まあ、気まぐれかな」


 考えた答えがあっけないもので、和樹は言葉が出なかった。


「いや、まあ君はリアラを当てたわけだし、それまではなんか寂しそうにしてたからね」


「お情けみたいな感じか」


「それもあるけど、単純に運が良かったと思っててもらって良いよ。他の人が当ててても、召喚したかはわからないし」


 神はどうやらかなり適当な人らしい。どちらにせよ、神がリアラを召喚してくれたおかげで和樹の生活は充実したものとなっている。


「まあ神様のおかげでリアラに会えたし、ありがとう」


 ここは素直にお礼を言うべきだと思い、口にする。


「いいよ気にしないで、気まぐれなんだから。それで?他に聞くことはない?そろそろ帰らないといけないし」


 どうやら神はあまり地上にはいる事ができないらしい。


「じゃあゲームでリアラが使えないのは何故なんだ?」


 他に聞くことが無かったので、和樹は取り敢えず一番気になっていたことを聞いた。


 ゲームの事まで知っているかは分からないので、半分くらいは期待せずに聞いたが、


「……んー、言うなら召喚したことでゲームから存在を引っ張り出してくるわけだから、ゲームからも魂みたいなのが抜けて使えなくなったんじゃない?」


 ここまで来ると哲学的な話になってくる。そもそもリアラを召喚している時点でおかしいのだが。


「……なるほど」


「話はもういいね、じゃあ帰るよ」


 てっきり神というぐらいだからその場から消えて行くのかと思ったが、そんな事はなく普通に玄関から帰っていった。


 あれで神が務まるのかと思ったが、神と名乗っている以上はそういう事なのだろう。


「……神って何なんだろう」


「……さあ、何なのでしょうか?」


 またまだ謎の深い神であった。



 ―――――――――――――――



 夕食の時間になり、テーブルには、ビーフシチューに、ローストチキン。ミニトマトで作ったカプレーゼと、いつもより豪華な料理が並ぶ。これらは全部リアラの手作りだ。


「ごめんな、全部任せちゃって」


「私が一人で作ると言ったのですから気にしないでください」


 こうして綺麗に並べられた料理を見ると、食べるのが勿体ない気分になってしまう。


 和樹は思わず聞いてしまった。


「……食べていいか?」


「和樹様のために作ったのですから、食べてもらわないと困ります」


「それもそうだな……じゃあいただきます」


 和樹はビーフシチューを口に運ぶ。じっくりと煮込まれた肉は、噛めばほろほろと崩れてあっという間に口の中から消える。


(……美味いなぁ)


 和樹は一口一口を噛み締めて料理を食べていく。こうして自分の為に作られた料理がここまで美味しいものなのか。


 リアラがいなければ、一人で寂しく食事をしていただろう。


「……どうかされましたか?もしかしてお口に合いませんでしたか?」


 リアラは急にとても心配したように聞いてくる。料理が不味いわけではないし、特に変な事もしていないはずだが、


「え?なんの事……」


「なんで泣いているんですか?」


 気づけば和樹は涙を流していた。


 ───思えば、俺にここまで尽くしてくれる人はいなかった。


 幼馴染の優花とは確かに一緒に遊んだりはしていた。しかし、あれは本当に遊んでいたと言えるのだろうか?


 優花と一緒にいれば色々なところに連れ回された。何処に行こうにも優花の言う事が優先。


 俺が意見しようとも、「あんたは私の言う事聞いてればいいの!」と言って聞く耳を持たなかった。親同士が仲がいい故の、縛られた関係だったように思える。


 優花はそれなりに顔も良く、友達も多いが、傲慢で我儘。言わば俺とは正反対。強く言えない自分も悪いと思うが、そんな優花を俺は好きではなかった。


 それでいて散々振り回しといて、彼氏ができたと言って見限る。優花の彼氏は一体どこに惚れたのだろうと疑問に思っていたが、正直これに関しては少しだけ嬉しかった。もうあいつに振り回されることなく自分の好きな事ができると。


 そしてやってきたのがリアラだった。いきなりメイドとしてやって来て、どうなる事だろうと思っていた。


 だが、俺のことを優先で尽くしてくれる。いつもクールに振る舞っているが、茶目っ気もあり、笑うときは一緒に笑ってくれる。


 俺が嫌になるような事は一つもしない。そんな子が、俺のもとに来てくれた。


 父さんも母さんも忙しい筈なのに、こうして様子を見に来てくれる。


 周りに優しさはいくらでも転がっていたのだ。そう考えると嬉しくてたまらない。


 俺は服の袖で流れてくる涙を拭い、


「いや……まあ美味しいから泣いてるのかな」


 誤魔化そうにもこんな言葉しか思いつかない。


「……これだけで泣いたのでしたら、食事が終わった後も泣いてしまいそうですね」


「え?」


「少々お待ちください」


 そう言ってリアラは食事中にも関わらずに、和樹の寝室に向かう。


 リアラはすぐに戻ってきた。手には何かを持っている。


「それは何だ?」


「私が編んだマフラーです」


 リアラの手編みのマフラー。俺は毛糸など買った覚えは無いし、どこで買ったのだろうと疑問に思う。


「この前スーパーに行った時に買ってきました」


 確か3日前に、スーパーにリアラは一人で買い物に行くと言って出かけていた。その時に買っていたのだろう。


 だが、和樹と殆ど一緒にいる為マフラーを編んでいれば嫌でも気づくはず。いつ編んでいたのかが分からない。


「マフラーなんていつ編んでたんだ?」


「和樹様が寝たあとにこっそりと編んでました」


(隣りにいたのに全く気づかなかった……)


「普通にプレゼントしようと思ってましたが、クリスマスが近かったので、これはクリスマスプレゼントと言うことで」


 和樹はリアラからマフラーを受け取った。丁寧に編み込まれた赤色の糸のマフラー。


 少なくともこの高校生活で一番嬉しい出来事だ。


「泣きますか?」


「……泣かないよ、ありがとう」


「喜んでもらえたなら良かったです。料理も冷めてしまうので、食べてしまいましょう」


「……ああ」


 神様、俺はもうリア充に爆発しろと言えなくなりました。ありがとうございます。


(それは良かった)


「……」


 なんか聞こえた気がしたが、気のせいだろう。


 今日は人生で一番のクリスマスになった。

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