第十話 準備が完了する。

嗚呼、世界とはままならないものだ。

良いのか悪いのかよくわからない出来事もたくさんある。

例えば、そう、2日連続で男爵令嬢が王族に会うとか......それも、非公式に。


◇◇◇


ドレスを売って屋敷に帰ってきた。現在、時刻は夕食時を少し過ぎた頃である。お姉様に商会から勧誘を受けたことを話し、お父様に今日の報告をしたところだ。


「ステラ、お前、俺の寿命は今日だけで1年は縮んだぞ.....」


昨夜、お父様は出掛けていたので、今夜中で一気に全部話すことになった。

そりゃ、心臓に悪いわな。娘が2日連続で王に連なる人たちに会って来たなんてさ。


「お父様、同情はするよ。でも、私のせいじゃ無いからね?」

「分かってる。分かってはいるが......」


ごめんよ、お父様。


「奥様、取り敢えず放置ということでどうでしょうか。男爵家側から干渉するのは良くないかと思われますので」

「そうですね、奥様。ステラ様は、別に嫌われたわけじゃないようですので....」

「..................なんで当主の俺じゃなくてマユに助言するんだ?」

「「奥様の方がちゃんと考えてますので」」

「うう、ステラ、セバスとマイが〜」

「マイは後でどうにかするから、セバスはお母様に言ってよ」


それで、セバス達の案だけど。いいと思う。うん。


「それで行こう。放置案で」


◇◇◇


今日は、アルさんのローブを買いに行く。約束の日は過ぎてしまったが、どうせ彼もじいやに捕まっていただろうからいいのだ。多分。


「アルさん、買いに来ましたよ!」

「あっ、ステラだ」

「それで、ローブは何処に?」

「ほら、これだよ。そういえば、ティナ姉様に会ったそうだね」

「ああ、はい...............セレスティナさんですね」

「うん。面白い子だねって言ってたよ」


私、なんかしたっけ?


「お嬢、なにかしました?」

「ステラ様、何勝手に気に入られてるんですか」


いや、だって。


「私にもわからないよ....」

「まあまあ、姉様に気に入られたら必ずいいこと起こるからさ、そんなに落ち込まないでよ」

「良いことが起こるのかはわかりませんが、ただの男爵令嬢には荷が重すぎますっ。それに、アルさんだって王族じゃないですか......」

「いや、まあ、そうなんだけど」

「取り敢えず、この話はやめて、ローブを買わせてください」

「うん。火と風の魔石シートも付けとくから」

「どうも」


というわけで。我が家から金色の国章が5つ飛んでいった。そして、それと引き換えに私は無事ローブを買うことができたのである。


めでたしめでたし、、、、、かな?


いや、その過程で王族に2回会うとかしちゃってるし、めでたくはないか。


「それでだけど、僕と姉様に会った事は秘密にしてくれないかな」

「勿論です。そんなこと好きでするわけないじゃないですか、悪評が飛び交います」


どうやって王族に会ったとか、たかが男爵家がとか、とか、とか、、、、、。


「それなら良かったよ」

「良くないですけど、良かったです.....」


こっちからしたら迷惑なのです。そんなこと、気が狂っても王族に面と向かっては言えないけどねっ。

ん?あ、面と向かってなくても言えないや。


「そのローブ、着てみてはどうですか?ステラ様」

「おっけい」


ローブ、、、

装・着!


「似合うっ!ステラ様の黒い髪とローブが見事に協調していますね。ですが、全身黒にもかかわらずお肌が白いので暗過ぎにも見えません。首元がスッキリしているのであまり重たい印象もありませんし、ステラ様の魔術師感が増したような気がいたします!」

「あ、ありがと」


マイは、たまによくわからない事でスイッチが発動してしまうのだ。そうなると、自分の考えたことを全て口に出すため、普段とは比べ物にならないくらいうるさい。


しかしまあ。


「お嬢、なんか、いいですね!」

「うん、いいね」


周りがうるさくない分良しとしよう。


「ステラに買ってもらってよかったよ―――」

「そりゃどうも」

「――――だって、その服、主人と認定した者以外は着れないんだ。主人認定されなかったら、凄まじい痛みが走るようになってて」

「なんてもの作ってるんですか!そういうことは先に言ってくださいっ」


慌てて危険物を脱ぎ捨てた。


「ま、いいじゃんか。主人認定はされたんだから」


ニッコリ笑う王子様。そして、私達はこのマッドサイエンティストにドン引きしたのである。ローブを紹介された時点で薄々気付いてたけど、うん。王子様って言ってもそんなもんなのね。


