第八話 アルフレッドと黒いローブ。

私は、それなりの顔をしていると思う。体も鍛えているし、服は一応貴族のそれである。

あるメイドによると、私を見れば10人中8人は振り返るらしい。ただし、中身を知ったら7人が去っていくとも言っていた。

なにはともあれ、私は自分がまあまあ美人であることを自覚している。

そして、私は今冒険者用の服屋に来ている。必要な服全てを買うには資金が足りないので、ちょっとした交渉をしなければならない。


何が言いたいかというと、つまり、自分の容姿も武器に使おうというわけだ。

貴族なら良い客になるだろうから、今は負けてやろうという商売精神と、「お嬢ちゃん可愛いから負けてあげるよ」という気持ちを起こす。そうすれば、後は自分の交渉術でなんとかなるだろう。と、そう考えている。自惚れ......では無いと思う。


「お兄さん、ちょっといいでしょうか?」


まず、「お兄さん」を呼び出す。爺さんやオジサンは自分が貴族であることは分かっても、自分の顔には騙されてくれないからである。


「いいですよ。それにしても、お嬢さんは貴族なんじゃないのかい?ここは冒険者用の服屋だよ」


あ、確かにそうだね。でも、貴族で冒険者をしてる人は珍しいわけじゃないよね?


「あの、確かにそうなんですけど、別に貴族で冒険者になる人は珍しくないですよね?」

「それはそうだけど、お嬢さんは新入りみたいだし。貴族の人は大体配下を一人は連れているからね」

「あ、私にもいるんですよ?ただ、他のところに行っただけで」

「そっか。なるほどね」


納得してくれたところで、作戦開始である。


「それでなんですけど、私が使える服は無いですかね?」

「お嬢さんは何をしてるのかな?」

「魔術師です。といっても、最近まではナイフをずっと習っていました。魔術が使えること知ったのは最近なんです。ふふ」


できるだーけ、可愛く。微笑んで。


「そ、そうなんだ」


よし、半分落ちた。


「じゃ、じゃあ、魔力を消費する商品でも使えるのかな」

「?魔術師でないと使えない程魔力を要する服があるんですか」


ここは魔術師だけでなく剣士も弓師も聖職者も、普通に来る。だから、そういう商品はあまり扱ってないと思っていたが、、、


「あるよ。今、一着だけ。結構いいやつなんだけど、値段が張って中々買い手が現れないんだ」


あるみたいだ。ちょうど、交渉しがいのあるやつが。


◇◇◇


「これだね」


目の前には、黒いローブ。

――――おおよそ成人男性のサイズの。

あの、馬鹿にしてるんですか?


「.........そういうわけじゃないよ?これは、オールサイズフィットなんだ」

「あ、口に出てました?ごめんなさい。それで、これを私がどうやって着るんですか」

「うん、この服を仕立てた人は少し、特殊でね。この服は、彼の研究の一環として作られた、ある意味魔術具なんだ。効果の一つが、服を所有者に合わせてフィットさせることなんだよ」


何、その便利魔術。


「どうやってでしょうかね?」

「仕組みを説明すると長くなるけど。簡単に言うとね、魔力管って体中に張り巡らされているだろう?その魔力を感知して、素材が縮むようにしているんだ。アラクネの糸を少しいじって作ったんだよ」

「なるほど」

「騙されたと思って着てみてよ」


と、いうわけで。

装着!


「わあっ」


みるみるうちに縮んでいきました。ちょっと疑ったりしてすいません、お兄さん。


「あはは、びっくりする顔も可愛いね」

「はわっ!?きゅ、急にそういう事言わないでください!」


お、お兄さん、やりおるな。急にそういうこと言っちゃだめだよ?ていうかよく見るとかなりの美形だし、照れるんだけど。美少女作戦とかもうやめよっかな......


「ごめんごめん」

「それで、これには他にどんな効果があるんですか?」


さっき、「効果の一つ」って言ってたし、他にも効果があるのだろう。


「うん。他には、魔術耐性と物理攻撃耐性があるよ。でも、魔術耐性でも火魔術には弱い。アラクネは土属性だからね」

「なるほど」

「あと、エンチャントもできるよ」

「服にですか?魔石は要らないんですか?」

「勿論、魔石が必要だ。でも、服に魔石をつけると重いし、それだと冒険者には向かないよね。じゃあどうすればいいか?僕は考えた」


ふむふむ。って、あれ?


