第47話 最終章 魔王とおでんと自衛隊 その2

「うおおおお!!!!!! 何なのじゃ! 何なのじゃコレはっ!?」

 機内にコーネリアの絶叫が響き渡る。

「な、な、斜めじゃっ! 床が斜めじゃっ!」

「まあ、斜めにならないと飛べないからな」

「と、と、飛んでおるのか!? この巨大な乗り物――飛んでおるのかっ!?」

「だから事前に説明したじゃねーかよ」

 ってな訳で俺たちは新千歳空港から成田行の飛行機に乗り込んでいる。

 札幌市内のちょっとヤバ目のスジの貴金属店で金貨を現金に換えた。

 なので俺のリュックには、ちょっとした札束が詰まっている。

 帰りも札幌市内の山中の扉からになる。

 本格的な買い出しは最後に札幌市内に繰り出してから……となる訳だ。

 まあ、それは良しとして、俺等が向かっているのは横浜だ。

 お先祖様の実家がある洋食屋さんに顔出ししなくちゃいけねーのと、それに……コーネリアに見せなくてはならないものが富士山にあるからだ。

 別に俺は世界を救うガラじゃねえ。

 けれど、魔王を店員として雇っちまった以上は、俺がやっぱり何とかしなくちゃいけねーんだろうな。

 まあ、こいつの存在意義については、やっぱりこいつ自身の手で決めてもらう形になるんだろうけれど。

「うわあ! 凄いのじゃ! 凄いのじゃ!」

 と、コーネリアは俺の悩みを知ってか知らずか、先ほどからテンションマックスで機内で騒いでいる。

 その様を見て、若者3人がこちらを見てひそひそ話を始めた。

 見た目から……ちょっとオタクっぽい3人組だ。

「おいおい見ろよあれ……リアル……のじゃロリだぞ?」

「ああ、しかも半端なく可愛い……」

「のじゃロリ……いや……ロリババアって本当にいたんだ」

「ファンタジーの世界の住人だと思っていた」

 いや、実際にファンタジーの世界の住人なんだけれどな。

 ってか、見た目だけじゃなくてこいつらリアルでオタク系だな。

「ほれ! 見ろお前様よ! フカフカなのじゃ! フカフカなのじゃ!」

「ん? フカフカ? 何がだ?」

「ほれ! ほれ! 下じゃ下!」

 コーネリアは窓に顔をくっつけながら、下方に広がる雲海を指さした。

「フカフカが延々と広がっておるのじゃ! あそこにダイブすればぽよーんと跳ね返りそうじゃな!」

「お……おう……」

「くふふ。我はフカフカにダイブがしたいぞ! そして、外は良い感じの陽気じゃっ! そのまま我は昼寝をしたいのじゃっ!」

「地上では陽気でも、外はマイナス50度だ。後、速攻で突き抜けて……地面までまっさかまだけどな」

「何を冗談を言うておるのじゃお前様は。あんなにフカフカなのじゃぞ? それに先ほどまではポカポカ陽気だったではないか? マイナス50度の氷結地獄などありえぬわ」

「いや、冗談と言われても……」

「良し、決めたぞ! 我は決めたぞ! 窓を破壊して外に出る! そして我はフカフカにダイブするのじゃ!」

 ノータイムでコーネリアの頭にゲンコツを落とす。

 窓を壊せば気圧差で暴風が吹き荒れて機内がとんでもねえことになるだろっ!

