第29話 選手権大会 その8
こんな感じで俺は料理大会の準決勝を勝ち抜いた。
で、これから武術大会の準決勝が開かれる事になっている。
そんなこんなで会場に向かう道すがら、コーネリアが俺に問いかけてきた。
「で、どうするのじゃお前様よ?」
「どうするって何をだ?」
「奴らは審判の買収を行っているのじゃろ? どんなに美味い料理を作ろうと……勝てる道理はあるまい?」
「ああ、そうだろうな」
「じゃから……どうするのかと聞いておる」
俺は懐から手帳を取り出した。
そして、地下食堂の予約状況に目を通す。
予想通りだ。
今回の俺の大会の出場にあたって、店を閉める影響でとばっちりを喰らう形で……あの人の予約は店側の都合でキャンセルとなっている。
と、なればあの人は色々と腹に思う所はあるだろう。
っていうか、店側都合でキャンセルにしたお客さんには、普通に事情を説明しているのであの人も当然、ジギルハイム皇国にキレてるだろう。
「まあ、どうするかって聞かれると、俺はこう答えるしかない――特別ゲストを明日の料理大会の決勝戦にお迎えするってな」
「特別ゲスト……じゃと? それは一体……誰の事なのじゃ?」
「それは明日になってのお楽しみって奴だな」
「何故に今教えてくれんのじゃ?」
「え? 何となくだよ」
「うむ? 何となくじゃと?」
「ああ、何となくだ」
「じゃったら教えてくれんか?」
「え? 嫌だよ?」
そこでコーネリアは眉をへの字に曲げて頬を膨らませた。
「…………気になるのじゃ」
「気になるって言うと?」
「中途半端なところで急にそんな事を言われれば……そりゃあ気になるじゃろう? そもそも、特別ゲストを連れてくるだけで……どうして審判の買収の問題が解決するのじゃ?」
「ああ、確かに気になるだろうな。だが、明日……あの人が料理会場に訪れればお前の疑問も氷解するはずだぜ」
「じゃから、気になると言うておろう! 教えるのじゃ!」
「え? だからさっき言ったじゃねーか。嫌だってさ」
「何故に教えてくれんのじゃ? このままでは我は気になって夜も眠れなく可能性があるのじゃっ!」
「何故にと聞かれれば俺はこう答えるしかないだろう。楽しいから」
うん。
アホっぽい奴を掌の上で転がすのは楽しい。
っていうか、本当に予想通りにしか反応しないので見ていて楽しい。
妹がいて、もしもアホの子だったらこんな感じなんだろうなと思う。
「ぐぬぬ……良いのか!? 我が夜寝れなくなっても良いのか!? お前様の良心はそれで痛まぬのか!?」
「痛まない」
「ぐぐ……ぅ……! 良いのか? 本当に良いのか? 今のお前様がやっておることは……ただの幼女イジメじゃぞ? 我は見た目10歳ちょっとじゃぞ?」
「いや、お前実年齢は数千歳とか数万歳とかだろ?」
ぐうの音も出ないという風にコーネリアは涙目になった。
そして顔を真っ赤にして頬を大きく大きく膨らませた。
「……もう良いっ! お前様の事なぞ知らぬっ!」
そうしてコーネリアは俺をその場に置いて小走りに駆けだし始めた。
「あほ……あほ……お前様のあほーーーーっ!」
捨て台詞と共にコーネリアは武術大会の会場に向けて走っていく。
「おーい! コーネリア!」
「今更謝っても遅いのじゃっ! 今日はもう……口もきいてやらぬのじゃっ!」
「今から店に寄ってメンチカツカレー作ろうと思ってたんだけど、お前はいらないのかっ!?」
ピタっとコーネリアは立ち止まり、そして満面の笑みと共にこちらを振り向いた。
「食べるのじゃっ! 無論――特盛じゃろうなっ!?」
もしもこいつが犬だったら絶対に尻尾をフリフリしているだろう感じの笑みだ。
ってか……本当に分かりやすいくて、こいつをおちょくるのは本当に飽きない。
「ああ、勿論特盛だぜっ!」
俺は親指を立たせて、コーネリアは満足げに大きく頷いた。
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