第十二話 朝のギルドでは、話が盛大にずれるようです。

「ハァ。それにしても」

「はい......」

「なんで遅れてんのよ」


うっ。


「私、朝には弱いんです....ごめんなさぃ」

「まあ、明日から頑張りなよ」


天使キター!


「レイン、甘すぎよ」

「そうかな?イレネも昔は――」

「その先言ったらファイア打つわよ」

「あはは、そしたら土壁で止める」


うむ。


「お二人、仲良いんですね」

「ちっ違うわよ!これは、えと、あの」

「そりゃ、良いよ。良くなかったらパーティー組んでないってば」

「..........みゅう」


うむ。見えてきた。イレネさんはレインさんが好きで、レインさんは気付いてるけど自分からは何もしていない、と......


「ステラ、何書いてるのかな」

「え゛」

「見せて?」

「えぁ、いやその、ちょっと勉強してたもので......」

「見・せ・て?」

「あっ」


雷が、落ちた。物理的に。

ああ、レインさんは竜の血晶の癒やしだからね?

雷落としたのはイレネさんの方。

レインさんの後ろに漂うなんか黒いヤツは無視する。うん、私は何も見てない。


◇◇◇


「やっほーぃ」


冒険者ギルドに来た。


「あ、竜の血晶じゃん」

「レインとイレネは久しぶりね」

「もしかして、その子捕まえたの?」

「またパーティーが強くなったじゃないの。本当に勿体ない」


が、声を掛けてくる人が多すぎて何もできていない。


「あの、ちょっと失礼かもなんですけど。Dランクパーティーってこんなに有名なもんでしたっけ」


それとも横繋がりが多いんだろうか。


「自分で言うのもなんだけど、うちは頑張れば今すぐBくらいに上がれるんだよ」

「.......マジですか?」


前に、私じゃ足手まといだって言ったときに、『僕たちだってそこまで強くない』とか言ってなかったことない?まあいいけど。いやよくないけど、もうどうしようもないしね。


「でも、なんでランク上げないんですか?」

「イレネの家が仕送りしてくれるから、Dでも食べていけるんだ。空いた時間は趣味に使うような、ゆるいパーティーなんだよ」


「あたしは木彫りしてるよ」

職人の娘っぽいね。


「私は読書を」

優雅だ。


「俺は図書館でイレネの本を探してる」

趣味じゃなくてこき使われてる、それ。


「僕は魔術の研究を。最近は強力な魔法陣を―――」

「「「「言わなくてもわかる」」」」


だよねー。


「レインの左腕はね、研究でできた毒や傷の跡で埋め尽くされてるのよ」

「えっ、そうなんですね。まあ、レインさんらしくはありますけど......っていうか貴女は」


あの金髪、何処かで見たような。


「ティナよ。

(セレスティナ。でもお忍びだから、秘密よ。ここでは、稀に依頼を受けに来る不思議な人として通ってるから、そのつもりで)」

「はあ!?ティナさん、何してるんですか?」

「ティナねえ....ふぐっ」

「レインくん?(私はお忍びで来てるの。それに、あんたの身分だってバレたら只じゃ済まないのよ?怒られるのは私なの)」

「ごめんなさい」

「それにしても、あなた本当にアルに似てるわね」

「ええ、まあ、彼は僕の弟ですし」

「特に、研究癖が伝染ったみたいになってるわよ、アル」


え、何?

レインさんって、誰?

王族で、ティナさんの弟で、アルさんの兄で、それは皆に秘密、と。

多分私以外の誰にも聞こえてなかっただろうけど―――


(ティナさん、レインさん、すいません。聞こえちゃったんですけど)

(ステラ、この事は他言無用だから。どうして僕がここに居るのかも、事情も、知らなくていい。ただ、黙っていて)


そういうレインさんの目は真剣だった。

ヤバいこと聞いちゃったかも。


(まあ、私は殆ど事故で聞いちゃったみたいなものですし、いいですよ。それに、そんなことに首を突っ込んだらお父様の寿命が縮むどころか今すぐ消えてしまいます。無駄な好奇心も野次馬根性もありませんし、家にこれ以上胃薬はいらないので)

(あはは........ごめんね?)

