第三話 一回目の交渉は....
「駄目だ。絶対に駄目だ」
「なんで?『護衛』が三人以上いるでしょう。それに、そもそも冒険者ってのは自分て戦えるように、傷を負っても対処できるように、怪我とかしながら学んでく職業なんだよ?バカ親すんのも大概にして!」
「ステラ!言い過ぎだ!罰として屋敷から出ることを一週間禁止する」
「......ぐっ.......ごめん、なさい」
「お嬢....」
どうやら第一回目の交渉は決裂、らしい。
第一回目は。
「バカ父なんか、大嫌い」
過去最大規模の暴言を親に放って、さっさと部屋に戻った。
もちろん単なる復讐である。本当にそう思っている訳ではない。
ホールに残ったのは「竜の血晶」メンバーたちとうちの家族、そして押しつぶされそうなほど重い空気だ。
「あの、じゃあ我々はこれで。。。」
竜の血晶の皆が帰っていく。
「ステラ様!頭を一度冷やしましょう」
「......そうね」
後ろから追いかけてくるのはマイとレンだ。
ソファに倒れ込みながら、呟く。
「少し、状況整理をしますか」
◇◇◇
【 龍の血晶 】
「一回目の交渉は、決裂か...」
「そうね。根回ししとくべきだったわ」
「もう一回、トライすればいいさ....」
「しかしあの娘も、可哀想なもんだなあ」
あたしは龍の血晶リーダー、剣士のマフカだ。個人のランクはCランクだが、パーティーはDランク。本当ならもう少し上げたいものだが、今はそれで良かったと思っている。
――――あんな伸びしろのある子を、勧誘できたんだからね!
ステラは、言った。「仮で入る。だが、付きの者を減らすために親を説得しなくてはならない」と。
彼女は、魔術も剣もできて、使役魔術を持っている。絶対に将来化ける。才能を伸ばしてあげなければ可哀想だ。だから、親は絶対説得する。説明すれば、できる。
そう思っていたのだが――
「なんであんなに親が過保護なんだ、勿体無い」
あたしたちは、交渉に負けたのだ。
「過保護な親というのは、とりわけ説得が難しいんだ。家に入れてもらえただけマシだと思うよ、僕は」
魔剣士のレインが呟いた。
「それに相手が領主と分かっていたら準備してから出向いていたわよ。金持ちなのは分かっていたけど、貴族、しかも領主とは聞いてなかったわ」
ツンデレのイレネが愚痴っている。
「まあ、そりゃあな。しっかし、ほんとにステラは可哀想なもんだ。どうやって連絡取ろうかね」
白魔道士カイルの言葉に、皆が頷く。
「子供を溺愛する親ってのは、子の伸びしろを見せつければ許すと思ったんだけどなあ。領主様たちは過保護すぎるんだね。想定外だったよ」
レインの出身は商人一家らしいので、本人にも少々計算高く、腹黒いところがある。多分この中で一番賢い。
つまり、彼に分からないものはこのパーティーでは誰にも分からない。
「どうしたもんかねえ」
皆で考えていると、
ザシュ!
「おわっ」
ナイフが飛んできた。
飛んできた方向を振り返ると、マイとかいうメイドの人が微笑んでいた。
怖。怖い。マイのナイフ術は相当のモノらしい。あの距離からここまで飛んでくるってどういうことだよ.....
