第二十七話 学園に行くのか行かないのか。行けるのか行けないのか。行きたいのか行きたくないのか。

「はぁ.......」


騒動が終わって数日後、その日は竜の血晶拠点でのんびり過ごしていた。


「まーた溜息ついて。まず1番大事なのは、ステラが行きたいか行きたくないか、さね。特別報酬もあるんだし、許可さえもらえりゃ何も困ることないだろう」


そう、私は悩んでいた。

その悩みとは、学園に行くか、行かないか、行けるか、行けないかである。


「そうですよね.......お金には、困らなくて済みそうですけど」

「だったら、後は自分が行きたいかどうかじゃないかさ。行きたいと決めたら何が何でも説得するんだよ」

「なるほど」


では、私は行きたいのか、行きたくないのか......。


「家族と屋敷に仕えてくれる皆も好きだし、竜の血晶の皆も離れがたいんです。でも、学園に行くのが自分とか他の人の役に立つなら行ったほうがいいですよね。それに、あれだけ推してくれるのに行かないのはギルドの方たちに申し訳ないですし。それに私、ミーヤと約束したんですよ」


学園でまた会おう、って。


「で?ステラの気持ちは?今言ったのはほとんど全部他人のことじゃないかさ」

「..........確かに」


では、私はどうしたいのか。

いや、ここの皆と離れたいわけじゃないけど、強くなりたかったら学園、っていうなら私は学園行きたいんだよなあ。


「言っとくけど、学園に行っても夏休暇で帰って来れないことはないさよ?って、学園に行ったレインが言ってた」


おお。実体験か。

........?会えないことはない?つまりそれは。それなら。


「私、学園行きます!」

「「「「それで即答!?」」」」

「いえ、皆さんに会いにこれるのなら別に問題ないなと思って。お父様なんかは呼ばなくても来るだろうなって、今更気付いたので」

「「「「.....確かに......」」」」

「なので、行きます」


そう、王都は馬車で四日、そこまで遠くないのだ。話したいだけなら手紙を出せばいいし、お父様は多分理由をつけて遊びに来る。

それならば別にホームシックになる必要はないのだ。


「では、お父様を説得してきます」

「ちょっと待つさね!一応ギルド員も一人付けていきな」

「はぁーい」


兎にも角にも、交渉材料は用意していけということらしい。


「そういうことなので、お願いします」


今日の受付は、メーテさんらしい。


「そうですね.......私は職務中なのでちょっと........レティなら飛んでいきそうですから、彼女に頼んでみては?」

「はい、ありがとうございますー」

「で、ステラちゃん。今日はどうしたの?」

「えーっとですね....カクカクシカジカ」

「はぁー、なるほどね。いいよ!行ってあげる。逸材を掘り出した私の給料アップ――――もとい、この国と有望な若者のためだもの!」

「それもう本心隠す気ありませんね!?」


そういうわけで、私達は説得に向かうこととなった。


「お父様ー!お父様ー!ちょっと話したいことがあるんだけど」

「おう!なんだ?」

「......お願いします!冒険者の学園に、ユーデグライツ学園に入らせてください!」

「.......ちょっと考えさせてくれ」


お父様の顔は、真剣だった。


「.....領主様。私、ギルド受付の者ですが。発言を許していただいても?」

「ああ」

「......私からも、お願い致します。ステラお嬢様は、とても才能のある方です。専門の方をつけて伸ばしてあげれば将来は無限大、逆に言うと伸ばさなくては勿体無い.........なので、私などが差し出がましいですが、お願いします」

「........そうか」

「じゃあ」


お父様の真剣な雰囲気に飲まれて、結局それだけで終わってしまった。


◇◇◇


娘が、、、、、、学園に行きたいらしい。


「セバス、ユーデグライツ学園というのはどんな場所だ?」

「はい、旦那様。ユーデグライツ学園は、将来を期待される冒険者の若い方たちが推薦式で集められ、実力のある教官方に鍛えてもらいに行く学校でございます。寮制ですが、夏休暇などで戻って来ることは出来るようになっております。加えて、貴族であれば付きの者を一人同行させることが可能です」

