第26話

 色情変態娘の雫が来た朝、まだ朝食を食べていなかった和樹は、仕方なく雫を入れた三人で朝食を食べていた。


「で、やっぱり雫もここに住むの?」


「いや、ここに向かえと言われただけで、本当はわからん」


 リアラの時とは少し違う。リアラはここに住むと分かっていた。が雫はどこに住むかも分からないうえに、実際父の和真からも連絡はきていない。


 つまり完全に神の独断でここに向かわせたということだろう。


「和樹様、こいつは邪魔なのでどっかに捨ててきてください」


「捨てるのは流石に物騒」


 とは言え本性が分かってしまった以上、あのテンションでいつまでもいられると和樹もリアラも流石にまいってしまうと考える。


「……どうしよう」


(困っているようだね)


 どうしようか悩んでいると、事の発端が心に話しかけてくる。


(ああ、本当に困ったよ!こんな色情変態娘を召喚しやがって!俺とリアラの平和な生活が一気に地獄になるだろ!)


(まあまあ、流石に二人もそこで住ませるわけにはいかない。僕は配慮もできちゃう神だからね)


(色情変態娘を召喚している時点で何が配慮だ!)


(落ち着いて。取り敢えずこの部屋の隣の人が今日中に出ていくらしいから、そこで住んでもらう事にするよ)


 そんなに都合よくいくものなのかと、疑問に思う和樹。これも神が因果関係でも狂わせて、無理やりお隣さんも強制退去でもさせたのだろう。


(家賃とかどうすんだよ、流石に払えないし、父さんにも流石にこれは言えないぞ)


(特別に僕が出すよ。後学校にも通わせるからよろしく!じゃあね)


(何だと……)


 なんとも思ってないように言った神はそのまま声が聞こえなくなった。


 それよりも、会って少しのやりとりさえ面倒くさい奴が学校に来る。平和な生活を望んでいる和樹は、この平和な生活が崩れないか心配になる。


「リアラ、取り敢えずここには雫は住まない」


「それならいいです。こんな奴がここに住んだら私の身が持ちません」


(神もたまにはやりますね……)


 雫をもはやこんな奴扱いするほどにリアラは嫌だったのだろう。だが和樹の部屋には住まないことを聞いたリアラは、安堵の表情を浮かべる。


「けど学校には通わせるらしい」


「そ……そんな」


 リアラは完全にキャラ崩壊してガックリとうなだれている。


「そんなに落ち込むな、私と愛」


「うるさいです、黙っててください」


 最後まで言わせるのも嫌なリアラは、取り敢えず雫を黙らせた。


「その女好きをどうにかしてください」


「そうは言っても男は獣で嘘つきばかりだ。私は何度騙されたことか」


 雫は憎くて仕方がないというような顔をした。


 面倒くさいだけの奴とおもっていたが、どうやらゲームの設定の裏では思ったより辛い出来事があったらしい。


「だから……私はお前も信じてはいない」


 雫は和樹に向けてそう言った。その目からは少しだけだが敵意のようなものも見える。


 ゲームの中では思いもしない事が起こっていたのだろうか。


「……そうか、まあそれならそれで構わない。取り敢えずだ」


「どうかしましたか?」


「遅刻しそうだから早く準備しよう」


 時計を見ると、既にいつも出ている時間から五分オーバーしていた。


「リアラ、今日は仕方ないから一緒に行こう。雫もどうせ編入試験で学校に行かないと駄目なはずだ。一緒に行くぞ」


「そんなこと言ってどこかに連れ込む気だな」


「そんなチンピラみたいな事しないから早く行くぞ、遅刻しちまう」


 リアラと雫を連れて和樹は学校に向かう。


 走って学校に行くと、案外時間には間に合ったので、リアラとは別々で学校に入る。雫には校長室の場所だけを言っておいた。


「珍しいな、俺より遅いって」


 席につくと友樹が話しかけてきた。確かに今までは友樹よりは先に来ていたので珍しいといえば珍しい。


「まあ、色々あったんだ」


 もはや説明するのも疲れる。どうせ明日には分かることなので言わない事にした。


「ふぅ〜ん。で、何でリアラちゃんは少し不機嫌そうなんだ?」


「まあ、それも色々あってな」


「何だよ、気になるだろ?」


「説明するのも億劫なんだ、明日分かる事だから楽しみに……いや楽しみではないが」


 今やっと望んだ生活を手に入れられたんだ。いくら召喚されてしまったからと言って、邪魔をされようものなら俺も対応を考えなければならない。


「はぁ……どうなるんだろ」


 せめてもう何もなければいいと、そう思った。

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