第19話 店主の小動物観察日記 その1
週に一度の定休日。
俺はコーネリアと共に街を歩いていた。
帝都の大通りで服飾店やら雑貨店が立ち並ぶメインストリートとなっている。
そこかしこで串焼きの屋台が出ていて、コーネリアが何の肉だか分からない謎肉を頬ばっていた。
「ふむ。不味いの」
「だったら食うなよ」
先ほどから不味い不味いと言いながら、最初に8本買った串は現在コーネリアが頬ばっている分で最後となる。
「お前様の作った焼き鳥の方が万倍美味い」
「まあ、あれは有名な地鶏使ってるからな。衛生管理すら怪しい、そんな謎肉に比べればそりゃあ万倍美味いだろう」
「そうなのじゃ。じゃから……これは不味くてたまらんのじゃ」
「8本目全部完食しといて良く言うぜ」
「今日は賄いメシが無いからの。別に数日食べなくてもどうということはないが、やはり食べていた方が調子は良い」
「ってか、お前は見かけの小ささによらずに結構食べるよな」
ふんっとそこでコーネリアは薄い胸を張った。
「我は魔王じゃからな? 魔界では天才美形大食魔王少女と言えば我のことじゃ」
「何なんだよ天才美形大食魔王少女って……」
そもそも魔王少女という名称からして非常に謎だ。
「ふむ……しかしロクな服が無いの。もう我は帰りたいのじゃが?」
ゲンナリした表情でコーネリアは呟いた。
「いつまでも一張羅じゃ不味いだろ? お前は私服はそれしか持ってねーだろ?」
「そもそもじゃなお前様?」
「何だよ」
「龍は一つのものに執着を示す種族なのじゃぞ? 服も当然その対象じゃ」
「そういえばそんな事も言ってたよな」
そこでコーネリアはやれやれとばかりに両手を広げる。
そうして周囲の服飾店舗を見渡して鼻で笑いながら首を左右に振った。
「魔界では天才美形ファッションリーダー魔王少女コーネリアちゃんと言えば我の事じゃぞ?」
「ファッションリーダーて……」
「そうなのじゃ。ファッションリーダーじゃぞ? 魔界の魔女の森では我の服装が毎回話題になるらしいぞ? そんな我に……今日見てきたような店にあるようなノンセンスの服を着ろとは無茶振りも良い所じゃぞ?」
しかし……と俺はそこで思い至った。
「店の制服は普通に着てるよな?」
「ああ、メイドっぽいからじゃな。一撃で気に入ったぞ」
そういえばこいつはメイド喫茶風接客に思う所もあるようだし、色んな意味であっち系に興味があるのかもしれない。
そこでコーネリアは苛立った様子で俺に尋ねて来た。
「ないのか?」
「何がだよ」
「なんというかこう……メイド的な私服じゃ。それであればギリギリ着てやらん事もない」
「あれを私服にするのはどうかと思うが……」
独特な服のセンスだな。
恐らく魔界でファッションリーダーだったというのはフロックだろう。
って、ひょっとしたらゴスロリ系とかビジュアル系とかそっち系の服を知ったら意外に食いつくかもしれない。
そして、まあ……美形なのは間違いないからそれなりにサマにもなるだろう。
そんな事を考えていると、コーネリアがその場でしゃがみこんだ。
「ん? どうしたコーネリア?」
何やら一心不乱に眺めているコーネリアの視線の先には木箱があった。
そして木箱の中では痩せ細った子猫が丸まっていた。
「おい、コーネリア? どうしたんだ?」
返事のないコーネリアに再度呼びかける。
「いや、なんでもないのじゃ」
めっちゃガン見してんだが……なんでもないって事はないだろう。
「何でもないんだったら行くぞ?」
しかしコーネリアはその場から動かない。
ただ、ひたすらに黒い子猫をガン見している。
「お前、猫を拾って帰りたいのか?」
「はっ? 我が? 魔界では非情にして凄惨なる――天才極悪美形魔王少女と呼ばれる我じゃぞ? 猫ごときに情けをかける訳があるまい!」
そうしてコーネリアは立ち上がり、薄い胸を張った。
「時にお前様よ。しばしこの場で待たれよ」
「……?」
無言でコーネリアは立ち上がって、近くの串焼きの屋台へと歩を進める。
少しして、3本の串を持ってコーネリアが戻って来た。
そうしてコーネリアは子猫の木箱の前に再度しゃがみ込む。
そのまま無言で串焼きの袋を木箱の中に優しく置いた。
「時に……非常にして凄惨なる……天才極悪美形魔王少女さん?」
「なんじゃ?」
「どうしてお腹がすいているであろう痩せ細った子猫に食べ物を与えるんですかね?」
そこでコーネリアは立ち上がり、頬を少し朱色に染めてながら俺を睨み付ける。
「か、か、勘違いするでないぞ? べ、べ、別に猫が可哀想と思ったワケじゃないんじゃからな!」
どこのテンプレツンデレ嬢なんだよ。
その場でコケそうになる俺だったが、何とか踏みとどまる事が出来た。
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