(ステラ、意外と素直に引き下がるのね)

(ティナさん、私はそれを聞いたところでどうしようもできないですし、むしろ知ってしまったことで敵への情報源を増やしたことになります。ですから、そんな危ない余計情報は忘れてしまうに限るんです)

(あはは......ごめんなさいね)

(いえいえ、、、、ははは)


乾いた笑いしか出てこないよ。うん。


(あの、でも、一つ聞きたいんですけど)

(うん)

(これって、ティナさんとレインさんしか知らないんですよね?イレネさんも、他の貴族も、どんな平民も)

(そうだね。数年前に捜索依頼が断ち切られているから、もはや存在も忘れられているかも)

(存在........まあ、そうですね。でも、それ、バレたら確実にイレネさんとか処罰されません?)

(うん。だからなんとしても秘密なんだけど.......

じゃあ、そろそろ怪しまれるからデフォに戻るよ)

(え?)


あ。


「何をコソコソ話してるんだ」

「イチャイチャするんじゃないわよ、レインと」

「さっさと依頼受けようぜ」

「.......レインさん、幼女趣味?」

「お嬢に変な虫がついたら全力で振り払おうかな、俺」

「違う!誰が幼女趣味か。それと、僕はレンくんに負けるつもり無いから」

「あの、皆さん、落ち着いてください!ね?ね!?んで、レンとマイはうるさい」


「あのぉ、そこの方?確か、一ヶ月くらい前に来られてた」

「はっ!すいません」

「いえいえ、そういえばあの時は結局依頼を受けられなかったので、今回初依頼ですね、おめでとうございます」

「そういえばそうでしたねー」

「魔術、使えるようになりました?」

「ええ、おかげさまで!」

「じゃあ、今から飛び級テストをするので来てください」

「はい?」


飛び級テストって、何だっけ。


「いえ、だから、あなたは筋が良さそうなので魔術が使えるようになったらテストをする、と」


あー。なんか確か前にそんなことを言ってもらったこともあったりしたこともなくもないこともあった気がしないでもないね。


「でも受付さん」

「あ、私はレティと呼んで下さい」

「あ、はい。でもレティさん、私、技術はあるのかもしれないですけど実際に戦ったことはあんまり」

「でもあなた、そこのメイドさんに勝てるのでしょう?」

「あ、マイですか?はい」

「彼女も、実力はBランク相当かと。ですので、彼女に勝てるのなら少し勉強するだけで大抵のFからCの魔物には勝てますよ」


え、何、マイってそんなに強かったっけ?

じゃあ、レンも相当?


「なので、確かに勉強がてら依頼を受けてEまであがるのもいいですが。多分すぐに終わるので、ある程度こなしたら飛び級していいかと」

「はあ」

「勿論、そこのメイドさんも」

「はあ」

「あと、多少劣りますがそこの兵士さんも」

「はあ」

「それで、学園に推薦させていただきます」

「はあ.......は?」

「いえ、ですから、推薦を」


いや。


「なんでそんな確定事項みたいに言ってるんですか、だって―――」

「いえだって、兵士さんもメイドさんも貴女も推薦させてもらわないと、後でギルドに傷が付きます。貴方達、それくらいの実力はありますよ?」


いやいや。


「えっでも――」

「是非に。是非に、宜しくお願いします」


いやいやいや。


「お願いです、いえ、オネガイ(脅迫)です」


いやいやいやいや。


「私、そこまで強くないで――」

「いえ、強いんですよ。なので、オネガイ(脅迫)です」

「いやだから、私は――――」

「つべこべ言わずに納得せーい!」

「人の話を聞け―い!」

「あの、レティさんもステラ様も落ち着いてください。皆さん見てらっしゃいますよ」

「「あ」」


忘れてました。

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