第九話 和風ドレスを売りに行こう。

「ステラ様、なんて人に遭って来たんですか......」

「いや、私のせいじゃないから。彼がたまたまあの店で働いてて、たまたま私が彼に出くわして、たまたま彼が王宮の人に見つかって、たまたま私がその場に居合わせただけだから」


レンマイと合流して、取り敢えず彼らに事情を説明した。


「まあ、そうですけど。彼に会ってしまい、彼に気に入られた以上は何かしらの繋がりができますよ」

「だよねぇ、どうしよう.......」


私が認めたくなかった事実を突きつけてくるマイ。


「どうもこうも、まずあの服は買うしかないでしょうね」

「ええ .......」

「宣伝になるだろうと王族にほのめかされたんですよ?

伯爵家とかならばともかく、いえ伯爵家でもですが、私達にとってそれは命令と同等になります。ですから、第七王子が命令のつもりではなかったにしても、買った方が後の弊害と比べて安いかと.......」

「ハァ......お父様にどう説明しようか」

「お嬢。もう全て話した方が、旦那様の心臓には悪くても、メデイロス家にとってはいい方向に行くと思いますよ」

「ぅん。分かったよ......」


憐れ、お父様。どうやら彼の寿命は今夜中に1年は縮みそうである。

でも、その方が家にとって良いなら、しょうがない、、、、よね?


「取り敢えず、みんなでシェアする案は消えたんだな」


カイルさん。そりゃね?


「ステラ様は一応貴族の娘です、嫁入り前の貴族令嬢が成人男性と同じ服を着るのは聞こえが良くありません」

「そうよカイル、さっきは私も少し動揺していたけどよくよく考えればそんなの論外よ」

「うん。僕もちょっと忘れてたけどステラは貴族の娘だしね」

「おい」


悪いのはカイルさんだけじゃなかった。

それはさておき。

問題がある。


「どうしようかね、ローブのお金」

「第七王子ってことがバレたので迷惑料として金貨一枚は払ってくれると思うわよ」

「そうなると、今日の分の残金も使って残りが金貨2枚銀貨5枚か....」


「あ、俺、旦那様のへそくりの場所知ってますよ」

「ふむ。それ、使えるね」

「私、メイドが掃除中に見つけた『要らなくなった宝石』は回収しております」

「うむ。それ、売れるね」


へそくりと宝石で足りるだろうか......

私が知ってるお金の在り処は、、、


「あ、私、着れなくなったドレスが残ってるわ」

「洗礼式のですか?」

「そうそう、それ」

「ステラ、貴族の洗礼式のドレスはずっととっておく物よ」

「うーんでも、あれ売ったら結構儲かると思うんですよ。それに私、あれのミニバージョンをお姉様に作ってもらったので別に無くなってもいいかと」


あのドレスは、確かヤマトのドレスとエッシェンヒュルト王国の流行ドレスを混ぜたものだったと思う。そしてそんなデザインのドレスは私の以外全く無い。きっと店に売ったら「遠い国のドレスとここのドレスを混ぜた珍しく、高級に見え、かつ流行遅れではない良い感じのドレス」として売れるだろう。高確率で商人のお嬢様たちやうちくらいの貴族家に売れる。

ならば、私はエレナお姉様のレプリカを取っておき、実物は誰かに売ったほうが得だと思う。

そもそも家に置いておくのなんて着れなくなったドレスより、実用性の高いあのローブの方がいい。私は冒険者である。冒険者の服が家にあって当然だ。


◇◇◇


という言い分と共に、例のドレスを売ることをお母様に打診したところ、


「ちょっと惜しいけど、ミヤビの作ったレプリカがあるなら良いかもしれないわね。でも、あれはヤマトでしか買えない生地だから、もっと高い値段でも売れるとは思うわ」


ミヤビとはエレナお姉様のヤマトの名前だ。

エレナお姉様の裁縫の腕は、かなりのものである。それをお母様も知っているのだろう、簡単に了承してくれた。


「お母様、あの服を売ったら、どれくらい儲かると思います?」

「そうねー。金貨6、7枚くらいじゃないかしら。勿論、頑張ればもっといけるわよ」


ということは。お父様のへそくりもメイドたちが見つけた宝石も使わずに、あのローブが買える!更に、儲かる!


「よし、売りましょう!今すぐに!」

「.......お嬢、気持ちはわかるけど貴族令嬢として残念すぎます」

「本当ですよ、まだ私の方がステラ様より――」

「よおしさっさとドレスを売りに行こう!」


うん。急ごう。私の心が折れる前に。といってももう夜なので、続きは明日だけどねっ。


◇◇◇


というわけで。今日は、下級貴族と大商人を客にする中商会に来ました。半日かけたので、時刻はお昼時です。


「この服を売りたいのですが」

「分かりましたわ。服の専門を呼んできますわね」


「こんにちは、サラです。それで、お売りしたい衣服というのは?」

「これです」

「わあっ!素敵ですね!これはヤマトの生地ですね?染め方が独特で勉強になります!ふむふむ、ヤマトの伝統とこっちの流行を入れた、と......。これだと、7年前くらいのですね。サイズから推測するに、洗礼式のドレスですよね?こんな素敵なものを売ってしまってよろしいんですか?」

「えっ、えっと」

「ごめんなさいね。サラはいい服を見ると興奮するんですの。この喜びようだと、金貨10枚で買い取ってくれそうね。よかったですわね」

「え、そんなにですか!?あ、ありがとうございます」


金貨10枚........大金だなあ.......


「それにしても勿体ないですね、なんで売っちゃうんですか?」

「えっと、私は冒険者なんですけど。すっごくいいローブがあったので、それを買いたいんです。それに、そのローブをおすすめしてくれた人がとても高い地位の人だったので....確かにちょっと寂しいですけど、姉がミニ版を作ってくれて。再現度がとても高いのでいいんですよ」

「へえ、お姉さん、裁縫の腕が相当あるんですね!いいですね!うちで働きません?」

「え、えっと、姉に聞いてみます」


お姉様、おめでとう。どうやら、商会専属になれそうだよ。


「......ねえ、もしかしてその「高い地位の人」って、アルと名乗っていませんでした?」

「えと、アルさんを知ってるんですか?」

「ええ。私の弟ですわよ」


........うん?


「.......はい?」

「私は、セレスティナ・リルカリリア・エッシェンヒュルト。この国の王女ですわ」

「え、あの、そんなに簡単に身分バラしちゃっていいんですか?」

「当然よ、私はちゃんと正規の道を通ってここにいるんだから」

「遠慮されたりとかしないんですか.....」

「じゃああんたはどうなのよ」


う、確かに。


「ステラ様は、貴族令嬢らしからぬ行動をする大物です」

「お嬢、褒められてんのか貶されてんのか.....」

「なんでこのタイミングで口出しするのよ。さっきまで無になってたくせに」

「「だって、王子に続けて王女にまで会ってしまったなんて信じたくないじゃないですか」」

「それ、本っ当に私のせいじゃないから」


えっ、運も能力の内?

やかましいわ。

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