第十一話 残念なナイフ
「―――様!――テラ様!ステラ様!」
「ぅーん。ぁと五分....」
「起きてください、8時に待ち合わせしているでしょう!」
「あっ、そうだった!って、今何時よ」
「朝の5時ですが?」
「『ですが?』じゃないよっ。何当然みたいな顔してるのよ。なんで今起こすのよ、一時間後でも良かっただろうに」
「ステラ様、たしかに今日は着付けや髪のセットが必要ないです。ですが、装備の準備はしていないでしょう?
ナイフは手入れしましたか?
ローブはどこにあるんですか?
お金は?靴は?ないでしょう?」
「うっ」
「そして、朝ご飯もいつもより食べた方が良いでしょう。それも兼ねての5時です」
「分かった。でも、あと5分....」
「今の会話で5分使いました、さあ起きてください」
「ええっ」
こうして私は、引きずられていった。
◇◇◇
「それでもぐもぐ、今日はもぐもぐ、何を持っていけばもごもごもご」
「お嬢もぐもぐ、多分もぐ、ナイフともごローブをもごもご」
「二人共、食べている間に話さないでください。特にステラ様、あなた貴族令嬢ですよ?」
「そうだけどもご」
「た・べ・て・る・間・に・話・さ・な・い・で・く・だ・さ・い」
「もごもごごっくん。ごめんて。だからそんな顔で見るな」
「もぐもぐごきゅ。なんで私だけ怒られるのよ」
「ステラ様、今一度自分の立場を再確認してください」
おうっふ。辛辣☆
「それでですが、今日は、先日買った平民の服にローブを羽織ってください。
ローブの魔石シートは、服をエンチャントすると何が起こるのかわからないので、付けないでください。
ナイフは軽く手入れし、これもまた魔石ははめずに持っておいてください。
髪は、今日は私がやりますが今日以降は自分でやってもらいます。メイクは一切しません。
それが全て終わったら、セバスさんと旦那様に挨拶をしてから出発します。
いいですね?」
「はいさ。じゃ、食べ終わったから行ってくる」
「.....ステラ様、ちゃんと聞いていましたか?」
「聞いてた!聞いてたから、そのどす黒いオーラをしまって!」
実は、一応聞いてたけど真剣に聞かなくてもマイがどうにかしてくれると思っていたことは言わない。私は自分が可愛い。
「よし、ナイフの手入れするか」
実は、あの新しいナイフはまだ使い慣れていない。
といっても、一応練習はしたので馴染んではいる。でも、やはり長いこと使ってきた愛剣の方が使いやすいのだ。
なので今日は、どっちも持っていく。
「よし。磨いて、研いで、拭いて、っと。.....わあっ!」
なんと。新しい方のナイフ....もう、面倒くさいのでクロと名付けよう。取っ手が、黒いから。
それでだが、なんとクロを磨いたら、光りだしたのである。勿論、物理的に光っているわけではない。ただ、光沢がすごいのだ。
「まぶ.....しい。クロよ、その光を収めてくれ」
と、冗談でクロに話しかけてみると。
「え?眩しくない」
クロが光らなくなった。
「クロや、私がわかるのかい」
(刀身、ピカーン!)
「あれは、クロが自主的に光ってたのかね」
(刀身、再びピカーン!)
「クロや、他には何ができるんだい」
(ピカーン!ピカーン!ピカーン!)
「..........ステラ様、何かお辛いことでもあったんですか?」
「違うから」
「では、なにかの末期なんですね。医者を呼びますか?遺書を書きますか?」
「違うから。ほら、見てよ。クロが反応するんだよ」
見せてやろう、マイ。クロの凄さを。
「クロや、光りなさい」
(ピカピカ―!)
「クロ、点滅しなさい」
(チカチカ)
「クロや、3回回ってピカーン」
「ステラ様、ナイフにそれは流石に無茶が」
(空中に飛び、3回回ってピカーン!)
「無茶が過ぎる、と言おうと思っていたのですが....」
ふはは。
「クロは凄いでしょ!」
「お嬢、凄いね」
「レン、いつからそこにいたのですか?」
「終始ずっと見てた」
「気付かなかったですね。最近訓練が劣ったようです」
「違うよ?俺が成長しただけだから」
「それは、天変地異の前触れでしょうか?」
「俺だって成長くらいするから!」
「ふふっ、冗談を」
「お嬢ぅー」
「人は、助けてほしいときだけ神頼みをするものである。....普段は信仰しない癖に」
「お嬢ぅーお願いー俺のメンタルが死ぬ前に」
憐れ、レン。しかし、あれぐらいは日常茶飯事なので放置である。
ツルギの手入れしてこようっと。あ、そうそう。愛剣はツルギという名前だ。
「レン、あなた、少しは自分でやり返してはどうですか?あ、こんなこと聞いてしまってすいません(察し」
「お嬢.....このメイド........あなたの配下ですよ?」
「無理」
「タスケテ、タスケテ、オネガイシマス」
.....縁起の悪そうな叫びを背に、ツルギを磨いていく。
「ツルギ.....は反応しないんだよね」
(ぴかーん!)
「えっ反応するんだけど」
「前はしていませんでしたよね。前と何が変わったでしょうか」
「うーんと。ローブと、クロと、後は....あ」
「なんですか?」
「えっと、すごく信じがたいんだけど。使役魔術とか関係してないかな?」
「あっ」
「物を使役するとか、前代未聞の珍事なんですが。なんか、それが一番納得行くのが悔しいです」
「クロや、私はお前を使役したのかね」
(ピカーン!)
「まじかぁ」
「あの、ステラ様。クロに話すときの口調がおばあさん臭いのは何故ですか」
「えっと、気分的に?」
「ステラ様、貴女仮にも男爵令嬢ですからね?」
「分かったよ。次から改めればいいんでしょ」
「はい」
「クロ、私ってクロを使役したことになるのかな」
(無反応)
「あれ?クロや、私はお前を使役したのかね」
(ピカーン!)
「クロや、私はこの口調で話しかけないと反応されないのかね」
(ピカーン!)
「だ、そうよ。マイ。無理だってさ」
「他の口調でも反応するように命じてください」
「え、無理って言ってるじゃん」
「ツルギはできたのですから、クロにもできるでしょう」
「分かった。クロや、私が普通の口調で話しかけても反応してくれるかい」
(モヤァ)
「これは、、、否、でしょうか」
「お嬢、なんて残念なナイフ使役してんですか...」
別に、いいじゃん.....ね?
「て、もう時間じゃないですか!」
「ええっ!?早く行かないと!」
この後。龍の血晶の皆さんにクロを使役したことを伝え、実演してみせたのだが。
「おばあさん口調も残念だけど、名前もまた......なんでクロなのよ」
「え?そりゃ、取っ手が黒いから――」
「ネーミングセンス無いの?ツルギはまあ許容範囲だけど、どうせ使うならこっちももっといい名前にしなさいよ」
「そうだね、例えば黒蝶とかどう?」
「ちょ、ちょっと試してみます。クロよ、名前を変えてもいいかい?」
(モヤァ)
「........なんて残念なナイフ」
ということだった。
しかしこの残念なナイフ、実用性は抜群である事が後に判明される。
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