第二十六話 後始末
それから数十分後。
「あ!」
「どうしたんですか!?まさか援軍」
「あ、いや、結界が、、、、、、、、領主さんに引っかかってる.......」
「......。今すぐ解除してください」
「そりゃ勿論」
「ったく........領主に結界はないだろう、レインくんよぉ」
「すいません、、、、」
「わっはっは、まあいいけどな。この街にそんな優秀な魔術師がいるとは思ってなかったからなぁ。魔術も物理攻撃も効かないんだって?」
「えぇ、まあ、はい」
「そうかそうか、頑張れよ。俺は冒険者やりたかったんだが、危険だって止められたんでな」
......ん?
「それじゃなんで、私が冒険者になることを止めたの?」
「ん?あ、あぁ、だってガキと娘は違うだろう?それに、冒険者になるには強い決心が必要だから、あれはそのテストだったんだ、うん」
「そーだけどさぁ.....」
どうせそんな理由では無く、娘愛でしかなかったのだろう。そしてこれは自惚れではない、親の性格であると断言できる。
まあいい。
「とりあえず、これガスト夫人だから」
「『これ』って、、、、、、いいけどよぉ」
どうせお父様も『これ』くらいにしか思ってないだろうに。良くないけど。
「うーん...........よし!じゃ、マユ。女同士のほうが話しやすいだろうから、悪いが、悪いが頼むぜ!」
そう言ったお父様の顔は、全く悪びれていなかった。
ガスト男爵と相当仲悪かったからなぁ........。
「え?........分かったわ、私は彼女と話をつけてくるから。終わったら『貴方が』ガスト男爵とお話してきてくださいね?ふふふふっ」
「「「「うわぁ.......」」」」
しかしまあ自業自得である。
「じゃあ、イレネさんとイオリは残って他の皆は出ていってくださるかしら?」
皆を見送ったあと、お母様は溜息をついてガスト夫人の方を向く。
「.......で、このサイレンス魔法はどうやって解除するのかしら?」
「レインさぁあーん!」
そこは解除してから行ってくださいよ......。
「気を取り直しましょう。で、セイラ様。どういうつもりですか?」
「ちょっと、貴女私を縛ったらどうなるかわかってるの!?」
「どうなるんですか?」
「グスタフ様が来て貴女とその馬鹿らしい娘を無様に倒して、それで私を助けるのよ!」
ブチッ。
そんな音が聞こえた。
「セイラさん、貴方今時分がどういう状況に居るのか解っていますか?惚気はまだ許容範囲内ですが、私はともかく娘を馬鹿にしないでもらいたいわね」
お母様、第一形態突入。無表情と凍てつくような視線である。
「ふん。貴方達のどこに誇れるものがあるのよ」
「.........何故ここにいらしたんですか」
「こんな貧乏で、品がなくて、嫁は平民で」
「...........何故ここにいらしたんですか?要件は聞くので早く終わらせて帰ってください」
「平民の血が混ざってる娘なんて、私嫌いよ」
ゴウッ。
お母様、第二形態突入。先程の状態に漂う冷気と謎の声エコーが足される。
「平民の血が混ざっているからなんです?お言葉ですが私達のような弱小貴族は商人の娘と結婚することもしばしばです。ガスト男爵家にも、先々代くらいに混ざっていなかったかしら?平民の血が」
「ぐっ.....私には平民の血は混ざってないわよ!それにあんたみたいな平民と違って、財産にも夫にも恵まれてんだから!」
ドウッ。
お母様、第三形態突入。顔が般若に変わり、オーラが闇黒くなる。声にドスが効いてくる。敬語を使うべきの相手でも、口調が崩れ始める。
「夫を侮辱しないで頂戴。人がいないところを襲ってくるあんたを止めないような人間が、責任を持って領地を守り、欲を張るようなこともせず、ちゃんと騎士らしく勝負は真っ向からと決めている私の夫より優れているとでも?巫山戯んな、夫は苦労して生きてんだよ。夢の訪れにはまだ早いんじゃないの?」
『夢の訪れにはまだ早いのではないかしら。』それは、貴族特有の嫌味である。早い話が、寝言は寝て言えということだ。
「それで。話が逸れたけど、あんたはどういうつもりでここに来たのかしら?」
「決まってるじゃない、領地を増やして贅沢するためよ!」
バキバキィ......。
お母様、最終形態―――――
「って待って待って!それは流石に不味いから!屋敷、壊れるから!」
「「.......何の話?」」
「え、だってお母様、今、最終形態に入ろうとしてたよ?」
「.....イオリ、その最終形態って何かしら?」
「あ」
しまった。これ、私が勝手に脳内で呼んでたんだった。。。絶対怒られる。
「こほん。それにしてもセイラ、あなた本当にそれだけのためにここに来たの?」
「そ、そうよ」
「本当に?上から頼まれたとかじゃなくて?」
「本当よ!」
「本当に本当?隣国と繋がってるとかじゃなくて?誰かの命令とかじゃなくて?」
「本当に本当よ!うちの夫は誰かの言いなりになんかなったりしないわよ!」
「絶対に本当?あんな新種まで開発して?」
「あんなって炎鼠の?ええ、本当よ!私はここが欲しかっただけよ!」
まじか.......ガスト夫人の強欲さがすごい......