◇◇◇


「と、いうことがあったんですよ」


ここは龍の血晶拠点である。皆に一昨日別れてからの出来事を報告中だ。


「ステラ、あなた、何よその良いのか悪いのかよくわからない出来事......」

「王族に2日連続で会うなんてねぇ」

「私にもわかりません.....」

「それにしても、第七王子って相当の研究好きなんだね」

「ええ、おかしいでしょう。人にあんなもの着せるなんて」

「僕と気が合いそう」

「えっ、絶対やめてくださいよ。レインさんがアレになったら、私泣きます」

「ステラよお、王族をアレ呼ばわりは流石にやばいぞ」

「「「いや、第七王子はいいんです」」」

「レンとマイまで.....いや、よくないからな!?」


いいんだよカイルさん、細かいことは気にしなくたって。アルもアレも大して変わらないんだから。


「でもまあ、ローブが買えたので装備は揃いました。明日からどうしたらいいですか?」


個人的には依頼が受けたいのだが、もしかしたらまだ準備があるかもしれない。


「明日からは、僕たちと一緒に初級の依頼を受けてもらう。例えば、採集とか」

「やったぁ!」


冒険者らしくなってきたのでは。


「それでなんだけど。ステラ、君は僕たちが最低限のことは教える。でも、ずっと同じパーティーとしては行動できない。何故か分かる?」

「年齢差、でしょうか。引退期間とか、全盛期ですとか」


そういう理由で、できるだけ同じ年代とパーティーを組んだほうがいいらしい。


「あと、気が合う人達の方がいいとか、バランスがとれた方がいいとか」

「それもある。でも、一番の理由は、君には伸びしろがある、ということだよ」

「はあ」

「僕たちと同じパーティーにいるより、もっと君に合ったレベルの若い子たちと組んだほうがいいんだ」

「それは、ありがとうございます....」

「だからね、ステラがEランクになったら、学園に行けるように紹介しようと思うんだ。いいかな?」

「学園、ですか。どんな場所なんですか?」

「ユーデグライツ学園。推薦式で、将来に期待できる冒険者たちを集めて鍛える学園だ。そこにはステラのような生徒がたくさん集まるから、いい仲間が見つかると思うんだ」

「なんかそれ、いいですね!」

「えっとレインさん、ステラ様が行けたとして私とレンは付いていくことを許されるんでしょうか」

「そうだねえ。剣士はたくさんいるから、難しいだろうけど。アサシンでそんなナイフ術をもつマイならいけるかも」

「えっじゃあ、俺はついて行けないんですか」

「いや、貴族は一人付き添いを連れてくることができる。その枠にレンが入ればいけるはずだよ」

「分かりました。推薦されても行くか行かないかの選択肢はありますよね?」

「うーん、表向きにはあるけど、周囲の視線とかギルドの権力とかあるから、ほぼ無理かな」

「そうですか。じゃあ、紹介してもらう前にお父様に許可をもらっていいですか?勿論それは、私がFランクになってなお、紹介に値すると思ってくださればですが」

「いいよ。ていうか、僕が全部決めちゃってるけど。いいよね、リーダー?」

「うん?いいよ。あたしは全然聞いてなかったけど、この中で一番頭が回るのはレインだからな」


ずっこけた。


「えっとつまり、マフカさん。私がFランクになるまでは龍の血晶として働きます。で、Fになったときに、私が学園に推薦されるべきだと思ってくださった場合は、ここを抜けさせてもらいます。という話をしていました」

「お、おお?」

「ねえステラ、どう説明してもマフカには解らないから。でも、私は分かったわ。もしあんたに伸びしろがあると思ったら、遠慮なく推薦させてもらう。学園は過酷よ。それでもいいわね?」

「は、はい」


まあ、私にそんな伸びしろがあるのかは分からないが。


「ちょっと話が飛びました。それで、Fランクになるまでは普通に依頼を受けるんですよね?」

「うん。採集、狩り、あと遺跡系も少しこなしておこう。あ、人や物の捜索もちょっとだけかな」

「じゃあ、明日から」

「うん。明日、朝の8時に冒険者ギルドで集合ね」

「はいっ!」

「あ、連れてくるのはレンとマイだけだからね」

「分かってますよ、もぅ」

「ははは」


流石にあの護衛はもう連れてこない。


「じゃあ、また明日ねー」

「はぁーい」


さあ、冒険者登録してから三週間。ようやく、初依頼が受けられそうである。

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