第十七話 アステンダー伯爵との話し合い。
「ミーヤも言ってたし......ほぼ確実に意図的な火事だと思うんです」
「そうねぇ。伯爵様とうちは最近、比較的友好な関係にいたと思うのだけど」
「ですよねぇ」
「でもまあ、伯爵領に向かったからって、伯爵様と繋がりがあるとは言えないでしょうけど」
館に帰って、お母様に相談してみた。
「そういえば、火事はうちの領地だけで収まったわよね」
「ええ、全て消しました」
「そう。じゃあ、伯爵様に呼び出されることは無いわね」
「まあ、呼び出されるとしたら別の案件か、お悔やみの言葉とかでしょう」
「でも、私達は森を危険に晒したお詫びと、犯人があちらに逃げた可能性についてお話しないとね」
黒幕が伯爵じゃなくとも、どのみち面倒くさいことにはなるらしい。んー、隣の伯爵って誰だっけ?えっと確か、あ.....アステ......
「奥様、アステンダー伯爵から使いが来ております」
「ありがとう、セバス。お通しして。あと、つい最近ガイナスが買ってきたあのお菓子、一箱お渡ししてね。伯爵様にお土産よ」
「承りました」
そうそう、アステンダー伯爵。
――って、それイレネさんの実家じゃん!?そっか、イレネさんお隣だったのね。
......失礼のないようにしよう。
「奥様、伯爵様からこちらを」
「ありがとう、読ませていただくわ」
「お返事はできるだけ早急に、との事です」
「分かったわ、ありがとう。うーん、どれどれ」
どうやら伯爵から話があるらしい。ナイスタイミングというかなんというか。
「明後日の午後2時?随分と急ねぇ.....」
「奥様、その日は隣領のガスト男爵夫人とお茶会がありますが」
「えぇ...........。伯爵のほうが身分は上ですから、そのお茶会はお見送りしないといけないわよね。同じ男爵夫人なら分かってくれると思うのだけど........でもねぇ、ガスト夫人だし......」
「では、使いを出しておきますか」
「そうして頂戴」
「はい」
ナイスタイミングじゃなかったよ。伯爵。
ガスト男爵夫人は、もう一人のお隣領の夫人だ。うちになにかと嫌味を言ってくる典型的なライバルキャラである。
お隣で常に張り合っているからしょうがないんだろうけど、今回の事とか「まあ、前々から約束していたワタクシを無視して伯爵に会いに行くんですの?礼儀がなってませんこと、全く平民の出はこれだから嫌なのですわ」.....的なことをきっと言ってくるだろう。そんで、後々また嫌がらせを.......ハァ、面倒臭い。
といっても、私に被害が回ってくるのはガスト夫人の嫌がらせじゃなくて、その娘のリビアさんの嫌がらせなんだけどね。
ガスト夫人はすごいけど、その娘もこれがまた典型的なライバルキャラだ。
そうだね、彼女なら今回の事は.....
「ねえ、ステラ。貴方のとこのメデイロス夫人、お母様との約束をそっちのけに伯爵様に会いに行くんですって?それに、お母様は前から約束していたのよ?それが、昨日連絡が来た伯爵様を優先させるなんて.......無礼極まりないし、全く下品ね。礼儀作法を学び直したほうが良いのではなくて?」
「ステラ。なんなの急に、リビアちゃんの真似したりして」
「....いや、彼女なら今回の事こういうかなーと思って」
「......なるほど、言いそうね....」
ていうかなんでリビアさんって分かったんだろ。似てたのかな?
