第49話 最終章 魔王とおでんと自衛隊 その4
ごった返す人、人、人。
富士山を背景に4台並んだ89式装甲戦車の主砲が火を噴いた。
鼻につく火薬の匂いの中、肺まで響く重低音。
弾頭の着弾の様子を見てコーネリアは表情を歪ませた。
「……龍化した我でもひょっとすればかすり傷をおうやもしれんな」
「逆に言うと、かすり傷で済むお前が凄いよ」
やはり魔王ってのはとんでもないみたいだな。
「じゃが、あれは砲身の直線距離上しか弾を出せぬとみた」
予備知識なしのたった一目でそこまで見破るか。
流石は戦闘民族……ってところだな。
「じゃったら、砲身の直線状に立つことさえ避ければどうということもない。まあ、あそこにある四体と交戦して負けはありえぬじゃろう」
「相手が4両じゃなければどうなるんだ?」
俺の言葉にコーネリアはピクリと耳を動かした。
「この世界では戦車(アレ)は何体いるのじゃ?」
「この国だけで装甲車までを含めると1000は余裕で超えるんじゃねーか? この世界ということであれば……万はくだらないだろう」
「…………あれが……万?」
コーネリアが絶句したところで戦闘ヘリが飛んできた。
そうして、目標に対してM230――30mmチェーンガンが火を噴いた。
30ミリ口径弾が毎分600発と言う悪夢のスピードで雨あられのように空から降ってくる。
「くはは! あのようなもので狙われれば若いドラゴンでは数分以内で肉塊じゃな! 流石に我相手では弾は皮膚は通さんがの」
普通の人間が1発でも直撃すれば跡形もなく肉片となって吹き飛ぶレベルだからな。
さしものドラゴンでも毎分600発も食らえばミンチになっちまうだろう。
でも、魔王には効かないか……。
ってか、本当に魔王ってのはとんでもねえな。
コーネリアはしばし笑って、恐る恐ると言う風に俺に尋ねてきた。
「とはいえ、あのようなもので一斉射撃を受け続ければ……いつかは我の皮膚も耐久の限界を超えよう。のう、お前様よ? アレはこの世界ではどれほどにあるのだ?」
「機関砲と言う括りなら万の位でもきかねえんじゃねえかな。あれよりも威力の落ちる重機関銃という括りなら……それこそ数えきれないくらいだ」
「…………数えることができないとな? 何ということ……じゃ」
「ちなみになコーネリア」
「何じゃ?」
「これが陸上戦力だ。海上戦力だと、俺らの世界で言うとノーチスの小島辺りからの遠距離攻撃でマムルランド帝国首都を……たった2時間で火の海にできる」
「何……じゃと?」
「マジで主要施設の建物全部を木っ端微塵に吹き飛ばせるんだ。戦車の主砲よりも、もっと威力の大きいミサイルっていう武器を、数百キロ離れた場所に……数メートル単位での精密な射撃が可能になっているんだ」
「さきほどの戦車の主砲より……じゃと? アレでも我は直撃を受ければかすり傷は食らうぞ?」
「それの何十倍の威力のあるトマホークミサイルなら……お前でも一撃で大ダメージって事だろ」
「そのような馬鹿な事が……」
そこでコーネリアは、はっとした表情を浮かべて空を見上げた。
「何かが……来ておる。とてつもない戦闘能力を誇る……何か……が」
「F-2か」
低空飛行で戦闘機が飛んでいく。
「のうお前様? あの……空飛ぶモノはなんなのかえ?」
「音速の2倍以上で飛ぶ戦闘機だよ」
「音の速度での移動か……魔王である我ですらそのような事は……」
消沈したコーネリアをよそに、屋台で買った焼きそばを口にかっこんでビールをすする。
決して手の込んだ美味い焼きそばではない。
でも、こういう場所で食うってだけでどうしてこんなに美味いんだろうか。
「……」
青ざめた表情のコーネリアは大きく首を左右に振った。
「のうお前様よ?」
そして覚悟を決めた様子で俺に尋ねてきた。
「この世界の学問は……微小なりし深淵世界まで行きついておるか?」
「……微小なりし深淵……分子や原子の世界の事だな。お前等の危惧しているのは、核分裂の技術だと思う。一つの分子を破壊して莫大な破壊的熱量を生み出す技術だよな?」
「恐らくはそれの事じゃろうな。物の重さ……いや、違うかの。ともかく、モノがそこにあるという概念を焼失させて、代わりに莫大な熱の魔法的エネルギーに転換する技術の事じゃ」
「エネルギーに変換されるものは……質量っていうんだよ。E=MCの2乘ってやつだ」
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