第39話 魔王の店主と酔っ払い その3
「おお……イクラをチーズ……そしてサクサクとした……なんじゃこら? とにかく……こりゃ美味い!」
「イクラがプチプチって……マジでヤバいですねこれ」
「うっはー……卵が……卵が……美味しょっぱいっ!」
「ワインが……嫌でも進んでしまう!」
「枝豆もいつもどおりに美味いな!」
「意外にこのパスタ焼きもポイント高いぜ!」
ともかく……と大魔導士であるところのマコール……翁が口を開いた。
「これは美味い。特にイクラオンチーズオンクラッカーは素晴らしい。これは本当にお嬢ちゃんが作ったのか?」
「当たり前じゃ。我は魔界では天才魔王少女と呼ばれておるのじゃぞ?」
今回は店主の家の本棚から拝借した、経験ゼロのバイトのメイドさんでも作れる料理集に記載されておる料理じゃ。
別に我が作った訳ではないのじゃが、我が作ったのじゃから我の手柄という風に胸を張ってもよかろう。
「いや、本当にこりゃあ美味い。イクラとチーズはこんなにも合うんだな」
「合うにきまっておろう。それに、クラッカーの食感あってこその味じゃぞ? 邪険にするような物言いはしてやるな」
そうして我はくるりとその場で反転した。
「どうしたんだ? どこに行くんだ?」
「再度作りに行くのじゃよ。そのような勢いで食されてしまえば……ものの10分で皿から食べ物は消えてしまうわ」
「ああ、そうだな」
そうして我は厨房に向かう。
冷蔵庫を確認すると、枝豆は既にない。
「と……なると……」
再度……イクラオンチーズオンクラッカーとパスタ焼きを作り始めた。
そしてオーブンのチンと鳴る音と共に焼きパスタを引き上げる。
大皿に盛り付けて、連中のもとに向かう。
我の予想通り、既に先刻出した食べ物は全て大皿の上から無くなっており、連中は今か今かと我を待ち望んていた様子じゃ。
くふふ、と我は思わず口元を歪める。
まるで親鳥を巣で待つヒナ鳥のようじゃ。
愛らしゅうて……虐めてやりたくなってしまう。
「さあ、食らうが良いっ!」
我はイクラオンチーズオンクラッカーとパスタ焼きをテーブルに差し置いた。
「おお……きたあああああ!」
「イクラをチーズ……そしてサクサクとした……2回目でもクセになる!」
「イクラがプチプチって……やっぱりマジでヤバいですねこれ」
「うっはー……卵が……卵が……やっぱり美味しょっぱいっ!」
「ワインが……やはり嫌でも進んでしまう!」
「枝豆はねーのかよ!」
「やっぱりこのパスタ焼きもポイント高いぜ!」
くふふ、やはり連中からは好評じゃ。
我は再度くるりと反転し厨房に向かおうとする。
「お嬢ちゃん? どこへ?」
「作るのじゃよ」
「作る? 何を?」
「イクラオンチーズオンクラッカーとパスタ焼きじゃ」
ふふんと笑いながら厨房に向かう我の肩を爺はギュっと掴んだ。
「おい、待て」
「どうしたのじゃ?」
「1回目、2回目は良い。実際美味かったしな。だが、3回目も同じものか?」
「ああ、同じものじゃ」
「サクサク系ばっかりだが……大丈夫か?」
「うむ。サックサクなのじゃっ! 今日はサックサク祭りなのじゃっ!」
「ひょっとしてお嬢ちゃん……」
「何じゃ?」
「アレしか作れないのか?」
「うむ?」
我は小首を傾げる。
何を言っておるのじゃこやつは。
経験ゼロのバイトのメイドさんでも作れる料理集も万能ではないのじゃ。
限られた食材の中でよくぞここまで頑張ったとむしろ褒めて欲しいくらいじゃ。
当たり前に、アレしか作れぬにきまっておろうが。
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