第22話 異世界料理選手権大会 その1

 午後6時10分。

 店の中はボチボチとお客さんが埋まってきている。

 ここからが忙しいピークタイム……そういった時にコーネリアが声をかけてきた。


「しかしお前様よ?」


「何だよ?」


「たまにはメイド接客も良いのではないか? 月1位であれば……」


 未だにコーネリアはメイド接客に思うところがあるらしい。

 っていうか信じられない事にお客さんの中にも、あの時のコーネリアに衝撃を受けてもう一度見たいと言う人もチラホラと存在する。

 

「だからウチはそういう店じゃねーから……」


「じゃがしかし……」


 なおも食い下がるコーネリアに、俺はゴツンとゲンコツを落とした。


「むむゥ……」


「馬鹿言ってねえで、早くお客さんに水とオシボリ出してこい」


「……この店主……いつか泣かせてやるのじゃ」


 片頬を含まらせてコーネリアが渋々と客席へと歩いていく。



 と、その時――黒系統でコーディーネートされた仕立ての良い服を着た50前後の丸眼鏡の男が店のドアを開いた。

 そして厨房に近づいてきて、俺と目が合うとニコリと笑った。


「失礼ですが貴方が店主様?」


「そうですけど……?」


 再度、丸眼鏡の男はニコリと笑った。


「私は徴税官吏でございまして……ところでこの店は……税金関係は店主様が?」


「……税金? その辺りはしっかりしてますよ。料理と同じくらい帳簿も大事だと……ガキの頃から叩き込まれてましてね。まあ……この店は国ごとに帳簿をつけて支払いを行っていますよ。だから毎日細かく……こちらも経理作業で死にそうになってる位でね……」


「国ごとに帳簿を分ける?」


「ええ。この店は色んな国の地下に繋がりますからね。国ごとの売り上げと利益に基づいてそれぞれの国の税制に従って納税してるって事ですよ」


 まあ、国自体が滅んでしまっているような場所につながっている時は支払うべき先が存在しないので税金は払わねーけどな。


「ああ、貴方……完全に納税の仕方を間違ってますねぇ……」


「どういう事ですか?」


「この店はこの国にある訳でしょ?」


「この国にはありますね。っていうか……あるとも言えるし、無いとも言えると言えますね。なんせ世界中につながる訳ですから」


 そこで丸眼鏡の男の口調が変わった。


「ははっ! 認めたな?」


「認めた……とは?」


「つまりこの店はこの国にあると言えると……認めたわけだな?」


「ええ、だからこの国にあるとも言えるし他の国にあるとも言えますね」


「まあつまりだ、この国にあるとも言える訳だ」


 めんどくさそうな奴だな。

 相手もタメ口になったし、こっちも口調を変えようか。


「で、お前さんは何が言いたいんだよ?」


 こちらの態度が変わった事に、若干男は片眉をピクリと吊り上げる。


「つまりだな……拠点をこの国とする交易で儲けたようなモノと……我が国としては判断する」


「ハァ? ウチは交易なんてやってねえぞ?」


 世界的なルールで交易商には、関税や消費税なんかはかかるがそれぞれの国での利益に対する税金は適応されないのだ。

 で、俺はそれぞれの国での利益に応じてそれぞれの国に税金を払っているので……交易商と同じ扱いにされると非常に困る。

 っていうか、もう完全に滅茶苦茶な事になる。

 

「これは私だけの判断ではない。上の上の上の更に上まで話を通してそうなった。で……お前は交易商と同じ税制が適応される。これは決定事項だ」



 おいおいこのオッサン……無茶苦茶な事を言い始めたぞ?