「僕?研究者の人が作ったんじゃないんですか?」

「え?ああ。実は、僕がその研究者なんだよ」

「ええっ!?てっきり服屋の店員かと。。。。」

「こっちは、研究のための資金稼ぎなんだ」

「へえー」

「じゃあ、続けるよ。僕、考えたんだ。魔石を変形させることはできないのか?とね。いままで、魔石というと『塊』ってイメージしか無かっただろう?でも、魔石を例えば、平たいものにすれば?曲げられるようにすれば?そうすれば、それを服につけることも可能だと思ってね。その考えと共にたくさん時間をかけて作ったのが、魔石シートなんだ」


すごい発想である。発明の9割はアイデアとはよく言ったものだ。


「なるほど。それで、そのシートはどこにあるんですか?」

「まだ、世間には出していないよ。でも、お嬢さんには特別にあげようか。今回は魔力がすでに入っているやつを。何属性がいいかな」

「え?じ、じゃあ、風か火ですかね」

「ん。どっちもあげるよ」

「ええ!?」

「それで、このローブは買うかな?買わないかな」

「えっっと」


ちょっと、お兄さん。勢い良すぎて色々流されるとこだったよ。えっと、ローブの値段は、、、、


『金貨5枚』


「高い。でも、安い」


ローブにしては、高すぎる。こんなの、私の家が結構無理してようやく買えるくらいだろう。じゃあ、今日の金貨3枚は何なんだということになるのだがそれは深く追求しない。忘れよう。

そしてそう、ローブにしては、高すぎるのだ。でも、この服は彼の研究成果であり、相当な効果が色々付いている上質な服だ。それに、あの「魔石シート」を開発するにもお金がかかるだろう。アラクネの糸を使っているところも高価になる理由としては十分だし、そう考えればこの服は金貨10枚でもいいのだ。

…….この人、どれだけお金持ちなんだろう。


「あはは、そうだね。高いけど、安い。お嬢さんが、これくらいのお金を持っているかは知らないけど。買うかい?」


今の私じゃ、到底無理だ。どうしよう。負けてもらうにしても、もう魔石シートもらっちゃってるし、、、、


「「「「ステラ」」」」

「うわっ」

「それ、オールサイズフィットなんでしょう?だったら、私達も着れるわよね」


考え込んでいたら、いつの間にか後ろに龍の結晶の皆さんがいた。


「ええ、まあ、着れるでしょうけど....」

「なら、僕たちもお金出すよ」

「はい?」


なんでそうなる。


「皆で買って、皆で着ればいい。それで、ステラが後から俺たちにお金を返せばいつかそのローブがステラのものになるだろう?」


え。ちょっと、微妙なんだけど。特にレインさんとカイルさんに着られるのは、、、、


「あの、ありがたいんですけど、そういう事をして頂くわけには行かないですし、あの、みんなで同じ服を着るっていうのもあれですし、えっと、えっと」


私が慌てていると、ローブのお兄さんが声をかけてきた。


「んーじゃあ、明日まで」

「え?」

「明日まで、この服を取っておいてあげるよ。明日までに解決策を出したら、いいと思うよ」

「そう、ですね......」


そうなんだろうね。そうなんだろうけどさ。


「どうして、そこまでしてくれるんですか?魔石シートの事も、今も。自分でそれを着ようと思わないんですか?だって、その方が―――」

「僕が君を気に入ったからだよ」

「へ?」

「君なら、その服の良い宣伝になるだろうしね。将来いい魔術師になりそうな君が、この服を着ていたら宣伝になるだろう?その点、僕は少し事情があってあまり外を歩けないんだよ。僕がそれを使っても、あまりその服のためにならないさ」


私は外を沢山出歩くから、宣伝になる、と。


「確かに、、、そうですね。納得です」

「じゃあ、また明日来なよ」

「はい!」

「そういえば、君はどこの貴族なんだい?」

「えっと.....ここの領主の娘です。エステラです」

「あ、そうなんだ」

「お兄さんは、誰なんですか?研究のお金はここだけじゃ補えないだろうし、それに私が領主の娘って知ってもあまり動じていませんでした。絶対どこかの貴族ですよね?」


貴族じゃないなら何だというのか。


「うん。そうだね。僕はアルフレッドだ。第七―――」

「またこの店におられたのですか!アルフレッド殿下」

「じいや!?」

「さあ、さっさと帰りますよ。第七王子とはいえ仕事はあるんですからね」

「うぐっ」

「では。皆さん、ご迷惑をおかけしました」

「じゃ、じゃあまた明日ぁ!また明日ねぇえ!」

「明日は一日仕事です」

「そんなあぁあ」


アルフレッド―――アルは、「じいや」に引きずられて出ていった。


「王子?」

「今、王子って言ったわね」

「言ったな」

「言ったね」

「言ったよ、確実に」

「「「「あれ、誰だったんだろう――――?」」」」


その答えを、私は数日後に知ることになる。

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