第四話 お父様説得会議 前編

【 三日目早朝 】


「ぴよ!ぴよ!」


それはステラが監禁された一週の三日目。


「おいみんな、見ろ!鳥が手紙くわえて窓叩いてるぞ!」


一番最初に気付いたのは、早朝から窓掃除をしていたカイルだった。


「あれ?それは確か、ステラちゃん家の紋章じゃなかったかな」

「ステラ、もう使役できるようになったのか。すごいな」


あたしはちゃんと発動するまで一週間くらいかかったぞ。


「2つあるわね。こっちから読みましょう」

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(以下同文)』

「「「「..........」」」」


無言で手紙を閉じた。


「....も、もう一枚の方も読んでみるわ、、、」

『先日は夜分遅くお伺いして申し訳ございませんでした。レンには再教育を施しておきましたのでどうかご容赦ください。

ステラ様は動物の使役が可能になりましたので、以後はこちらの鳥から連絡させていただきます。戻るように命じれば勝手に屋敷に帰ってきます。私が先日お伝えした情報が役に立っていることを願っております。マイ』


(「私が先日お伝えした情報が役に立っていることを願っております」って.....)


「これって、さあ」

「願いという名の脅迫....必ず役に立てろってことだわ」

「まああの子の気持ちもわからなくはないけどさ」

「「「「これは怖いよね.......」」」」


レンが死んでませんように。


【 五日目 】


私は焦っていた。


「聞き込みをしていたようですが、やはりこちら以上の情報は出ないそうです。もちろん、それ以外の情報は集まるようですが」

「そう」


後2日で、私の監禁生活が終わる。

それはつまり、お父様説得会議第2回を実行する日に近づいているという事である。

何が言いたいかというと、お父様情報が全く集まらないのだ。

勿論、イレネさんのご実家から圧力をかければ交渉に勝つのは容易だ。でもそれではうちの家族関係にヒビが入るから、できるだけ権力行使ルートは避けたいのである。

そこでお父様の立場と性格を使っての『領主操縦ルート』を使おうとしていたのだが。一応貴族である彼がそう簡単に弱みを見せるはずがなく、操縦の為の『プログラミング』は難航していた。

そこで。


「じゃあマイ、今日は汲み取りお願いね」

「はい」

「レンも買収よろしく」

「はいよ」


マイには、盗聴&会話の端々から情報を汲み取ってもらうことにした。

レンには、マイのクッキーで兵士やメイドを買収し、さらなる聞き込みをしてもらうことにした。

余談だが、マイのクッキーはそれはもう美味しい。冗談抜きで死ぬほど美味しい。しかも、マイは私が命令しないと作らないので貴重品なのだ。

買収には売ってつけと思われる。


「では行ってきます」

「よろしくね~」


というわけで今日は一日情報収集である。

え、私?

お父様操縦のシミュレーションと、龍の血晶への報告です。

一番楽そうと言うなかれ。

鳥には私しか命令できないし、お父様の事は自分が一番よく知っている。

だからこそのこの役目だし、これは私にしかできない事なのだ。

断じて、断じてサボりや押し付けなどではない。


【 六日目 】


「僕が集められるのはこれが限界だな」

「私もリストが尽きたわ」


パーティーで一番人脈の多いイレネと、スパイ紛いの事をするレインが限界に達したところで情報をまとめる作業に移った。話し合ったので、後は紙にまとめるだけである――――、