「駄目だ。絶対にやったらダメだからな」

「むぐゥ……」

 涙目になったところで、キャビンアテンダントさんがこちらに回ってきた。

「飲み物はいかがでしょうか?」

「ああ、それじゃあオレンジジュースを貰おうかな」

「うむ? 飲み物じゃと? ジュース以外に何があるのじゃ?」

「コーヒーとお茶がありますが如何なさいましょうか?」

 そこで俺にコーネリアが耳打ちで聞いてきた。

「こーひーとはなんじゃ?」

 そういえばこいつはコーヒー知らなかったんだっけか。

「大人の飲み物だよ」

「おお、大人の飲み物か! くふふ! 天才魔王少女である我であるところ、これは一度チャレンジせねばなるまい! そこの給仕よ! 我はコーヒーを所望するぞっ!」

「きゅ……給仕?」

 何とも言えない表情でキャビンアテンダントさんはコーネリアにコーヒーを差し出した。

 そしてコーネリアはコーヒーを受け取ると、優雅な仕草でコップを口に運んだ。

 ゴクゴクとコーヒーを飲み下し、そして顔をしかめた。


「苦いのじゃ……」


「そりゃブラックコーヒーだからな。砂糖とコーヒーミルクを入れるんだよ」

 コップを奪い取り、俺は苦笑しながらミルクと砂糖を入れてやる。

 かなり多い目に砂糖を入れてやったところでコーネリアに手渡した。

「うむ! 美味いのじゃ!」

 ニッコリとしたところで、先ほどの若者3人がこちらに話しかけてきた。

「あの……写真撮らせてもらっていいですか?」

「写真?」

「その子……外国人ですよね? 日本語ペラペラですけど」

「まあ、そんなところだな」

「外人でめっちゃ綺麗なロリババァなんて……これは写真に撮っておかないとって……」

 コミケのコスプレの姉ちゃんじゃねーんだぞと俺はゲンナリした。

「ふむ? めっちゃ綺麗とな? それは我の事か?」

「はい。できれば写真を……」

「写真とは何じゃ?」

 あっけらかんと尋ねるコーネリアにポカンとした表情を若者は浮かべる。

「ちょっとデジカメ貸してくれるか?」

 俺は若者からデジカメを受け取り、コーネリアを写真に収めた。

「まあ、こんな感じに映像を保管できる機械だ」

 自らの写真を見つめながら、コーネリアは目を爛々と輝かせる。

「おおおおお! 凄いのこれ! なんじゃこれ!? どーなっておるのじゃ!? マジでヤバいのコレっ!」

 いかん。

 めっちゃ食いついた。

「そ、それでは撮らせてもらえますか?」

「うむ! 魔界では超絶美形魔王少女と言えば我のことじゃぞ? 我の麗しき姿をキッチリと保存しておくのじゃ!」

 その言葉で3人組の表情もまた爛々と輝いた。

「うおおお! 魔界! 魔界! キタ! キタコレ! 魔界キタ! 魔界! 魔界キタコレ!」

「中2病キタコレ! 痛い! 痛い! この子痛カワイイっ!」

「キターーー! 魔王少女キターーー!」

 何故かコーネリアと3人組はハイタッチをかわしはじめた。

「ふふん! どうやら貴様らは……我の凄さが分かる連中のようじゃの?」

 どうにも似たような何かを互いに感じ取ったらしい。

 ってか、普通にコーネリアはメイドコスプレ大好きだからな。

 ひょっとせんでもコーネリアはオタク文化に潜在的に興味はあるだろう。

 と、そんなこんなでパシャパシャと撮影会が始まった。

 何故だか若者たち以外の人達も、コーネリアを被写体に勝手にスマホで撮影を始めたりしている。

 俺は、おいおい、見世物じゃねーんだけどな……とゲンナリする。

「皆さん? 確かにこの子は日本語ペラペラです。けど……日本は初めてなんですよ! そろそろ勘弁してやってもらえないですかね!?」

 しかし、俺の声は誰にも届かない。

「すげえー!」

「お人形みたいだ!」

「これぞ本当の100年に一人の美少女だ!」

「ふふ! そうじゃろうそうじゃろう!」

「ロリババア……キターーー!」

「魔王様キターー!」

 どうしてこうなった……と頭を抱えていたところで、後ろの席のおばちゃんがコーネリアに声をかけてきた。

「お嬢ちゃん……酢昆布食べるかい?」

「うむ? 酢昆布とな?」

「やっぱり食べた事ないのね! ほら、あげるわ! 日本のお菓子よっ!」

「もらっておこうか……ってかこれマジで美味いのっ!」

 酢昆布の好評を受けて、俺の席の近くの連中が自分のカバンの物色を始めた。

 そうして、前の席のおばちゃんがコーネリアに声をかけた。

「本当に可愛いわねこの子。チョコレートもあるわよ?」

「うむ! 何でも食べてやろう! ははは! 我は大人気ではないかっ! 全く……可愛いとは正義よのう? のう、お前様?」

「あんまり調子に乗るなよ……」

 と、そんなこんなで機内でプチアイドルと化したコーネリアは上機嫌で空の旅を満喫したのだった。

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