「そうか」

「ちなみに、ギルド側の意見として推薦したいのはイオリお嬢様だけでなくメイドのマイも含まれています」

「学費はあるのか?」

「いえ、ありません。その代わり、この国の王都ギルドで最低二年活動することを条件にです。ですが、そうは言っても鍛錬用の武器は借りると粗末なものしか無いですし、食事も出ませんので、実質的にはお金がかかると思って良いでしょう。旅費などもあります。二年間の通学となっておりますので、計算すると一人あたり金貨.......七枚程ですね」

「きついな..........」

「ですが、二人には先日の特別報酬もありますので。金銭面はギリギリ問題ないかと思われます」

「じゃあ、あとは俺の気持ちの問題か?」

「はい」


俺の気持ちの問題か..........。

行って欲しくない。勿論、行って欲しくない。

誰が好き好んで愛しい娘を手放すというのか。

だが、ステラの実力を伸ばしてやりたいとも思う。ステラがしたいのなら行かせてやったほうがいいかとも思う。


「......マユに相談だな」

「そうですか。ではお茶の時間に話せるように手配しておきます」

「ああ、頼む」


そうして、茶の時間がやってきた。


「―――だから、俺らの気持ちの問題らしい。どうする?」

「.........そうねぇ」


娘と同じくらい愛しい妻の顔が、困ったものに変わる。いやしかしいつ見ても可愛いなぁ。


「.....あなた?余計なことは考えないで頂戴」

「バレてたか」

「ええ。それで、あなたはどう思うの?」

「俺はなぁ......」


どうするべきなのか。




「行ってほしくない。心配だし、寂しい。娘をいつまでも外に出さないのは良くないってのは分かってるんだがな」

「そうよね。私もそう思ってるんだけど。ステラは、行きたいって言ってるのよね.......」

「じゃあ――――」


「左様ですか。では、そのようにお嬢様に伝えておきますね」


セバスの顔は、小さな笑みを作っていた。


◇◇◇


「だって、お父様の顔が真剣だったんですよー」

「そうだけどあんた.....もうちょっと押してから帰ってきても良かったのよ?」

「でもイレネ、領主様の顔が有無を言わせない感じだったのよ」

「レティは黙ってて!」


あの後、私は拠点に戻ってきた。ちなみに何故かレティさんもいる。彼女は仕事をしなくていいのだろうか。


「いつまでそのやり取りを続けるつもりなんだい。もうかれこれ1時間は経ってるじゃないかさ。いい加減にお茶でも飲むさね」


ずっとループするその会話には、マフカさんが終止符を打ってくれるらしい。


「お茶なんて頂いてよかったんですか?ありがとうございます」

「え、レティの分はない―――って、入れるから、分かったからそんな目で見るのはやめるさね。ね?」

「ちなみに、まさかとは思うけど、このお茶はマフカが入れたんじゃないわよね?」

「あたしが入れたよ」

「そうよね、やっぱりマフカのお茶がこんなにいい香りなわけ........ステラ、今すぐそれを吐きなさい!命に関わることよ!」

「ふぉういぅほほへふは(どういうことですか)?」

「汚い!早くほら、洗面所に行って!」


......取り敢えず行ってこよう。


「で、どういうことなんですか?」

「いい?知っておいたほうがいいわ、マフカの料理の腕は破滅的.......こと、紅茶においては......」

「ごくり」

「昔、レインはそれでお腹を壊してね、、、、」

「違うさね!あの時は魔物の処理がきちんとできてなかったからだよ!あたしのお茶じゃない!」

「どっちもでしょう」

「違う!それに、このお茶はさっきマイに教えてもらって合格点をもらったやつさね!ちゃんと出来てるはずさよ!」

「あ、マイですか。なら大丈.....ぶ........やっぱりだめです!イレネさん!それを今すぐ吐き出してください!」

「「二人してひどい」さね!」


説明しよう。マイはすべて完璧だった。小さい頃から完璧だった。料理以外は。

そう、彼女の料理の腕は破滅的であった......


「「ぎゃぁああああ!!」」

「「今すぐその認識を訂正して来なさい」」


「.....あの、失礼致しますが、旦那様から返事が来ました」

「セバス!で、どうだったの?」


セバスの顔が、ゆっくりと微笑む。


「学園に行って力を伸ばしてもらって来い、だそうです」


顔を見合わせる皆。


「「「「「「「ぃいやったあ!」」」」」」」


お父様も案外、悪くないかもしれない。そう思った午後だった。

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