「本当に使えないわね、カイルとマフカは」

「ひどい言われようだが反論できないな、ははは」


――――――レインとイレネが。

あたしとカイルはこういうのがめっぽう駄目なのだ。だから全面的にあっちの二人に任せることになる。あたしは教えられたセリフを言ってりゃいいのだ。


「まあまあ、しょうがないよ。人には向き不向きというものがあるんだから」

「れ、レインが言うならまあいいけどっ」


あ、イレネ赤くなった。

でも、あれは怒りの赤じゃない。恋の赤であることを、あたしは知っている。カイルとレインも気付いている。

なんで気づいてるのに何もしないんだ?とレインに聞いたら、


「あのイレネが告白するところなんて、絶対面白いじゃん」


とのことである。確かにちょっと気になる。

イレネが告白すればレインは受け入れるんだろうか。

なにはともあれ、中がいいのは良いことだ、と割り切ってあたしはカイルと仕事に出た。ステラ関係でできることはないので、いつも通り討伐依頼を受けるだけである。


「よろしくなー、イレネ、レイン」

「ふんっ!別にマフカたちのためなんかじゃ、ないんだからね!」


【 最終日 】


今日は屋外解禁である。


「イレネさん!レインさん!マフカさん!カイルさん!」

「おお!ステラ!」

「ばか、大声出したら気づかれるわよマフカ」

「全くその通りですよ、叫ばないでくださいステラ様」

「「......ごめんて」」


明日は第二回お父様説得会議である。だから、今日は、最終ミーティングをすることにした。秘密裏に。

なぜ秘密裏か?

それは、お父様説得会議は食事中に不意打ちで行うからである。驚いているときに勢いで言いくるめてしまおう作戦だ。

ただ、バレて身構えられてしまうと元も子もないのでこの通り地下牢で密会している。


「とはいえ、本当に地下牢で良かったんですか?」

「ここが一番バレにくいよ。空っぽだから見張りもいないし、普通は理由もなく地下牢に来たりしないだろう。それにまさかステラちゃんがここに来るとは思わないよ、男爵も」


「そうですか。まあ、そうですね」


レインさんは暗殺や潜り込み、変装や情報集めが得意なのだ。彼が大丈夫だというのなら大丈夫だと信じよう。


「ではまず、男爵家側から説明します。手紙で分からなかったことは質問してください。」

「あ、じゃあ。僕」

「はい、レインさん」

「領主様が好きなお酒は、具体的にどのような物かな。イレネが取りに行くから、今教えてくれ」

「はい。旦那様が好きなのは、、、、、」


そうして、着々と準備は進んでいった。


【 当日、夕食時 】


「せーの」

「「「「やるぞっ!」」」」


◇◇◇


「........なんで、一週間前の奴等がいるんだ?しかも夕食時に」

「お父様。お父様は過保護すぎた。それが、彼らがここにいる理由だよ」

「は?」

「龍の血晶の皆さん。お父様説得会議第2回、始まるよ!」

「了解、ステラちゃん」

「ちょっと、これはどういう――」

「マイ、抑えて!」

「はい。領主様、失礼します」


お父様がマイに抑えられたところで。


「では、まず。お父様、先日この方達と一緒に、護衛を外すようにお願いしたよね?そしてお父様はそれを断った。なぜか?それはお父様、あなたを含む家族全員が私に対して過保護すぎるからだよ」

「イオリ、私達はあなたを心配してるだけ―――」

「行き過ぎた心配は子供の成長を妨げる。お母様、知ってる?『可愛い子には旅をさせよ』という諺があるよね」


「次期領主様、お言葉ですが」

「発言を許します、レインさん。お兄様、よく聞いててよ」

「ありがとう御座います。それでですが、私には従兄弟がいました。その家族はですね、兄が妹を甘やかし続けた結果妹がとても物知らずで高慢で、我儘な人間になってしまったのですよ」

「ステラはそんな娘じゃない!」

「存じております。ですが、それは彼女本人の類稀なる決断力と諦めない精神の賜物です」


「イレネさん」

「ええ、私の番よ。ステラのお母様」

「何故イオリを呼び捨てているのです」

「イオリ?」

「私のミドルネーム。続けてください」

「あんたに言われなくてもわかってるわよ。それで、御母様。私は父の構いっぷりが嫌で家から逃げてきた者です。あなたもこのままではステラに嫌われますわよ」

「あなたは、どなたですか!何様のつもりでしょうか」

「はぁ。あまり名乗りたくなかったのですが――」


そりゃそうだ。だって彼女は、、、


「......冗談はよしてください。領主に対して名乗らぬなど言語道断ですよ」

「.......ハァ..........私はアステンダー伯爵家次女、イレネ・デリア・アステンダーです。以後お見知りおきを」


伯爵家令嬢だ。うちより身分が高い。


「えっ」


家族の表情が凍りついている。


「だから言ったでしょう、名乗りたくないと。この場が不公平になるのは良くないかと思いましたの」

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