第二話 パーティーに勧誘される。

「あなた、ナイフより剣より魔術が向いてるんじゃないかしら?一度試してみて頂戴」

「は、はい?」


受付嬢に声をかけられる。


「私、鑑定のスキルあるんです。だから、分かるの。あなた、絶対魔術向いてるわよ」


おねえさーん、なんか目がすごいキラッキラッてしてるんですけど。野心の塊みたいな目を........。

じゃなくて!


「魔術が、向いている?私に、魔術師になれるほどの魔力があると」

「そりゃあもう、そこらの魔術師より頭一つ飛び抜けてます」

「そうなんですか!?」


意外だ。


「勿体無い、誰か魔術を教えてくれなかったの?それに、珍しいわね、あなたスキル判定してないみたい」

「えっあっはい、そうなんですよ、あはは.....」


あははじゃないよ。私。

ここエッシェンヒュルト王国では、7歳で洗礼式を受け市民登録、8歳9歳で将来の仕事に向けて鍛錬し、10歳から12歳のうちに就職するのが普通だ。

そして7歳の洗礼式で同時に行われる儀式がある。

―――スキル判定、である。

もちろん大半の人が受けているが、実はこれ、してもしなくてもいい儀式なのだ。ただ、自分の得意分野を知っておいたほうが将来遥かに役に立つ、というだけである。

そのスキル判定をなぜ私がしていないか?

それは、スキル判定は時に苦痛が伴うからである。今まで存在を認識していなかったものが急に体の一部となった時、それが魂に上手く馴染まなければ当然反発するからである。

それを親は心配でもしていたのだろうか、私は「ステラなら何だって出来る!」という言い訳と共にスキル判定を受けることを止められていた。

この件に関しては私、怒ってるんだよね。だって多少の痛みと将来、どっちを取るかなんて将来に決まってるじゃん!?


「お嬢、落ち着け」

「はっ!ごめん」


「もし良かったらギルドでもスキル判定ができるけど、どうする?」


そうだね、折角の機会だから―――


「受けます」

「ステラ様、勝手に決めてしまって良いんですか!?」

「多分後で怒られるけどまあ大丈夫っしょ」

「とばっちりが来ませんようにとばっちりが来ませんようにとばっちりが来ませんようにとばっちりが来ませんように」

「お父様がゴメンね」

「じゃあ止めてくださるのですか?」

「いや、止めないけど?」


なーに言ってんのマイさん。バレなきゃいいの、バレなきゃ。


「ではこの水晶石に手を当ててください」

「はい」


受付嬢さんがドーム形の水晶を持ってくる。中には色々な色が混ざっている。

不純物なのかな?


ところが、水晶に指先を触れた瞬間に、その「色々な色モヤ」がきれいに分かれる。私の指に集まってきたのは赤と緑の色モヤだ。


「火属性と風属性ね」


火と風の魔術が使えるのかな?

そう考えるとと同時に、私の頭の中に文字が浮かび上がる。


【 使役魔術 】


使役魔術って、色んな生き物を手懐けたりするあれだっけ?


「どうでした、ステラ様」

「使役魔術だってさ」


周りから歓声が上がる。


「ステラ、さん?あなた、すごいわね!使役魔術はかなり珍しいスキルよ」

「はあ、そうですか」


どうやらかなりいいスキルらしい。レベルアップしたらゴーレムとか使役できるっぽい。結構いいスタートなんじゃない、これは。


「そうそう、そういえば」


まだ何かあるんかい。日が暮れちゃうんだけど。


「今はまだしない方が良いだろうけど、ある程度魔術が使えるようになったら教えて頂戴。あなたのそれなら飛び級テストが受けられるかもしれないわ」


「はぁ、検討します」

「それから、あなた絶対に教師雇いなさいよ。今の人じゃ駄目」

「え、なんでそれを」

「あんた、服は平民だけど出で立ちが貴族のそれだわ。それに、さっきから後ろのメイドさんと兵士さんがお嬢様ステラ様って呼んでるじゃない」


あ、確かに。変装技術とか磨いとけばよかった。


「もちろん、教師じゃなくても良いけど。例えばそこの野心あふれる冒険者パーティーに入れてもらって先輩に魔術習うとか」

「え゛」


振り返ると、そこにはキラキラ笑顔の四人組がいた。


「あなた、うちに入んなよ」

金髪ショートに青い目の剣士の女性。


「そう深く考えずに、仮でもいいんだぞ」

緑髪彗眼の補助・回復系の男性。


「べ、別にあなたのために教えるわけじゃないのよ」

赤髪つり目の魔術師の女性。


「僕も教えてあげられるよー」

紫髪に茶色い垂れ目の柔らかそうな男性。魔法剣士、だろうか。


全員揃って勧誘しているらしい。うーん。相性が良かったら、ここで良いんだけど。私はむしろありがたいけど。でも。


「.....私はナイフしか使えない。足手まといになります。パーティーとのバランスも少し、あれですし」

「「「「そんな事は関係ない」」」」

「いやありますよね?」


関係あるよね?

そう思っていたら、魔法剣士の人が教えてくれた。


「まず第一に、パーティーが組めるのはランク2つ差までだから、僕たちだってそこまで強くない。ちゃんと勉強すれば足手まといにはならないよ。

第二に、僕たちは今、暇なんだ。イレネ――そこの魔術師の実家が色々仕送りしてくれてね、休養中なんだ。その間に覚えてしまえばバランスもどうにかできる。

最後に、君が有望株だから勧誘する。僕たちのエゴなんだよ。野放しにしたらもったいないからね。君は気にする必要なんかないんだよ」


そう........なのね。


「ありがとう御座います。じゃあ、仮で入らせていただきます。ですが、親が過保護なのでここにいるレンとマイも入れていただかないといけません。後ろの彼らだって、元々倍ほどいたのを今朝ねじ込めて減らしたんです」


レンとマイは私も一緒に来てほしいから、入れてもらう。残りは、なんとかしてお父様を説得しないといけない。


「そういうことなら、休暇中に説得も終わらせてしまおうか」


今、なんて言った?無理無理。だって、


「うちの親はとても意固地ですよ?」

「僕達のほうが意固地だってことだよ。それに、」

「あたしの家は伯爵家よ」


はあ。そうですか。イレネさんは伯爵なんですね。もう何が何だか分からないけど、取り敢えずお父様を説得することはできるのね。


「じゃあ、レンとマイは?」

「イレネ家から仕送りを続けてもらう」

「あたしの家を良いように使わないでよ.....」


ごもっとも。でも、他のみんなも止められそうにないですけど.....

え、どうしよう。


「そういうことなら。宜しくお願いします。良いですねステラ様、レン?」

「おっけー」

「勧誘成功だ!」

「えっちょっ待ってマイ、なんであんたが返事してんの」

「旦那様の言いつけを守りなおかつステラ様に学ばせることが可能な最良案だからです。私とレン、あとこのパーティーを護衛に見立てれば、、、」


「護衛三人以上、ね」


結局今日はまだ依頼を受けることができなさそうだ。

でも、親切な先輩たちが勧誘してくれてるんだから。いいよね?

そう思って、言う。


「わかりました。宜しくお願いします」


パーティーさんの笑顔。


「うんうん、じゃあ自己紹介したら早速説得に行こうか」

「えっ、今行くんですか」

「善は急げ、よ」


まあそうだけどさ。


「ほら早く!」

「......分かりましたよ。分かりました」


こうして私はパーティー「竜の血晶」に仮登録すべく、お父様を説得するに至ったのだ。

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