「マジかよ……」


 俺の顔から血の気が引いていくサマを眺めて、丸眼鏡は満足げに頷いた。


「そのとおりだ。他の国での全ての利益も合わせたところで、この国で税金がかけられるという事だ」


「ちょっと待てよ? もう一度言うが、俺は他の国で……ちゃんと利益に応じた税金を払ってんだぜ?」


「そのような事は知らない。他所の国は他所の国で、我が国は我が国だ」


「おいおい、それじゃ他所の国とここの国で税金の2重取りじゃねえのか?」


「それはお前が勝手に他所の国に税金を払っていた訳だろう? ともかく、我が国ではそういう制度となる訳だ」


「勘弁してくれよ……1000年前に各地に話を通して……そこからずっとウチはそれでやってんだが?」


「生憎だが我が国は200年前に王国から皇国へと生まれ変わっていてな。1000年前にどうだろうがそのような事は関係がない」


 おいおいマジかよ……。

 この馬鹿の言う事を聞いたら、他所の国でも払ってるから……利幅の半分以上がぶっ飛ぶぞ。

 真っ青な顔になった俺に、ニヤリと丸眼鏡の男は笑った。


「帳簿の保存は何年分程度ある?」


「100年分程度は倉庫に保存しているが……紙がダメになるまでは残してるんだ」


 そこで男は口元を吊り上げて笑った。


「それでは100年分で勘弁してやる。良かったな? 我が国建国の200年分を遡られなくて……」


「それって……?」


「過去100年分の足らずの税金を支払ってもらう。そして支払うべきものを支払っていなかったのだから、遡っての懲罰的な延滞金が適応される」


 丸眼鏡の男は既に予想額での概算を計算してきていたらしく、俺に一枚の紙を渡してきた。


「おいおいマジかよ」


 過去100年の税金の一括……っていうか延滞金がマジでヤバい。


 ――複利計算での倍々ゲーム。



 正に、文字通りの天文学的数字になっている。

 コーネリアの親父さんから、カツカレー食べ放題1000年分の前払いとしてもらってる金塊を全て現金化しても間に合わない。


 そこで俺はクラリとその場で倒れそうになる。

 なんせ、この額を真面目に払おうとすれば――


 ――破産するしかないのだから。



「ちなみに……きちんとした税金の金額が確定した後、一定期間以上払えない場合は身柄を拘束され、最悪の場合は奴隷商に売られる事になるからな」


 さて、どうしたもんか。


「で、目的はなんだ? 回りくどいのは好きじゃない。俺に何をさせたい?」


 驚いた……と言う風に丸眼鏡は大きく目を見開いた。


 まあ、俺は途中から色んな違和感には気づいていたのだ。

 っていうか、ウチの店が特殊なのは色んな国が知っている。

 お客さんも色々とアレな人が多いので、道理の通らない事でウチに手を出せば、下手すれば国際問題にまで発展する可能性すらある。


 ――そしてこの場合は難癖に近い。


 更に言えば、この男は『上の上の上の更に上』にまで話を通していると言う。

 そこまでの上……普通に考えれば徴税官吏という組織を乗り越えた、更に上である事を意味するだろう。

 男は懐から羊皮紙を取り出した。

「店主に出て貰いたい催し物があってね」

「催し物?」

 ああと頷き男は言った。

 羊皮紙を見ると、そこには『ジギルハイム皇国万国博覧会』との文字が躍っていた。



 ――ジギルハイム皇国。

 元々は大陸東方の辺境国だったが、自らを戦神の生まれ変わりと名乗るヤンチャな王様が色々とヤンチャな事をして成り上がった国家だ。

 国の大きさとしては上の下程度で、この前にイフリートの炎剣を持って店で暴れたボンボン王子の国よりもちょっと上くらいだろう。

 まあ、そのヤンチャな王様が崩御してからも、政治経済や戦争と積極的に色々と施策を施して、勢いある新興国となっている。


「博覧会を目当てに世界中から要人が集まるのだ。我が国としての沽券に関わる問題で絶対に失敗する事はできない。例えば、博覧会で開かれる武術会で超大国マムルランド皇国宰相のムッキンガム氏を筆頭に各種有名人をお呼びする」


「……」


「ここだけの話だが……まあムッキンガム氏には勝てないだろうが、我が国が誇る次代の英雄候補……若き武神のデビュー戦となる。決勝戦でのムッキンガム氏と我が国の剣聖との名勝負は世界各国で語り草となり、我が国が誇る武力の評判はうなぎのぼりとなるだろう。いや、ひょっとすると……ムッキンガム氏の年齢を考えると……勝利も有りえる」


