番外編 ダンジョンに勉強に行きます!前編

これは、学園入試までの間にとっていた休暇のときの話である。


「僕忘れてたんだけど、結局ステラをダンジョンに連れて行ってあげられてないんだよねー」


レインさんが、そんなことを言い出したのだ。


「ダンジョン!危険だって聞きますけど楽しそうですよね」


謎解きとか、罠とか、単なる力量だけじゃないのが面白いと聞く。


「今から行くんかぃね?」

「それも良いかもしれないわね。丁度いい入試勉強にもなるし......」

「それに、家から離れて過ごすのには慣れといた方がいいぞ」


そんなわけで、私達はダンジョンに行くことになった。

唐突すぎる?うん、私もそう思います。


「ていうか、ダンジョンって結構遠くなかったです?」

「そうだね、一番近いの―――今回行くのでも王都だし」

「あぁ、初心者向けの......って王都?それ、なんか残念なんですが........もっとこう、新天地での学園生活みたいな始まりを希望していた........」

「まあまあそう言わずにー」


そうして、王都に向かっての旅が始まった。


- 一日目 -


「まず今日は、馬車でリシシアの街に行き、そこで宿を取る」


リシュ.....リスィ......リシシュイ......


「すっごい言いにくい名前ですね!?」

「慣れなさい。で、明日の朝、リシシアで馬を借りてそれに乗って行くわよ」


え。


「馬車じゃないんですか?」

「そこはねぇ......」

「馬車に乗ったら護衛代とか色々あって高く付くのよ。その点、馬に乗っていけば護衛も御者も荷台もいらないじゃない」

「確かに!護衛は自分でできますしね」


だから馬車じゃなくて馬そのものに乗っていくのか。


「面白いですねぇ」

「「「「今の話のどこに面白がる要素があった?」」」」

「まず一つとして皆さんの息がぴったりなことですね」


ほんとに息合いすぎでしょ。


ちなみにその日泊まった宿の看板メニューは。

.........馬肉であった。


- 二日目 -


「ステラ。起きて」

「ぅうん」

「起きて」

「むにゃ」

「起きなさい!」

「んー」

「起き.........我が手に宿りし魔素よ、炎の矢となり顕微せよ。ファイア――」

「ちょぉおっと待ってください起きますんで攻撃しないでください!割と痛いんで、それ!」

「起きないあんたが悪いんでしょ........ま、いいわ。馬借りに行くわよ」


「おはよー」

「遅いから先に借りてきたぞ」

「ほらあんたのせいで迷惑かけてんじゃない」

「ごめんなさい.......」


それにしても寝起きが悪いのは致命的だ、どうにかしたい......。


「.......あの、ステラ様、馬乗れましたっけ?」

「.............小さい頃に、ちょっと習ったことが、あったことも無くもないかもしれない」

「.................しょうがないですね、私の後ろに乗ってください。そして周りの警戒をお願いします」

「......................はい」


◇◇◇


日が暮れそうだからこの辺で泊まるか。

カイルさんがそう言ったので、野宿に最適な場所を探していたときだった。


「うきゃ!?」


イレネさんが、馬から突き落とされた。

山賊だった。

大丈夫ですか!?と、そう叫びそうになった。あいつらに魔法を一発撃ってやりたかった。


「ふーん、中々いい女じゃねぇか。おいお前ら!こいつを殺したくなかったら武器を落として―――へぶっ」


しかし、私は見逃さなかった。

イレネさんがニヤリ、と笑ったことを。


「ふん。私が簡単に振り落とされるとでも思ったの?捕まるとでも?あんたらごときに?思い上がりも甚だしいわね。これでも一冒険者、、、戦い方は知ってるつもりなのよねぇ」