「おっ、文がついているぞ」
カイルがナイフを手にとって、文を読み始める。
「『ステラです。先程は父が申し訳ございませんでした。うちは父母と、兄姉全員揃ってああなので、説得には時間がかかると思われます。
時間を浪費するのもアレなので、私は、情報伝達のため一週間の間に使役魔法を使えるようになっておきます。
マフカさん達が一週間の間に何をするのか、使役した動物で情報伝達するとしたらどこに送ればいいかを、書いてください。ロープでマイが引き上げます。
ステラより』
だってさ」
「なるほど、確かにロープが付いているね」
「一週間の間、私達は領主の性格、弱みなどを主に情報を集める。冒険者の成長過程において重要なことをまとめ上げ、それらの情報を説得に使えるもの使えないものに分ける。切り札として、私の家に連絡しておく。で合ってるわね、マフカ?」
「そうだな、合っているよ。書いてくれ、カイル」
「了解。連絡先は、拠点でいいな?」
「うん、そうだな。それで良い」
―――かくして、あたしたちの下準備は始まった。
◇◇◇
【 マイ 】
「ステラ様、返事が帰ってきました」
「読み上げてくれる?」
「はい。『一週間の間、俺達は領主の性格、弱みなどを主に.......に送ってくれ。』だそうです」
私はマイです。
孤児ですが、3歳の時に一つ年下のステラ様の遊び相手としてメデイロス家に拾われました。それからずっとステラ様にお使えしています。
さてそのステラ様ですが、今現在大層怒っています。理由は、旦那様と奥様、ガイル御兄様とエレノア御姉様がステラ様に対して過保護すぎたからです。
彼らは過保護すぎる故にステラ様に付かなくて当然の護衛を外すことを許さず、あまつさえその申し出に対して一週間の外出禁止令を出したのです。
そこでお怒りになったステラ様は、どうにか助けてもらうためにパーティー【龍の血晶】に文を出しました。そして、今はスキルの使役魔法を練習しています。レンに鳥を生け捕りにさせ、使役しようとしています。
「魔力を集中させて、、エンスレイブ!」
「何も起こらないですね」
「レン、普通そういうことは本人に向けて言わないほうがいいですよ」
同じくメデイロス家に拾ってもらったのが、兵士のレンです。
レンは少々雑で、常識が抜けているところがあります。気を使うとか、空気を読むとか、たまにそういう所が不完全なのです。
「ほら、ステラ様が落ちこんでいるではありませんk「そんなことはないわ」
「あ、ホントだ。お嬢、ごめn「だから落ち込んでないわよ」
「ステラ様、私達の前でくらい素直になっても―――」
「だー、かー、らー。決めつけてんじゃないよ!最初くらい失敗して当たり前でしょう」
あら、意外と前向きですね。繊細なお嬢様は落ち込むかと――
忘れていました。お嬢様は図太かったですね、しかもかなり。
「マイ、失礼なこと考えないでよ」
――あ、バレてました?すいません。
「でもお嬢、前向きですね。俺とマイのときは一発でできたから、てっきり落ち込むかと――」
「しくしくしく」
レン、あなたという人は、、、
「少しは学習してください!ステラ様が泣いてるんですが!?」
「わかった!分かったから、そのナイフを向けるのを止めてくれ!」
「絶対分かっていないですけど、ステラ様が立ち直ったので良しとしましょう」
「もちろん!でもこれ以上練習する前に、龍の血晶に返事を書こう」
「了解です。レン、書いてください」
「おっけー」
「じゃあまず、お父様の情報で私達が知っているものを提供しましょう。一番の情報源になるはずよ」
「旦那様の弱点といえばお嬢、ですよね?」
そうですよね。
「そうだろうね。けど、あともうひと押しほしいかな。イレネさんの伯爵家っていう権力以外で」
「まあ、権力行使はイレネさんたちもできるだけ避けたいでしょうし、ね」
そういえば。
「昔、料理長のロッテが旦那様の苦手な食べ物はオーガで、好きなのはお酒、と言っていましたね.....」
「ナイス、マイ!それ使えるわ。オーガとお酒をたっぷり持ってきてもらって、、、フッフッフ」
その後も色々と題を出し合って、結局書き終わったときには龍の血晶がいなくなっていた為私が夜中に屋敷を抜け出して返事を届けたのはまた別のお話。
ちなみに龍の血晶が文を開いた瞬間に吐いた第一声がこれでした。
「「「「字、汚っなぁ」」」」
結局、解読不能だったので私が口頭で説明しました。
..........一週間でレンの再教育をいたしましょう。
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