 黙りこくる俺に丸眼鏡は言葉を続ける。


「そして開かれる催し物に……料理大会がある訳だ。端的に言えば……お前には咬ませ犬になってもらいたい」


「咬ませ犬?」


 ああ、と丸眼鏡は頷いた。


「国の権勢を他国に示すには色々とあってな? まずは軍隊の力だ。これは説明せんでも分かるだろう。そして、次に文化だ」


「……」


「美術や音楽、そして料理。これらは民のレベルの高さを示し、各種の技術と学問のレベルの高さを示す事に直結する」


「……」


「我が国の皇帝は美食家で知られる。10年ほど前から世界中の料理人を集めて……料理の学校を作ったのだよ。そして料理大会には……そこを首席で卒業する麒麟児が出場する」


「無論、料理大会には各地からお前も含めて高名な連中を呼んでいる」


「……」


「ああ、無論本気を出してもらっても構わんぞ? まあ……世界中の料理を極めた天才相手に……勝てるのであればなっ!」


「いくつか聞きたい」


「税金関係はそれでチャラになるのか」


「こちらも多少の無茶を言っているのは承知だ。ただし、出ないのならばきっちりと取り立てる」


 溜息と共に更に尋ねる。


「調味料と食材と調理器具の持ち込みは?」


「無論問題ない」


 良し……と俺は拳をポキポキと鳴らした。


「出てやる」


「まあ、それ以外に選択肢はないだろうが、快諾は感謝するよ」


「ああ、出てやる……出てやるから……」


 俺はキッチンの奥に引っ込み、塩の入ったケースを持ってきた。

 そしてコーネリアをキッチンまで手招きする。


「……とっとと失せろっ! おいコーネリア! 塩をまけっ!」


「えっ!?」


 コーネリアが塩を投げて、俺はファックサインを作る。


「お前の上司に伝えとけっ! 先に喧嘩を打ったのはお前等だ……っ! 世界各国の要人の前で赤ッ恥かかされても知らねえぞってなっ!」


「痛っ! 痛いっ! 痛いっ!」


 コーネリアの塩撒きだ。

 本気で投げればショットガンレベルの殺傷力はある。

 が、しかし……マナーの悪い客対策に、以前にコーネリアに塩をまくときの力加減は教えてある。

 つまりは、めっちゃ痛い程度に調整してあるのだ。

 

 脱兎の如くに丸眼鏡が逃げ出した後、コーネリアが俺に尋ねて来た。


「話は聞かせてもらったぞ!」


「うっとおしい奴だったな」


「つまり……我がこれからする仕事は……じゃな?」


「ん?」


 胸を張ってコーネリアは言った。


「国を一つ滅ぼせば良いということかの?」


 ゴツンとゲンコツを落とす。

 ってか、実際にやろうと思えばこの娘なら単独で……できちゃいそうだから困るのだが。


「滅ぼす系は禁止だ。とりあえず何日か店を休みにするからお前は好きにすればいいぞ。別に一緒に来なくていいし」


 ぐぬぬ……とコーネリアは苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 と、先ほど丸眼鏡が置いて行った羊皮紙を手に取り、嬉しそうに口元をほころばせた。


