第20話 メイドの料理教室

 始業式の日から一週間、6時間の授業が終わり、HRの時間に白崎先生がいきなり席替えをすると言い出した。


 元から結構いい加減な性格の先生は気まぐれで、変なタイミングで席替えをしたりする。


 だがそんな事はどうでもいい。最近の俺はかなり眠たい。どうにか勉強を頑張ろうと夜に問題集を解いている。


 一度勉強に気が入ると、どんどん知識を吸収できた。これまではそれほど勉強はせずにラノベとゲームばっか読んでいた日々は何だったんだろうかというぐらい。


 分からない所があれば、リアラが教えてくれたりする。勉強はどうなのかと思っていた俺が馬鹿らしく、編入試験でも満点を取っていた通り、とても分かりやすく教えてくれる。


 ただ教えてくれるのはいいのだが、かなり体を密着してくる。わざとなのは分かっているが、それでも柔らかい感触は俺の息子を奮い立たせようとしてくる。


 なんとか冷静になって勉強を終えても、寝るときにもリアラは一緒に寝るので、また元通り。


 おかげで寝不足なので、今日の授業は半分寝ながら受けていた。勉強は予習も兼ねているので何とかなっている。席替えもはどうでも良かった。


「おーい宮本、お前の番だぞ」


 白崎先生が和樹の名前を呼ぶ。それに眠気から遅れて反応した和樹はゆっくりと教卓に向かい、箱の中にある紙を引いた。


「5番だな、じゃあ窓際の後ろから二番目だ」


「わかりました」


 それから全員くじを引き終わり、席を移動させていく。


 窓際の席は、太陽がしっかりと見えている日は、日が差し込んで気持ちがいい。後ろの席と言う事もあって、寝ようとすれば寝ることもできる。


 別に周りの席が誰なのかは眠気でどうでも良かった和樹は、ゆらゆらと机と椅子を持って移動する。


「お!和樹じゃん、隣だな」


「友樹か……ならいいや」


「何だ眠たそうだな」


「夜勉強してるけど、前はやってなかったから眠たくて」


 友樹にそう言うと他人事のように、


「もっと学力つけてくれ」


「いや友樹も頑張れよ」 


 友樹はイケメンで運動神経もいいのだが、勉強は前も言った通りあまりできない。


 毎回何とか赤点は回避しているが、テスト前になるたびに、和樹に教えてもらいに和樹の家にお邪魔する。


「茜にも教えてもらうんだけど、ちょっとわかりにくくてな」


「あれは直感で解いてる部分もあるからな」


 茜は成績で言えば真ん中よりは上だ。なので友樹は茜にも教えてもらおうとするのだが、茜は直感的に問題を解いている事が多く、教えるのには向いていない。


「和樹の後ろにも優秀な人が来るしな」


「ああ……そういう事……」


 席替えで和樹の後ろに来た人は、リアラだった。


 リアラは席替えをするまでは、和樹と席が離れていたこともあり、学校では全く話せていなかった。なので今回席が近い事が嬉しいのか、クールな表情からも喜んでいるのが読み取れる。


「やっと気軽に話せますね」


「3人で話してた時もリアラは他の女子と話してたしな」


「私だけ仲間はずれの気分でした」


「仕方ないだろ、学校で一緒にいたらバレるかもしれないし」


「それはそうですけど……」


 リアラは少し不貞腐れるようにして、


「私も学校で話したかったです」


 ムッとした表情も、普段クールなリアラがやると、余計に可愛く見えてしまう。


「席近くなったしいいだろ?」


「はい……」


「……もう夫婦じゃん」


「友樹には言われたくない」


 友樹は茜との関係を隠している訳ではないので、堂々と学校でもイチャついている。


「そういや夫婦で思い出したけど、茜がリアラに料理教えてほしいって」


「それは構いませんが」


 リアラは渋々という感じでもなく、快く受けてくれるようだ。


「友樹、茜の予定知らない?」


「今日どっかでデートしようって言ってたから丁度いいや。和樹の家行くわ」


「では私は茜さんと買い物に行ってきますね。何を作りましょうか?」


 和樹は少し悩んだが、そもそも茜が料理を教えてほしいと言っているので、茜が作りたいやつを作ればいい。


「それは茜と相談して決めてくれたらいいよ」


 話をしているうちに学校のチャイムが鳴った。


「よし、では解散!」


 白崎先生がそう言うと生徒達は帰っていく。


「じゃあ、茜は3組にいるから。俺は茜にメールしとくわ」


 友樹はそう言うとスマホで茜にメールを送った。すぐに既読され、『わかった!じゃあすぐそっち行くね』とメールが送られてくる。


「茜こっち来るって」


「じゃあ俺達は……何する?」


「買い物ついて行っても足引っ張りそうだしな」


「掃除でもして待っとこう」


 今回の買い物は茜が何を作りたいかで買う食材が決まる。一食分なのでそこまで重い荷物にはならないだろう。


 一週間分の買い物は既に済ませてあるので、俺達が行ったところで、する事は特に無い。


 和樹と友樹は女子グループと別れて、和樹の家に向かう。


「そういや幼馴染さんはどうなったわけ?」


 友樹が唐突に聞いてきた。


「いや、なんかさ……」


 この前の放課後に優花が接触してきた事を友樹に話した。


「んー、それ結局本人が自覚できなきゃ無理だよな」


「それは俺も思ってるんだけど……」


 自分の言っていることがおかしいと優花が認められない以上、優花の我儘で自分勝手な考えは治らない。


 だが、和樹が優花の我儘を何も言わずに聞いてきたせいで、優花はこれが当たり前と思ってしまっているとも考えられるので、和樹も少し責任を感じていた。


「心配してるだけマシだと思う。俺だったら振ってきたやつの事なんか考えたくもないしな」


「……まあもしまたなんかしてきたら話し合ってみることにするよ」


 そうこう言っているうちに和樹の家に着いた。


「お邪魔します」


「掃除って言っても殆どやらなくていいな」


 リアラによって掃除されているリビングは、既に掃除しなくてもいい程に綺麗だ。


「そう言えば茜って料理上手いの?」


 和樹がそう聞くと、友樹は複雑そうに、


「普通にやれば人並みに上手いんだが、どうにも張り切ると失敗する」


「どういう事?」


「途中までは見た目もいいのに、最後になんか失敗してるんだよ」


「すげえ空回りだな」


 和樹も今まで料理はしてきていたが、張り切って作ったものが失敗するということは無かった。


 確かに普段茜は明るく元気なタイプなので、空回りするイメージがないとは言えない。


「なあ、今日泊まってもいいか?」


「いやなんでだよ、茜もいるじゃねえか」


「なんか久しぶりに泊まりたくなってさ。リアラちゃんもいるし丁度いいだろ?」


「何がいいかはわからないけど、布団……あ、一個だけあったわ」


 友達ができて泊まるような仲になった時のためと言って、美代子は一個だけ布団のセットを買っていた。


 リアラが初めてきたときは完全に忘れていたので使わなかった。決してリアラと同じ布団に寝たかったわけじゃない……嘘です寝てみたかったです。


「んー明日土曜日だし……茜がいいって言ったら俺はいいけど」


「よっしゃ!決まりだな、よろしく頼むわ」


「へいへい」


 こうして何故か友樹達が泊まる(予定)ことになってしまった

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