第27話
全ての授業が終わって帰る頃、丁度雫も帰る頃だったらしく、一緒に帰ろうと思った和樹だが、昨日の自分に対する態度からして一緒に帰るのはやめといたほうが良さそうと判断した為、和樹は一人で帰路につく。
マンションに着き、自分の部屋の前に向かうと雫の姿が見えた。雫は隣の部屋に向かって、マンションの管理人から渡されたとされる鍵で自分の部屋の鍵を開けた。
しかし、部屋はあるがここに来たばかりで食材も何もない。なので、仕方なく夕食は俺の部屋で食べさせる事にした。
雫は夕食の時間までは自分の部屋で、神が手配した家具や荷物を整理する。
「和樹様、本当によろしいのですか?」
「んーまあまだ来たばっかりでなんにも知らないんだから仕方ないさ」
インターホンが鳴った。おそらく雫が来たので、リアラに対応してもらう。
「すまない、お邪魔するぞ」
「仕方ないです、和樹様がいいって言ってますから」
朝に一応自重しろとは言っておいた甲斐があったのか、今度はリアラに引っ付こうとはしなかった。
今日の夕食はカレーで、これも和樹の好物だ。
「このカレーは美味いな。流石はリアラだ」
「当然です」
心なしかリアラの雫に対する対応が冷たい。やはり苦手意識が消えていないのだろう。
しかし、今でも雫は俺の方を全く見ない。まるで初対面の時は一体何だったのだろうか? 男に余程敵対心があるように見える。
「なあ、雫はゲームの中で何があったんだ?」
「お前にそんな事を言う義理はない」
余程言いたくない事なのだろう、和樹は軽くあしらわれてしまった。
「……」
リアラは無言でカレーを食べ続けている。どこか怒っているようにも見える。
「ところで、何故お前はリアラと一緒に住んでいるんだ?」
(ん? 何でそれを今聞くんだ? そもそもこいつも神に召喚された事は知っているはずだ。まさかこれも神が都合の良いように記憶を改ざんしてる?)
「いや、俺がゲームで当てたから、神が召喚したんだよ」
「はっ……どうだかな、お前が嘘をついてリアラをいいように利用してるんじゃないか?」
(はいこれもう完全に記憶改ざんされてるよ。そんな事するわけ無いじゃん。何か雫も男に敵対心持ちすぎて疑う事しかできてないし、編入試験とか校長先生どうなったんだろ)
「そんな事しない」
「そんなもの口ではどうとでも言える」
和樹が何を言おうと、雫は信じることは無い。流石にまいったなと思っていると、
「……ふざけないで下さい」
リアラが急に雫に向かってそう言った。既にリアラはかなり怒っているようだ。
「あなたはまだ和樹様とは会ったばかりの筈。それなのに何故勝手に決めつけてそんな事が言えるんですか?」
「初対面の男は大抵いやらしい目つきで私を見た! 別れたあとで襲われたことが何度もあったんだ!」
(ですよね。そこまで俺に対して嫌嫌オーラ放ってるって事はそういう事ですね。もしかして俺も雫をそんな目で見てたのか? 取り敢えずゲームの中の男はここまで雫を男嫌いにした責任とって下さい)
「和樹様は違う!」
「──っ!?」
リアラは遂に雫に怒鳴ってしまった。
「私も最初は不安でしたよ! それでも和樹様は何もしてこなかった! むしろ私の要望にもちゃんと耳を傾けてくれます!」
「そ、そんなもの後で利用するための」
「そんな事しない! 和樹様は……そんな人じゃない!和樹様の事をまだ何にも知らないくせに知ったような口を聞かないでください!」
「──っ!?」
「あなたが男にどんな仕打ちを受けたかは知らない。それでも、そんな奴らと私の和樹様を一緒にしないでください!」
和樹はリアラの方を見た。
「リアラ……」
リアラは目から涙を流しながら言った。
「もう帰ってください。これ以上は本当にあなたを嫌いになってしまう……」
「……分かった」
雫はそのまま隣の部屋に帰ってしまった。
「……和樹様、申し訳ございません。見苦しい姿を見せました」
リアラは和樹に深々とお辞儀した。
(見苦しい、か……馬鹿を言え)
「リアラ、顔を上げろ」
「……はい」
リアラはゆっくりと顔を上げる。その顔は涙を流しながら目元は赤くなってしまっていた。
和樹は優しくリアラを抱き締め、頭を撫でる。
「か、和樹様……」
「ありがとう」
「え……」
「リアラがそんなふうに怒ってくれて、俺も嬉しいよ。俺もリアラの主人をちゃんとできているか再確認できたから」
「そんな事、確認しなくても……」
「泣いてまで俺の事を思ってくれているなんて思ってなかったから」
和樹はこれまでもずっと不安に思っていた。本当に自分がリアラの主人に相応しいのか。望む事をさせてやれているのか。それでも、これだけ自分の為に泣いて怒ってくれたのだ。
「和樹……様……」
「だから……ありがとう。俺もリアラの事は大切だと思ってるよ」
「……っ……ぁ……」
抱き締めているので、リアラの顔は和樹の胸の中なのでどんな顔をしているか分からないが、鼻をすすっている音も聞こえてしまっているので、泣いているのが分かる。
「そんなに泣かなくてもいいのに……」
「だ、だって……」
「……可愛いなあ」
「……こんな時に、そんな事言わないでくださいっ」
「ごめんごめん」
俺がやってきた事は間違っていなかった。これからも、リアラと一緒に平和に暮らしていきたい。
「本当にありがとう」
「……はい」
まだメイドとの生活は続く。望む生活が送れるようにもっと頑張ろうと決意を固める和樹であった
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