第8話 俺もリア充になれました
「───様。和樹様」
「んっ……」
「おはようございます、和樹様」
朝起きた時に俺の顔を覗いているこの美少女は、俺のメイドをしてくれているリアラだ。スマホを確認すると時刻は7時。
布団から出たくないと思ったが、こうして美少女が起こしてくれるのだから、起きる気にもなる。
休みの日にもこんな時間に起きているのは、俺が単純に長い時間寝ているのは勿体ないと思うからだ。
今日はリアラが来て5日目の朝、世間はクリスマス。クリスマスと言えば、リア充達がイチャイチャして孤独な人が、リア充達に憎しみ覚える日である。
和樹は毎年来るクリスマスが嫌いだった。学校でカップルが「クリスマスの日どこ行く?」とか聞いてるだけで嫌気がさす。
でも今年からはリア充達を羨ましいと思わなくてもいい。俺にはこの世で一番素晴らしい女の子がいるから。
「朝食はもうすぐできますので」
「わかった、いつもありがとう」
「これぐらいは当然ですので」
リアラは家の中ではメイド服を着ている。やはりこれまでもメイドだった故かメイド服の方が落ち着くと言うので、和樹は通販でメイド服を2着購入した。
和樹が顔を洗ったり歯磨きをしている間に、リアラは朝食を作る。これはもう、この家での当たり前となっている。お前も一緒に作ってやれよと思うだろうが、これにはわけがある。
まず和樹はこのクリスマスまでの4日間で、完全に胃袋を掴まれていた。和樹はこれまでは自分で料理を作っていたので、それなりにはまともな料理を作れていたが、リアラの料理は何を作っても期待以上の味を楽しませてくれる。
リアラにばっかり料理を作らせるのは悪いと思ったので、昼は俺が作ると言っても、
「私が和樹様に作ってあげたいだけなので、和樹様は待っていてください」
と言って俺には作らせてくれない。負担になっていないか心配していたが、料理を作っている時のリアラは毎回楽しそうにしているので、和樹は諦めて料理を任せる事にしている。
歯を磨いたあとは、ソファーに座って朝食ができるのを待つ。
俺は毎朝、ガールズブレイカーを必ず開き、ログインボーナスを貰う。今日までも時間があるときはガールズブレイカーをプレイしている。
リアラが当たってから今日まで、ガチャを回したのは良いが出てくるカードは全てSR以下。リアラが当たったからもういいじゃないと言う運営からの言葉なのだろうか。
「朝食ができました」
今日の朝食は、だし巻き卵に鮭の切身、あと味噌汁と白菜の漬物だ。俺が椅子に座ったあとにリアラは俺の向かい側に座った。
「「いただきます」」
まずは味噌汁に手を付ける。口に含むと、ふんわりと出汁の風味が口に広がる。次にだし巻き卵、これも一口噛めばふんわりとした食感に出汁の旨味が口の中を襲う。
俺は甘い卵焼きより、出汁の旨味が効いた卵の方が好きなので、このリアラが作ってくれただし巻き卵が一番好きだ。
「今日も美味しいよ」
「それは良かったです」
普段はクールに振る舞っているリアラだが、こうして褒めてあげた時は、口元を緩ませる。料理が美味しいのもそうだが、こうしてリアラの色んな表情を見る為に、こうして褒めている。
リアラの料理を堪能したあとは、冬休みの宿題をする。毎日コツコツとやっておけば、休みの最終日に慌てなくてすむ。
リアラはこの間にリビングや部屋の掃除をしてくれている。リアラがいなかった時は、掃除もめんどくさくて部屋が散らかったりしていて、その度に面倒くさいと思いながら片付けていた。
リアラが来てからはそんな事は無くなったので、本当に感謝している。
「今日は終わりにしとこ」
一時間程宿題をしたあとは、ソファーに座ってゆっくりする。ガールズブレイカーのストーリーも進めていき、石が貯まる度にガチャを回す。
「……やっぱり出ない……」
リアラが出てから、かれこれ20連も引いているが、一向にSSRの出る気配はない。そろそろストーリーも終盤に差し掛かって来ているので、石を貯めるところが無くなってきている。
和樹は諦めてスマホのニュースなどを見る。そうしていると、リアラは掃除が終わったようで、和樹の方に向かっていく。
そして当たり前のように和樹の足の間に座った。
「今日はご両親がこちらに来るのですよね?」
「あ、ああ」
昨日、和樹のスマホに父からメールが届いた。内容は、『リアラちゃんがどうしてるか見たいし、今じゃあスマホぐらい持ってないと駄目だから買いに行こう』との事だった。
確かに今時スマホを持っていない人は殆どいない。スマホを持っていれば、すぐにネットでも調べ物ができるし、通話やメールも簡単。この時代では必要不可欠だ。
「……」
「……」
和樹は両親がこっちに来ることよりも、リアラが自分の前に座っている事が気になった。
リアラが俺の前に座ってくるようになったのは昨日から。しかも今日は昨日と比べてかなり体を寄せてくる。
何かあったのかとリアラを見ていると、少しこちらに頭を寄せてゆらゆらとさせている。
(……何なんだ?わからんぞ……。……ん?もしかして……)
何か閃いた和樹はリアラの頭に手を乗せる。そしてそのサラサラな髪を優しく撫でた。その頭は撫でている方も気持ちが良いほど、サラサラでいい匂いがする。
リアラも和樹に身を委ねて気持ちよさそうにしている。案外甘えたがりなところもあるのだろう。
(やっぱ可愛いわこの子)
5分程撫で続けると満足したようで、和樹の隣りに座った。
「和樹様、あの……」
「ん?どうかした?」
「ゲーム、しませんか?」
和樹はリアラが来た日を合わせて3回、レースゲームでリアラと対戦したが、リアラは一回も和樹に勝てていない。
負けず嫌いなリアラはこうしてゲームをしないかと言ってくる。
「負けず嫌いだなぁ」
「……駄目ですか?」
「父さん達が来るまでやろうか」
和樹は立ち上がり、ゲーム機の本体の電源をつける。
「さあ、今日は勝てるかな」
「……負けません」
そこから40分程プレイし、レースが終わったところで、和樹のケータイがぶるぶると震え、着信音が鳴る。
電話の発信者を確認すると、父からだった。和樹はすぐに電話に出た。
『和樹か、着いたからマンションの駐車場まで来てくれ』
「わかった、すぐ行くよ」
和樹は電話を切り、ゲームの電源も切った。
「リアラ、父さん達が来たから行こう」
「……また勝てませんでした」
リアラはまた勝てなかったのが悔しいのか、少し拗ねたように見える。
確かにこの終わり方だと勝ち逃げみたいになってしまうが、
「帰ってきたらまたやってあげるから。な?」
「……わかりました。では、準備してきます」
和樹もまだ服を着替えてないので、部屋に戻って外出用の服に着替える。
リビングに戻ると、リアラは既に服を着替え終わっていた。男より着替えが早いのは、流石メイドと言ったところだ。
「どうですか?」
「うん、似合ってるよ」
「ありがとうございます。では、行きましょうか」
「ああ」
こうして、リアラは和樹の両親と対面する事となるのであった。
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