「ひぇ」

「逃がすか!我に宿りし魔素よ炎の球となれ、ファイアスフィアー!」

「「「「「うぎゃぁああ!」」」」」


そして私達一行は、何事も無かったかのように野宿場探しを続行した。


............山賊たちは魔獣が届くギリギリの高さで、森の木に縛り付けられていた。

その晩の彼らの叫び声は近村の七不思議の一つになったという。

そして私はその七不思議話を割と近いうちに聞くことになるのだが、それを知る人は誰一人としていなのである。


ちなみに大幅に省略化された詠唱に関しては、


「あぁ、あれ?レインがね、『詠唱は単なる魔術のイメージ作りだから、それが思い浮かべば多少省略しても問題ない』って言ってたのを、実践してみたのよ」


ということらしい。


..................大勢の魔術師が覚えてる詠唱って、一体.............。


- 三日目 -


「起きなさい」

「うー」

「炎よ全てを焼き尽くせ、ファイア――――」

「はい起きました!っていうか、昨日よりさらに省略された上でパワーアップしてますね!?」

「人は成長するのよ」

「いや、そうなんですけど.........やっぱり、私が頑張って覚えた詠唱って一体........」

「私も最初はそう思って虚しかったわよ.......でも慣れるのものよ」


慣れるかな!?


...........いや、慣れないな。


「こほん。それで、今日はどうするんですか?」

「ほんとはもう一日かかるところを森の中を強行突破して時間短縮する」

「強行突破って.......いや........魔物もたくさんいるし、どうするんですか?」

「僕の結界で全て突き飛ばす」

「そんな無茶苦茶な........もう、考えるのよそうかな」


このパーティー、どんどんおかしくなっていく。

しかも日に日にというペースで。


「じゃあ、結界張って、レッツゴー!」


そして予告どおりその日の内に王都についた私達がまず最初にしたこととは。


「コボルト七十二体、サラマンダー各属性三十匹、それにナマコ虫、コロコロ鳥も..............」

「「「「「「「「....................」」」」」」」」


蹴散らしただけで死んだ魔物たちの素材交換であった。

その時の王都ギルドは、大騒ぎを通り越して水を打ったような静けさに包まれていた。


..............金額は、金貨十枚であった.................



「.......このパーティー、ちょっと頑張ればひょっとしたらSランク行けるのでは.........」

「僕が自重しなくなったからね」

「自重してください........」

「自重、捨ててきちゃったんだよねー」

「拾ってきてください!」


自重は有り過ぎても困らないけど、無くすと困るんですよ、レインさん。


- 四日目 -


「魔素よ――――」

「せめて一回はチャンスくださいよ!?」


毎朝の恒例事項となったファイアアローを避け、、、、これが恒例なんて、このパーティー大丈夫だろうか。


兎も角、ファイアアローを避けた私は朝食に向かうことにした。


「おはよう御座います、ステラ様」

「ステラ、おはよー」

「おはよう、ステラ」

「おはようございますー」


朝食の場は打ち合わせの場。


「と、その前に注文するか。女将さ―ん!」

「はーい。ご注文はなんだい、ステラちゃん?」


ここの女将さんはとっても気さくで良い人で、料理も上手で、そして泊まった人の名前は全部覚えれるという超的記憶力も持っている。今だって、私の名前覚えてくれてたしね。


「えっと、、、、黒パン一つとリジュシーネの果汁頂けますか?」

「うんうん。他には?」

「あ、これでいいです」

「あいよ。黒パン一つ、リジュシーネ一つ!」

「「「了解でーす!」」」


「それでもぐ、今日はもきゅもきゅ、ダンジョンにもぐ行くんだけど―――」

「レインさん、食べるか話すかどっちかにしてください」

「―――もぐもぐもぐもぐ」




そこ食べるにしちゃうのね..........。


「――ごっくん。で、ダンジョンに行く上で守ってもらいたいことがあります」

「はい」

「一つ、言われたとき以外は―――パーティーの真ん中が普通だけど、その時に応じて―――一番安全な場所から攻撃すること」

「はい」

「一つ、余計なものには反応しないこと。避けて通れる魔物は避けて通る。ダンジョンマスターは消えたけど、コアは作動しているからね。魔物は無数にいるから、無駄な戦闘はしない方が良い」

「はい」

「一つ、一応お嬢様だから間違っても死なないようにすること。いざというときは僕らを盾にしてでも」

「は――――――は?」

「できる?」

「できませんよ!?だってレインさん達は、、、、、仲間ですし、色々教えてくれた先輩ですし」

「まあ、『いざというとき』はほぼ来ないと思っていいでしょ。僕、王族だし」

「あぁ、レインさん、王族ですもんね...........」

「できる?」

「冗談でも言いたくないんですけど、、、、こんな、、、、、、はい、できます」

「よし、じゃあ出発!」


私達のダンジョンプチ冒険は、まだ始まったばかりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る