第52話 エピローグ 前編

「本当にお前って美味そうにカツカレー食うよな」


「まあ、賄いのカレーの為に生きていると言っても過言ではないからの」


 営業終了後、俺はいつもどおりに猛烈な勢いでパクつくコーネリアを眺めていた。

 小動物的な動きで……魔王という肩書が聞いて呆れる感じだ。

 でも、まあ――本当にこいつは見ていて飽きないな。


「ああ、後……半年後くらいから我は休暇を貰うぞ?」


「っていうと……どうしてだ?」


 そこでコーネリアはスプーンを置いて、神妙な面持ちを作った。

 こいつがメシの最中にスプーンを置くなんて本当に珍しい。


 そうしてコーネリアは息を大きく吸い込んで――


 ――言葉をしばらくためてからこう言った。

 


「……できたのじゃ」


 コーネリアは少しだけ頬を赤らめ……確かにそう言った。


 しばしの沈黙。


「できたっつーと?」



「……子供じゃ」



 再度の沈黙。

 俺とコーネリアは再度見つめ合う。


「……マジ?」


「……うむ。マジじゃ。月のモノが……2か月ほどきておらん」


 まあ、やることやってるし、いつかはそうなるとは思っていたが……マジかよ。


「しかし、お前さ……」


「何じゃ?」


「大きくなれるなら……最初からその姿を見せろよな」


 実はコーネリアは子供形態だけではなく、大人形態にも変身できる。

 俺は女としてはこいつを見たことは無かったんだが、とんでもない美女だった。

 その姿を見た時から……まあ、男女の関係になるにはそれほどの時間はかからなかった。


「元々、我は暗黒邪龍じゃぞ?」


「人間に化けることができるなら、子供も大人も自由自在っつーのは分かるけどさ」


「ところでの?」


「何だ?」


「……我はまだ聞いておらん」


「っつーと?」


「お前様から……きちんとした形では聞いておらんのじゃっ!」

 

