第二章 学園一年生は、波乱の時期

第二十八話 苦労多き令嬢の秋の幕開けは、コメディーと共に。

「――――ら様。ステラ様。ステラ様、起床の時間です」

「うぅん、あと5分、、、、、、って、あ!」


既視感のあるこの光景。


「........うん、なんで朝から私の部屋に兵士達がいるのかな?」


そう、龍の血晶に勧誘されたあの日の朝と同じように、私の部屋にはレンと十人の兵士達が居たのである。ちなみに、今回はマイも最初からいる。


「なんでってステラ様、今日は貴方の入学試験の日ですよ」

「それはマイもでしょ?」

「いいえ?」

「ん?」


あれ、マイも入学するんじゃ無かったっけ。


「ステラ様.......確かに私も推薦はされておりましたが、仮にも従者である私がステラ様と同等など許されないではないですか」

「うん.......?とりあえず従者ってこと、覚えてたんだね........」

「当たり前ですが?」

「いや、だから、その態度がさ、、、、従者っぽく無いから........。自覚してたんだなぁ―って........」

「はい、いつだって私は従者として自覚を持った上でステラ様に接していましたよ」


当たり前........?自覚を持った上であれ........?

うん、考えるだけ無駄だわ。


それにしても。


「じゃあ私、一人だけなんだねー」


それはちょっと心細いなぁ、なんて。


「お嬢、ミーヤさんがいるじゃないですか」

「んー、まぁねー.....」


でもそれとこれとは違うのだ。


「兎も角、早く着替えて朝食を食べてくださいませ。早く出発しなくては間に合いませんよ」

「でも、龍の血晶の皆さんにお別れもしたいし.......」

「なら尚更早くしてください」


追い立てられたので、早くするか。

もうすっかりお馴染みとなったローブを羽織り、食堂に向かう。


「そういえばこのローブのお店にも、もうしばらく行けないんだなぁ.....」


まあここに暮らしていても用がある訳じゃあないのだが。


「一応アルさんにも挨拶していこうかな......」

『やぁ!』

「うぎゃあ!!」

『お呼びかな?久しぶりー』


そういえば、このローブ通して通話できるんだった......。


「いっ、いきなり来ないでください.......寿命が縮みます」

『あっはっは、ごめんごめーん』

「......で、なんか用ですか?」

『えっ、挨拶していこうかなって言ってたからー』

「あぁ........うん、行ってきますね」

『ところでそのローブ、役に立ってる?』

「まぁ今の所激戦をするようなこともないのであまり役に立ったかは分かりませんが.......」

『ま、そうだよねー』

「でも、学園で貴族のゴタゴタが出たときに使えそうです」

『あぁ.......』


持ち物や服で貧乏レッテル貼られても困るしね。


「まーでも、学園の冒険者科にいる貴族なんてそこまでお高く留まるようなものでもないでしょうし。他の学科......研究科とか芸術科には居るかも知れないですけど、大して関わらないでしょうし......」