だとしたら私、話し方変えたほうがいいかも。
「ステラ、今日はもういいから寝なさい。後は私でどうにかするわ。あと、明後日の伯爵様との面会、ミーヤさんと貴女、あと炎鼠の鑑定をした人を同行させたいのだけれど。予定を聞いておいてくれるかしら?」
「はい。じゃあ、いい夢を」
「ええ。いい夢を」
◇◇◇
次の日。
「というわけで、お願いしたいんだけど...... なんか断れないお願いしちゃって、ごめん」
「住処の領主のゴタゴタが収まるのなら行くことは構わない」
「まあ、あたしもその日は休みですし。いいですよ、全然」
「折角の休日をごめんなさい....」
ミーヤも、リーリアさん......鑑定の人も、即了承してくれた。
しかし、普通の平民なら伯爵に会うのって緊張するもんじゃないの?と聞いてみたら、
「私はBランクだから、お貴族様の護衛ならしたことあります。それに、緊張するけど、それを顔に出してたら舐められるじゃないですか」
「ミーヤは、事情は言えないけど、王にも会ったことがある。伯爵くらいで動じない」
らしい。伯爵くらいって....。
しかしまあ緊張されすぎても困るので、これくらいで良かったと思っておこう。
「ねえステラ、あんた明後日うちに来るんだってね」
「ええ、まあ......先日のことのお詫びも兼ねて、です。でも、伯爵様から呼び出されたのはなんの案件なんでしょうね」
「私は次女だからそこまで詳しくないわね。でも、最近お父様が不機嫌なのよ。気をつけてよね」
軽く青ざめたかもしれん。
「ええっ!?いつからですか!?なんで!?」
「ちょっ、叫ばないでよ」
「あ、すいません」
「いいわよ。それでそうね、怒ってたのはステラのことを紹介したときくらいから」
「なんですかその無駄に怖がらせるような言い方.....」
「理由は....なんでかしらね?」
「不安だけを残していかないでくださいーっ!」
「ええ....?だって、私が知っているのはそれだけよ」
「まあ、そうですけど....ありがとうございます」
「これ以上お父様が機嫌悪くなったら困るの。別にあんたのためじゃないわよ」
「そうですか。でもありがとうございます」
「勝手にして頂戴」
.....なんだろう、イレネさんが急にツンデレキャラになった気がする。いや、前々から見た目はツンデレだったんだけど......なんかこう、いつにも増して...みたいな。
「ツンデレ.....」
「うっさいわね」
今日も楽しい冒険者ギルドである。
◇◇◇
「い、いらっしゃい.....」
「わあ、イレネさん綺麗ですね!」
「うるさいわよ.....」
現在、イレネさん宅である。つまりは、アステンダー伯爵の館である。
あれから二日後、無事にミーヤたちを連れて来た。
「綺麗.....ドレスが」
「素敵ですねー、ドレスが」
「とても洗練されていらっしゃいますね、ドレスが」
「あんたたちはもっとうるさいわよっ、ミーヤ、マイ、リーリア!」
「毎度うちの連れてくる人たちがすみません.....」
「冗談じゃないわよ、全く.....とりあえず、入って頂戴。お父様が待ってるわよ」
「「「「はい......」」」」
玄関ホールを抜けると、そこにはイレネさんによく似た中年の男性がいた。
余談だが、伯爵様の館は造りも装飾もめちゃくちゃ綺麗だった。
「ふむ、よく来た。ご苦労」
「こっ、この度はお招き頂き」
「そういう挨拶はいい。本題に入るぞ」
どうやら伯爵は急いでるようだ。挨拶もそこそこに本題に入りたいらしい。
「一昨日、私の領で火事があった。現場は東の森だ。そなた達と繋がっている森ではない。それで、現場に嗅覚の鋭い獣人がいてな。放火現場にあった人間の匂いを辿るとそなたの領まで行って途切れたのだが、なにか心当たりはあるかね」
なんと。
「なっ!?それは、俺の領で起こった事と同じではないですか」
「ほう。詳しく」
「同じく一昨日、伯爵殿の領地につながる森で火事が起きました。その時現場にいたこちらの少女ミーヤは、敵感知のスキルを持つものなのですが、彼女は敵の人間が伯爵様の領地に向かうのを感じたと申しておりました。
付け加えるならば、火事の原因の炎鼠は集団で興奮状態のまま森に放たれ、鑑定をしてみると危険度がEからC程に上がったそうです。本来炎鼠の危険度はEですから、この短期間で進化したことはありえないでしょう。故に、人が改良したと考えられます。
このような事を伯爵殿に申し上げたくはないのですが、なにか心当たりは無いでしょうか?」
「それは又なんという......」
うーん、私がどうにかできることじゃないけど、なんか心配だなあ。
「言っておくが、私は断じて貴殿の領地に攻撃をしていない」
「ええ。俺も伯爵殿の領地に攻撃はしてないですよ」
「そうか......ならば」
「ならば?」
おうおう、サスペンス的な感じになってきましたっ!
.....おっといけない、本好きなせいで興奮してしまった。自重しよう。
「私達を争わせようとした者がいると考えていいだろう。その先が何得であり誰得なのかは分からんが」
おー、これはまた典型的な展開!貴族の恐ろしさがしみじみ――
―――――自重、捨てようかな。
「メデイロス男爵。ここは一度お互いを信用して、黒幕探しを一緒にしないかね」
「はい。そうしましょ――」
「それと」
「はい?」
「最近、お前の娘と私の娘が同じパーティにいるとか。私の娘はやらんからな!」
伯爵様?私、女ですけど。
「いや、伯爵殿、私の娘は女で―――」
「やらんからな!」
「いやだから、私の娘は―――」
「いいな?くれぐれも取るなよ?」
「いやだから、娘は――」
「いいな?」
「......もう、いいです」
どうやら伯爵も、相当子供を溺愛してるらしい。イレネさん、笑顔引き攣ってるし。
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