「じゃあ、これなら良いか?」


 コーネリアの指さす先は博覧会の催し物紹介の欄の……とある項目だった。


「ははっ……ムッキンガムさんも大変だな。まあ良いぞ。後遺症が残るような大怪我させないんだったらな……後……対戦相手に恥かかせさない程度には手加減してやれよ?」


 そうしてコーネリアは嬉しそうに笑った。


「ふふ……武術大会か。腕が鳴るのう……!」


「ああ、後……ジギルハイム皇国の連中が対戦相手だったら恥かかせるとか気にせんで良いぞ。殺さん程度に遊んでやれ」



 と、そんなこんなで俺達は3日間の臨時休業を取ることになったのだった。











「にぎやかじゃのう……これが万国博覧会前の熱気という奴か」


 街の中は人でごった返しておった。

 大通りには屋台が立ち並び、道行く者の半数ほどは串焼きや揚げたパンを食しておる。

 それに屋台に併設されたテーブルに陣取り、昼間から飲んで騒いでおる連中もおって中々のカオス加減じゃ。


「まあ、200年前にヤンチャな王様が戦争に勝ちまくって一大穀倉地帯を吸収したからな」


「で、この国は王国から帝国になって富国強兵に努めたという事じゃな」


「ああ、そういう事だ。文化や学問にも相当な金を投資して名実共に強国への道を歩んでいる」


「それだけ聞くと悪い国には思えぬのじゃがのう?」


「やり口が無茶苦茶なんだよ。俺を引っ張り出した時のやり方にしてもそうだしな……」


「ふむ?」


「例えば魔法学院の教授なんかを集める時は、札束で頬を叩くか、スキャンダルを調べ上げて恫喝するか……あるいはその両方かだ」


「お前様を引っ張り出す際にも無茶苦茶な恫喝をしておったな?」


「まあ、急速な国勢の強化を狙ってんだから多少の無茶は分からんでもねーんだが……やられる方とすれば迷惑この上ねーよな」


 と、そこで我らは国の中心部である帝国議会前広場に到着した。

 明日の博覧会に向けて、最後の作業が急ピッチで行われておるようじゃ。

 

「と、言う事で我は行ってくる」


「おう。あんまり弱い者イジメはするなよ?」


「それはこちらの台詞じゃ。お前様こそ……多少は手加減してやるのじゃぞ?」


 店主は料理会場の下見で、我は武術大会の予選じゃ。

 武術大会の参加者は総数8名で、7名は各国から選ばれた選手達じゃ。

 そうして残り1名が一般参加枠の予選を勝ち抜いた者が出る事となっておる。

 武術会場の近くまで行くと、そこには悔し気な顔をして屈強そうな男どもがたくさんおった。


「くそっ! 無茶苦茶じゃねえか!」


「全くだ! ありえねえにも程がある!」


 全員が全員……納得がいかぬ風に憤っておる。


「はて……?」


 その中のハゲ頭の男を捕まえて、我は話を聞いてみた。


「どうしたと言うのじゃ?」


「どうしたもこうしたもねーよ! 無茶苦茶なんだよっ!」


「無茶苦茶……と言うと?」


「アレを見てみろよっ!」


 男の指さす先には……虹色に輝く像があった。


「ふむ? あれはオリハルコンかえ?」


「ああ! その通りさ! で……この予選のクリアー条件が笑えるぜ?」


「笑える……と言うと?」


「拳で殴ってオリハルコンに傷をつける……あるいは変形させろって話だ! こんな無茶苦茶が通る訳がないっ!」


 と、そこで博覧会の主催者側の人間と思わしきオールバックの白髪の男がこちらに向けて歩いてきた。


「無茶苦茶とは……心外ですね?」


「心外も糞も……無茶苦茶だろうが!? 剣や斧で傷をつけろってだけでも相当な無茶だぜ? それを……どこの世界にオリハルコンを殴って傷をつけたり奴がいるんだ?」


 はははとオールバックの白髪が、その言葉で笑ったのじゃった。


「これはね? ムッキンガム様……大英雄も参加するようなイベントなのですよ? 当然、一般枠からであればそれ相応の力を示さなければ……ね?」


 そこでハゲ頭の男が食ってかかった。


「武術会参加の総数8名中……ジギルハイム皇国の人間が4人って話じゃねえか? で、ゲストが3名……そんでもって一般参加枠は実質的に不可能な課題だ。8名のトーナメントで、一般参加枠は消える。で、1名はシード扱いの不戦勝だろ? やることが……コスいんだよっ!」