 プリプリとしながらコーネリアは頬を膨らませる。

 まあ、確かにちゃんとは言ってない。

 でも、ガキの付き合いじゃねーんだからさ……と俺は苦笑した。


 まあ、こいつは年齢が数千歳とかでも……基本は頭の中身はお子様だからな。

 しゃあねーな、と俺はため息をついた。


「お前が好きだよ。子供ができて本当に嬉しい」


 その言葉でコーネリアは向日葵のような笑顔を咲かせて、俺に抱きついてきた。


「うむっ! 我もお前様が大好きじゃっ!」


 カレーのルーがほっぺたについてて……この上無くアホっぽい笑顔だったんだが、そんな笑顔が愛おしいと思ってしまったんだから――



 ――俺もヤキが回っちまったもんだ。







「ラインアイス様……遂にこの日が来たのですね」


「ああ、フランソワーズ。ようやく僕たちが結ばれる日が……」


 チャペルの鐘が鳴り響き、二人は誓いのキスを交わした。

 このお客さんは、いつもバニラアイスを注文してくれた常連のカップルだ。

 ぶっちゃけてしまうと、一品だけ頼むと後は紅茶一杯だけで粘りまくるお客さんだったから若干の迷惑はあったんだが……。


 まあ、二人が詩集について午後の昼下がりに語り合う姿が、ウチの店の格式を高めてくれていたような気もするから、それでチャラっつーことで目を瞑っていた訳だな。

 そうして結婚式は終わって、披露宴ということで、客人たちは帝都の聖教会の大聖堂から大ホールに通された。


「ってか、流石だな」


「うむ」


 流石は没落令嬢とは言え公爵家と、成金とはいえ新進気鋭の大商会の跡取り息子の結婚式だ。

 色々と超豪華だし、参列者もエゲつない権力者ばかりだ。


 ……あ、マムランド皇帝とムッキンガムさんだ。


 手を振ってきたので、俺は苦笑いしながら手を振り返した。

 っていうか、あんた等……大帝国の皇帝と宰相なんだから、店の外では俺みたいもんは無視しろよな。


「しかし、やることねーな」


「うむ。普通に食事をしておけば良いのではないか?」


「まあ、そりゃそうだな。仕事は終わってるし」


 今日、俺たちが結婚式で呼ばれたのはパーティー料理を作ってほしいという依頼をラインアイスさん達から頼まれたからだ。

 その上で、二人の出会いの場を提供したということで、是非とも客人としても参列してほしいという無茶なオーダーだった。


 っていうことで、俺は中華風の冷菜の詰め合わせを店で作ってきたって訳だな。

 火を使う系のメイン料理は、他のシェフに任せて……俺はあくまでもオードブルだけだ。

 とはいえ、参列者500人超えるから……とんでもない量にはなったんだけどさ。

 そうして結婚披露宴の挨拶が終わって、宴会が始まった訳だが――


「何だこれはっ!?」


「美味いっ!」


「これは肉なのかっ!? 野菜なのかっ!?」


「流石は帝国きっての大商会の祝宴だっ! このような珍しい料理を出すとは……っ!」


 まあ、クラゲの和え物なんて……みんな食ったことねーだろうからな。

 他にも、周囲を見渡してみるとバンバンジーも大好評みたいで何よりだ。

 ハチノス(牛の内臓)の辛味噌炒めも、物珍しさも相まってみんな美味そうに食っている。


「どうしたのじゃお前様よ……ニヤニヤしよってからに」


「いや、こういう風に……カウンター越しじゃなくて、ゆっくりと……俺の作った料理をみんなが食べてるのを見るのってあんまりねーからさ」


「ふむ。まあ、そういえばそうじゃろうの?」


「みんな美味そうに食ってるな」


 そこでコーネリアはクスクスと笑った。


「我の旦那様が作る料理ぞ? 美味くない訳がなかろうに。いや、むしろ驚いてもらわんと困るわ」


「いや、別に驚かなくても良いんじゃねーか?」


「お前様は魔王の旦那様ぞ? 戦いもできぬし、特に男前と言うわけでも無し、権力を持っている訳でも無し……料理しか取り柄がないのじゃから、そこで皆に驚いてもらわなくては我も肩身が狭いわ」


「はいはい、どうせ俺は特に男前でもないし、権力も無し、料理位しかできねーよ。肩身の狭い思いをさせて悪かったな」


 ワザとオーバーにヘソを曲げてすねた風にそう言うと、コーネリアは「むぐぐ……」という風にしかめっ面を作った。

 冗談にしても言い過ぎたと思ったらしく……本当にこいつは分かりやすいよな。


 まあ、そういう風になるように俺も言ってんだけどさ。

 こいつをおちょくるのはやっぱり楽しいからな。


「我がお前様を買っておるところは……料理だけではないぞ?」

 

「っつーと?」


 顔を真っ赤にして、コーネリアは気恥ずかしそうに言った。


「……お前様は……わっ……わっ……我の……事を……とても……愛してくれておるではないか」


「……」


「……」


 互いに見つめ合う事数十秒。

 これは一本取られたな。おちょくるつもりが……こっちがド肝抜かれちまった。


「まあ、その……何だ……アレだ」


「何じゃ?」


「そういうことは外では言わないようにな。恥ずかしいから」


「うむっ!」


 満面の笑みでアホ毛を立たせながらコーネリアはそう言った。


「ところで、のう……お前様よ?」


「何だよ?」


「あと、7か月ほどで子供が生まれる訳じゃ」


「ああ、そういうことになっているらしいな」


「……我とお前様の結婚式はせんのか?」


「店を閉める訳にもいかねーしな……お前を氷結の大地まで迎えに行ったときに何か月も閉めちまってて、あの時に予約キャンセルしたお客さんたちがカンカンなんだよ。結婚式自体はいつかはやらなきゃいけねーが、タイミングが中々な……身重になってお腹が大きくなってからじゃアレだし、出産後になっちまうかもな……そこについてはすまん」


「ああ、そのことか」


 そこでコーネリアは立ち上がり、両手を腰にあてて、無い胸を張った。


「既にお客様たちには話を通しておる」


「……ん?」


「――店で結婚式をやれば良いって……みんな言っておるぞ?」


 しばし俺はフリーズし、そしてポカンと大口を開いてこう言った。


「……え? どういうことだ?」




・作者からのお知らせ

 新作始めております。呆れるほどにお馬鹿な作品で、頭空っぽにして読めると思います。


 

・タイトル

エロゲの世界でスローライフ

~一緒に異世界転移してきたヤリサーの大学生たちに追放されたので、辺境で無敵になって真のヒロインたちとヨロシクやります~



・リンク

https://kakuyomu.jp/works/1177354055461804147

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