第7話 メイドは不安だった

 何とかラーメンを完食し、嘔吐感をリアラに悟らせないように帰る。リバースしてしまってはリアラが責任を感じてしまうだろうからな。


「本当に大丈夫ですか?」


「心配するなって、問題ないよ」


 リアラは家に帰る間、常に心配そうに和樹の様子を見ていた。やはり責任を感じてしまっているのだろう。これ以上心配させない為にも、リバースだけはしてはならない。


「ラーメンは美味しかったか?」


「あ、はい、それはとても」


「まあ最初から二郎系は無理があったな」


 これは食べている時から思っていたことで、ラーメンを初めて食べる女の子にいきなり二郎系を食べさせるのは、俺のリアラへの配慮が足りなかったと反省している。


「今度はもう少し軽めのラーメンを食べに行こう」


「……はい」


 歩いていると嘔吐感はだんだん無くなっていき、家についた頃には満腹感が残るだけぐらいには回復していた。


 俺は少し休憩したかったので、リアラには先に風呂に入ってもらっている。その事を言ったときに、ちょっと不満そうにしていたのは何故なのか分からない。


 ん?一緒に入らないのかって?理性が持たないので却下。


 リアラが風呂に入っている間、俺はソファーに座り、ガールズブレイカーの画面を開いていた。


 画面に映るのは、パーティに入れられないリアラの姿。正直パーティに入れて使ってみたいという思いがあったが、こうして俺のメイドをしてくれているわけだからもう何も言わない。


「今日は濃い一日だったな……」


 リアラが俺のメイドになってくれただけで、一日がとても充実したものとなった。これからはもっと濃くなっていくことだろう。


「お待たせしました」


 リアラが脱衣場から出てきた。しかし、その姿は、上はTシャツ一枚のみで、下は履いてないように見えたが、すぐにちらっと見える黒の下着の布。エロい下着ではなさそうだが、


「……服を着ろ」


「あら、申し訳ありません」


 リアラはわざとらしく謝罪をして、再び脱衣場に入っていった。ラーメンの事でしおらしくされるのは嫌なので、クールで少し茶目っ気のある今のほうが良い。


「お待たせしました」


 虚をついて裸で来てないだろうなと警戒するが、そんな事はなく、今日買ったパジャマを着ている。


 リアラは意外にもパジャマは可愛い系のやつを買っていた。今着ているのは、モコモコとしたピンクと白がしましまになっているパジャマで、美しい顔を可愛いパジャマがより引き立てている。


(これかギャップ萌えってやつか……ご馳走様です)


 そんな事を思いながら脱衣場に向かう。今日は少し寒かったので、長めに湯に浸かって温まりたい。


 頭と体を洗い、和樹はゆっくりと湯に浸かる。


「ああぁ〜」


 少し冷えていた体に染み渡る。


 ───この湯船にリアラが浸かっていたのか……何と言うか……いいな!


「駄目だ……何も考えるんじゃない」


 何とか自分を抑え込んだ和樹は、妄想によって火照った体を冷やす為に早めに上がった。長めに浸かろうと思っていたが、結果的に体は温まったので良しとしよう。


 パジャマを着て脱衣場を出ると、


「あれ?……寝てる?」


 ソファーに座っているリアラは、可愛い寝息を立てながら眠っていた。


 和樹はリアラの寝顔を覗いてみた。


(普段は美人って感じだけど……寝顔は可愛いな)


「……すー……んっ……」


「……ベッドに連れていくか」


 和樹はリアラの体をお姫様抱っこした。女の子は抱っこしても軽いという幻想を抱いていたが、そんな事はなく、結構重たく感じた。


(けど……何か良い重たさだな)


 この重たさが、リアラが現実にいるという事を実感させてくれている気がする。


 和樹はリアラをいつも自分が寝ているベッドに寝かせた。


 だがここで一つの問題が発生する。それは自分の寝る場所がないことだ。


(ソファーはちょっとな……)


 少し前に、和樹はソファーに座ってゲームをしていたら、眠くなりそのまま寝てしまい、翌日起きた時には体の所々が痛くなった記憶がある。


(……俺のメイドだしいいよな)


 和樹は思い切って、リアラの隣に潜り込んだ。体はリアラに背を向けた状態にしている。


「……おやすみリアラ」


 ―――――――――――――――


「……もう寝ましたか」


 実はリアラは起きていた。ソファーで寝ているフリをしたのも全てわざとだった。


「……和樹様は誠実な方ですね」


 私は正直不安に思っていた。どこの誰だか知らない人のところで、いきなりメイドとして一緒に暮らすことになってしまった事に。もしかしたら犯されてしまうのではないか、一生こき使われてしまうのではないかと、様々な考えが頭から離れなかった。


「私は不安でした」


 だから、私はこの世界の事をあまり知らないフリをした。自分が仕える相手がどんな人なのか確かめたかったから。だが、今はそんな考えをしていた自分が馬鹿だと思う。


「和樹様の手、本当に温かかった……」


 和樹様にはとても優しくしてもらった。テレビゲームというものも教えてもらえて、和樹様のお友達と遊んだ時間は短かったけれど、楽しかった。


 和樹様が私の頭を撫でた時、私はこの人の優しさに触れたような気がした。腫れ物に触るように、優しく丁寧に撫でてくれた。


「私はいいご主人様のもとに来れたようですね」


 私はこれからもこの人と共に過ごしていければいいと思う。この人となら、一生楽しく暮らせると思う。


「私を当ててくれて、ありがとうございます……和樹様」


 リアラは和樹の方に体を向け、優しく体を抱き寄せた。


「……」


「……」


「……」


「……すぅ……すぅ」


(寝たか……)


 和樹もまた、起きていた。


(寝たと思っただろ!寝たフリでした!)


 誰に言っているのかも分からない心の声。自分で言っておきながら悲しくなる。


(てか何で俺抱きしめられてんの!?何かいい匂いするし柔らかいしわけわからん!)


 和樹はリアラに抱きしめられた事により、すっかり目が冴えてしまった。取り敢えずリアラの方に体を向けた。


「そりゃあ不安だろうな……」 


 俺も不安だった。いきなり現れ、メイドとして来ましたと言われて、この世界に初めて来た子の事に、俺がしてやれることはあるのか?俺が彼女の御主人様でいいのか?彼女はこの世界に、来た事を後悔していないだろうか?


「いいご主人様……か。そう思ってもらえたなら嬉しいよ」


 リアラは寝ているので、この声は届かない。だけど、言葉にしておきたかった。


 和樹はリアラを抱き寄せ、


「君はゲームから来た女の子だ。俺なんかより強いし、自分の身も自分で守れる。……だけど……それでもこの先ずっと……俺のメイドでいてくれるなら……俺もリアラの理想の主人になるよ」


 神様、あなたが俺のもとに来させてくれたメイド。必ず幸せにしてみせます。

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