 そこで再度オールバックの男は笑った。


「いやはや、これは心外……あるいは、ムッキンガム様であれば……素手でも傷をつけるかもしれませんよ?」


「大英雄ですらできるかどうか微妙な話だろ!? 無茶も良い所じゃねーか!?」


 と、そこで我はオリハルコンの像に向けて歩を進める。


「まあ、要は……殴って壊せば良いのじゃろ?」


 オールバックの白髪と、ハゲ頭の男はポカンとした様子で大口を開く。

 そして二人は肩をすくめて呆れたように笑ったのじゃった。


「流石にそれは無茶だぜ?」


 さて、阿呆共は放っておこう。

 っていうか、普通にムッキンガム如きでは素手でオリハルコンには傷はつけれんじゃろう。

 まあ、剣を使えば……あるいは一刀両断できるやもしれんがな。


 そして、流石にオリハルコンを拳で曲げるには……我でも骨が折れる。






「……久しぶりに本気を出すとするか」






 深く、深く深呼吸を行う。

 そして体中に魔力をたぎらせていく。


 ――身体強化術式を全て開放。


 ――龍闘気発動権限を行使……最大出力で拳に纏わせる。


 ――魔闘気発動権限を行使……龍闘気に被せて拳に纏わせる。


 ――物理攻撃ダメージ5倍のスキルを行使。


 ――対金属ダメージ増大のスキルを行使。


 ――対オリハルコンダメージ増大のスキルを行使。

 

 ――格闘スキル……レベルマックスを行使。


 ――龍式格闘術スキル……レベルマックスを行使。


 ――対防具破壊スキル……レベルマックスを行使。


 ――スキル……力溜めを行使。


 ――スキル……鼓舞を行使。


 ――スキル……加速を行使。


 ――スキル……電光石火を行使。


 ――スキル……神速を行使。


 ――スキル……覇者の一撃を行使。


 ――スキル……魔王の一撃を行使。


 ――スキル……核熱を行使。


 ――スキル……量子分解を行使。


 ――スキル……幽子分解を行使。


 ――スキル……絶対破壊を行使。


 ――スキル……絶対粉砕を行使。


 ――スキル……アルティメットフォースを行使。


 ――その他、我の所有する1万程度の攻撃スキルを行使。



 そうして、我は腰を深く落としてオリハルコンの像に向き直る。

 これでもかと拳を握りしめ、腰だめに拳を構える。



 そして。

 タメてタメてタメてタメてタメて――



 ――渾身の正拳突きをオリハルコンの像の腹に向けて放った。



 ズ―――――ドゥ――――――ン―――――。


 

 爆発音にも似た音と共に拳はオリハルコンに着弾。

 そしてオリハルコンの像は――数千の単位に砕け散り、後方に向けて散弾の如くに飛び散っていった。

 掌をグーとパーに何度か開閉させる。

 そのまま我は頷いた。



「うむ。まだまだ我も錆びてはおらぬな」



 まあ、勇者なり英雄のレベルになるとオリハルコンの鎧を装備していることは珍しくもない。

 この程度の防具破壊ができなくては、魔王の看板はあげられぬのは道理じゃろう。


「しかも動かぬ的じゃしな。有効そうなスキルを全て放出可能な時間があるのであれば……粉砕できぬ方がおかしかろう」


 と、そこで後方を振り向くと、血の気の引いた表情でオールバックの白髪とハゲ頭の男がパクパクパクパクパクと何度も口を開閉させておった。

 そうして青い顔で二人は顔を見合わせて言ったのじゃ。

 

「オリハルコンって……砕けるのか?」


「砕けないから……オリハルコンなんですよ? 変形や傷をつけるならまだしも……いや、素手であれば……それすらがそもそも有りえない。例え大英雄であるムッキンガム様でも……ありえない!」


「やっぱりこの課題のクリアーって……無理だったんじゃねえか!」


「上からの指示だったんですから仕方ないでしょう?」


「じゃあ……あの娘は一体何なんだ?」


 そうして二人は気味が悪いものを見るように我に視線を送る。


「……」


「……」


「分かりませんよそんなの」


「はたして妖魔か妖怪(モノノケ)か……」


 いや、事実として魔王じゃからな。

 喉元までツッコミが出かかったが、そこは店主に止められておるので辞めておく。


「とりあえず、どうしましょうか?」


「俺はもうアレには関わり合いになりたくないぜ? とりあえず予選突破って事にすりゃあ良いんじゃないか?」


「まあ、それしかないでしょうね……しかし……本当に有りえない……」


 そのまま二人は、その場で膝をついて……ショックの余りに胸の前で十字を切りながら天を仰いだのじゃった。


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