「じゃあ、なんで私の領がそこまでして欲しかったの?」
「それは勿論、私に相応しい場所だからよ!......あ」
「そう。ありがとう......あなたにそこまで言ってもらえるなんて、私はますます頑張ってここを守らなくちゃいけないじゃない」
「ち、ちがっ!あ、ああ、あんたを褒めたんじゃなくて.....その......そういう意味じゃないのよっ!」
「うふふ」
.......?もしかして、お母様、意外と許してる?
「そういうわけで、私はここを守らなくちゃいけないの。なので、後で衛兵に渡さしてもらうわ。ごめんなさいね」
「ひぇ」
前言撤回。
許してなかった。あれは、、、お母様、怒りすぎて一周回って笑顔になってるときの顔だわ。
「ゆ、許してぇっ!ねえ、お願い!私あなたに色々してあげたじゃない!結婚したときも一応贈り物したじゃない!」
「ほう、あの流行遅れで薄汚れたドレスに今回の不正を許すほどの価値があったとでも?いや、ないわね」
「ねぇ、私牢獄だけは嫌なの!ねえ!」
「だからなんですか?」
「ねえ、ねえってば!嫌ぁあああ!」
..........ガスト夫人は、無事連行された。
あの後、ガスト夫人とその家族、屋敷に直接攻撃してきた人たち、裏で糸を引いていた人たち、魔物開発に協力した人たち、それを離した人などが処罰された。
理由は伯爵家と男爵家を火事の危険に晒したこと、加えて男爵領を乗っ取ろうとしたこと、その工程で危険とされるために討伐していた魔物を増やしただけでなく改良しその危険度を何倍にもさせたこと、それの影響で逃げ出した魔物が伯爵領や男爵領以外の場所にも迷惑をかけていることだ。
炎鼠の討伐や研究所発見に貢献した竜の血晶およびそのメンバー、加えてミーヤと鑑定のリーリアさんは特別報酬をギルドから貰い、この辺一体を治める公爵様から御礼状が届いた。これは凄い事で、マフカさんなんかは気絶していた。なんせ公爵様だからね。そういえば、それを見たレインさんは微妙な顔をしていた。そりゃそうだ、親戚から届いた御礼状を見て気絶してる仲間を見たら誰でもああなる。
ちなみに何故『この辺一体を治める公爵様』なのかというと、男爵や子爵には完全に自分の所有している領地というものはないからである。必ず誰か上の貴族がついていなくてはならない。
完全な私領地がもらえるのは伯爵以上、男爵や子爵を下につけることができるのは侯爵からである。
今回の事で領主がいなくなったガスト領は、公爵様が直々治める土地の一部になったらしい。
なんとか一件落着........かな?
「隣領が公爵様の土地になるなんて聞いてねぇよ!プレッシャーがすごいんだが、どうしよう!」
いや、一件落着じゃなかった。お父様が潰れそう。
「私も流石にこれは想定外だ......」
ついでに伯爵様も潰れそう。
私はというと。
「学園の推薦......早く決めないと......あんなことあった後だし許可取るの難しそうだな......いっそあの受付嬢の熱狂ぶりを見せて.......」
違う理由で潰れそうであった。
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