『そうだねー。あぁでも、今年の冒険者科は......』

「.......なんですか?」

『いや、何でもないー』

「絶対なんかありますね!?え、私今すっごい不安なんですけど!?」

『まぁまぁ、じゃあ僕は仕事するから、またねー』

「ちょっ、説明求むです!ねぇ、アルさぁーん!」


ブチッ。


「あんのクソ野郎、都合良く切りやがって.......」

「ステラ、今すぐその口調を訂正しなさい」

「あ゛、お母様......」


......アルさんのせいで怒られた......いつか絶対に仕返ししてやる........。


◇◇◇


その後多少不機嫌なお母様と『ステラも大きくなったもんだなぁ』って空気を読まずに呟いてお母様に怒られたお父様と一緒に、朝食を終えた私は。


「なんともまぁ立派な馬車で........」


イレネさんが用意してくれたという馬車に乗りに、拠点まで来ていた。

しかし本当に立派だな.......。

彫刻の繊細さといい、この安定感といい、馬が六頭いることといい、御者さんの気配の感じなさといい、、、、流石伯爵、という感じである。


「本当に最後までありがとうございます、イレネさん」

「べ、別にあんたのためじゃないわよ、お父様が勝手にやったんだから....」


うん、イレネさん。


「ツンデレのデレはいつになったら現れるんですか!?」

「私がデレるのはレインだけよ!――――って、私はツンデレじゃないわよ!」


嘘だ。絶対ツンデレなのに.......絶対そういう位置づけなのに.......。


「私という主人公がいながら浮気ですか!?」

「何の話かしら!?」

「だから、イレネさんは私のっ―――――何言ってんだろ、私」

「本当に訳分からないわね、あんた!?」

「えぇ........すいません?」

「何故に疑問形っ!?」

「えっと、すいません」

「あなたの頭の中がどういう風に動いたらさっきの発言が出るのか謎だけど、まあいいわよ。考えるだけ無駄だし」

「えぇ..........。まあいいです、じゃあ行きましょう」


そうして動き出しだ馬車一行。メンバーは私と御者さん、それにイレネさん、マフカさん、カイルさん、レインさん、レン、マイ、、、、、、、、、って、ん?


「なんでイレネさん達が来るんですか?あとマイも?あと、レンも...?」


皆は学園には来ないのに。


「馬鹿ね、私達は護衛として雇われたのよ。あとレンは直接屋敷から、ね」

「あ......」


あぁ、お父様とお母様、わざと選んでくれたんだ.......。

そう思うとちょっとだけ泣きそうになったけど。


「お父様、お母様、ありがと!」

「おう!」

「ステラの喜ぶ姿が見れるだけで私は満足よ」


泣いたら心配されちゃうから。


「うん、行ってくるね!」


私は、笑顔を通した。


生まれてからずっと過ごしていた屋敷が、領地が、小さくなっていく。その風景は勿論、ダンジョンに行くときも見たけれど........これから一年は会えないんだと思うと、全く違って見える。そして、目の前が一瞬だけ滲んで。


「行ってくる、ね.....」


頬を一筋の涙が、伝う。


夏の終わり、まだ少しだけ暑さの残る領地に吹いたのは。

少し寂しく、でも心地よい秋風だった。


「ってお嬢、合格する気満々なんだ.....」

「レン、雰囲気!雰囲気ブチ壊し!」


そして、レンの空気読まない度も当然のようにそこにあったのである。


「いやだって―――」

「言い訳禁止!じゃあ、レッツゴー!」

「「おーう!」」

「ちょっと、勝手に出発してるんじゃないわよ!私達まだ馬に乗れてないんだけど!?」

「わぁーっ、ごめんなさいぃ!」

「もう、全く.......」

「なあ、あたし今気付いたんだけどさ、レインの結界張れば万能だからあたしたち要らないんじゃないかね?」

「え、駄目ですよ!?皆さんは私の心のお供です!」

「そこは心の友、でしょ」

「あ、じゃあ心の友で!」

「心の友ってそんなに簡単に決まるもんじゃないだろ.....あと先輩を友っていうのは違う気が......」

「うるさい、レン、うるさい!」

「全くですよ、レン」

「理不尽!?あとマイ、お前にはなんもしてないだろ!?」

「主の傷は私の傷......」

「こんなところで従者を自覚するな!あとマイ、割と美人だから!一瞬心配するから!」

「はわっ!?自分が美人だとは分かっているのですが、面と向かって言われると......あんまり恥ずかしいと、ナイフを投げちゃいますよ?」

「そこは否定するところだろ........あと、ナイフは投げるな!死ぬから!マジで!」

「えっ、あんまり〇〇だと〇〇しちゃいますよって、そういう脅迫ではないのですか?」

「脅迫じゃねぇよ!それは乙女のセリフだ!あと、脅迫だと思うならするな!怖いから!」

「えぇ.......」

「「「「あっはっはっは!」」」」

「笑わないで!?今俺、割と本気ですからね!?」

「そこが面白いんじゃん」

「お嬢ぉ...........後で仕返しする.......」

「主の傷は私の傷......」

「分かったから!やめるから!とりあえずそのナイフを降ろせ、な!?」

「マイ、やっておしまいなさい」

「はい」

「えっ、ちょっ、お嬢!?―――ふっ、きゃはははは!あはははは!ちょ、マイ、やめろって!なあ、やめろってぃあははは!」

「必殺、くすぐりの刑っ!」

「ぎゃあははははは!ちょ、やめろぉ、ふきゃあはは!」

「ふっ......ざまあみろ。私の敵になった報いだ」

「「「「ステラよ......怖ぇ......怖いって......」」」」


やっぱり、こういう雰囲気のほうが。

私には合うな、そう思った。


穏やかな秋の幕開けは、優雅なアフタヌーンティーと共に.....ではないが、それに匹敵する楽しさと共に成ったのである。


......え、そういうことじゃないって?

別にいいじゃん、楽しければ。

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