第19話 メイドも疲れます

 

 体育の後、HRを終えて生徒達はぞろぞろと帰っていく。


 この時でも和樹はリアラと一緒に帰るわけには行かないので、少し時間をずらしてから帰る。


 これなら幼馴染の優花と鉢合わせすることもないだろうと思っていたのだが、


「和樹」


「ん?……優花か」


 校門を出てすぐ、まるで待ち伏せしていたかのようなタイミングで声をかけてきた優花。


 和樹からすれば、今は会いたくない相手だったが、こうして会ってしまった。


「どうしたんだ」


「一緒に帰ろうと思って」


「はぁ?」


 和樹はこの時点で優花に対して嫌悪感を覚える。優花の方から見限って来たくせに、こうして当たり前のように目の前にいる。


 もしかすると自分のやっていた事が間違っていたと気づいたのだろうか?


 仕方なく歩き続けながら話を聞く和樹。


「なんでいきなり……しかもお前彼氏いるだろ」


「そんなのもう別れたわ」


「えっ?」


 当然のように言ってのけた優花。既に和樹には優花が何を考えているのか分からなくなってくる。


 そもそもその彼氏とはまだ付き合って2週間程しか経っていないはず。なぜ別れてしまったのだろうか。


「だってあいつ私の言う事聞いてくれないもの。そんなの別れて当然じゃない」


「お前……」


 優花の要求に答えることは、長い付き合いたった和樹でも苦労した。


 周辺の物を取ってくれと言われるのならまだしも、殆ど毎日あれを買ってきてといい、コンビニまで行かされる。しかも今の優花の事だろう、一回か二回聞かなかっただけでキレて別れてしまったはずだ。


「だから和樹とも、よりを戻してあげるわ」


「……」


 和樹は唖然とした顔で優花を見る。あたかも自分の方が立場が上と思っているような言い方。


「何、その顔?」


「お前から近づくなって言っただろ」


「そんなの言葉のあやじゃない、本当は私の事が好きな癖に」


「……」


 優花は相変わらず自分の都合の良いように解釈している。


 強く言い返せばまた手を出してくるかもしれない。それでも、こんな考え方しかできなくなってしまったのは、傲慢で我儘な性格なのを分かっていて要求を聞き続けてしまった俺に原因がある。


「……お前の事は好きじゃないし、正直嫌いだ」


「はあ?何いってんの?」


「自分の事だけ考えてるお前が嫌いだ。お前もっと人の気持ちを考えろ」


「───うっさい!何よ!あんたの為を思っていってあげてんのに!」


「俺の為を思うなら、もう俺に近づかないでくれ。少なくとも今のお前の考え方にはついていけない。いつまでもお前の言う事なんか聞いてられないんだ」


 これ以上話すのも嫌だと感じた和樹は、「いつまでもそんな考え方してたら誰も寄り付かなくなるぞ」とだけ言って優花をおいて帰った。


「何なのあいつ!私が一緒にいてやったのに!」


(アイツのせいよ……あのリアラとかいう編入生のせいであいつは……)


 優花の考えはなおも変わらない。優花が和樹との仲を取り戻せる日は来るのだろうか。




 ―――――――――――――――




 和樹は優花と別れてすぐに家に着いた。リビングに入ると、リアラがソファーに座って眠っていた。


(珍しいな、リアラがこんな時間に寝ているなんて)


 普段リアラは昼寝をするような人ではない。暇があればスマホを見ているか、和樹にくっついている。


「やっぱり俺のせいだな、これ」


 リアラは家事の殆どをしてくれている。いくらリアラとは言えど、疲れも溜まる。


 和樹はリアラの横に座り、寝顔を覗いた。和樹が横に座っていてもリアラは気づかずに、天使のような可愛い寝顔をしながら眠ったままだ。


(可愛いな……いつも寝ているときはあんまりちゃんと見てなかったけど)


 すると段々とリアラの体が和樹の方に傾いてくる。そしてリアラの頭が和樹の肩に乗った状態になる。


(……このまま寝かせておこう)


 和樹はリアラの頭をそっと持ち上げて、膝の上におろした。いわゆる膝枕だ。


「やって欲しかったけど、やる側もいいな」


 和樹はリアラの頭を撫でる。艷やかでサラサラの髪はいつまでも撫でていたい気分にさせる。


 腰まで伸びている髪をここまでサラサラに保っているのは、普段から髪に気を使っているのだろう。


 顔にもシミやニキビ一つすらない、透き通るような肌をしている。


「こんな細い体でいつも頑張ってんだよな……」


 こうして疲れて眠ってしまっているリアラを見て、和樹は罪悪感を感じていた。いくらリアラがやりたいと言っていても、負担が大きいことは変わらない。


 俺はそれに甘えて任せっぱなしにしてしまっている。


「いつもありがとう、リアラ」


 それから約一時間、リアラはぐっすりと可愛らしい寝息をたてながら眠っていた。


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