第二十五話 黒幕(推定)は捕らえるのが簡単だった。

冒険者方面が一段落したので、屋敷に戻って領主の娘をしている、どうもステラです。


「で。ガスト達は多分今晩の夕食会中に襲ってくるだろう、と」

「はい」

「で、ステラは屋敷を守るためにここに残る、と」

「はい」

「だめだな。ステラは付いて来い」

「なんで!?」

「メデイロス家の娘で、火事現場にいたやつだからだ」

「どうせ今日もお酒飲んで家族自慢するだけじゃないですか」

「なっ.......それは無いと約束しよう」

「いやでも、犯人がガスト男爵だったとして、襲われるのが今日ならば話し合ったところで意味ないことありません?」

「ぐっ.........た、確かにそうだが、建前上.......」

「建前上ならばエレナお姉さまでも良いではないですか」

「んじゃあ私が行きましょうか?」

「エレナは......エレナも付いてくるか?」


いやどうしてそこで『も』になる!?そこは『が』でしょうが、『が』!


「イオリお嬢様、行きたがられないのは分かりますが、この街にはステラ様よりも強い冒険者や兵士がたくさんおられます。なので、ステラ様はご心配なさらずに行かれてください」

「そうだな、この街にはステラより強い――――って、ステラより凄いやつはこの街、いやこの世界にはいないぞ!よぉしステラ、残って戦って連中に見せてやれ!いいな!」


おおー。グッジョブセバス。

いい感じに当たり前の事言ってお父様を煽ってる。さすがうちの執事長。

サムズアップをしておいたら、真顔で返されたので吹きそうになった。セバスさん.......おじいちゃんが真顔でサムズアップは流石にきつい......。


「じゃあ、今日は残っていいんですね?」

「おう、ステラの強さを見せてやれ!」

「はいよー」


こうして私の留守番は決まった。


「あ、そういえばイレネさんいるのかな」

「お嬢のパーティーメンバーだっけ。さっき居たよ」

「おっけい」

「「「「「じゃ、行って来まーす!」」」」」

「行ってらっしゃーい」


「じゃ、レンみんなを呼んできてー」

「.......いいですけど、お嬢、全然、使役魔術を使いませんよね」


はっ!?確かに!?


「ひよー!ひよー!ちょっと今から拠点行って皆さん呼んできてー!」

「ぴよ!ぴぴっ、ぴっ!」

「ま、俺が行ったほうが速かったとは思いますけどね.....」

「おいそれは先に言え」

「お嬢が止める間もなく使役したんじゃないですか」

「確かにそうだけどね........」


そうだけど。そうだけどさ。


「「「「呼ばれて、飛び出て、ジャジャジャジャーン!」」」」

「なんですかその癖のある挨拶は........全員揃って.........医者を呼びましょうか?」

「レインがやろうって言い出したのよ!」


レインさん.......何故?


「いや、、、なんか言わないといけない気がした」

「医者呼びます?」


パーティーで一番頭良さそうなのに.........。なんでそんな変な事を言わないといけない衝動にかられてんだろ。残念な.......。


「こ、こほん。それはともかく、敵が来る前に準備するわよ」

「まあ、準備っていっても簡単さね。相手はへなちょこ貴族だし大した相手にならないさよ」

「おいマフカ、それ絶対本人の前で言うなよ?」

「それは流石に分かってるさよ」

「それならよし」

「んじゃあ、あたしとカイルはここに居るからレイン、なんか仕掛けるもんがあるなら仕掛けてくるさね」

「あー、仕掛けるものといえば簡易結界ぐらいだけど、それは来るときにかけたから。もうすることはないかな」

「イレネは?」

「あたしもないわね」

「......じゃあ、準備は終わり?」

「「「「いえっさー」」」」


もん。

もん

もん。

もん。


「来ないわね.......」

「ですね........」


もん。

もん。

もん。

もん。


「来ないね........」

「ですね........」


もん。

もん。

もん。

もん。


「来ないさね.......」

「ですね.......」


もん。

もん。

もん。


「って遅いわぁー!」

「いや、まだ待ち始めてから一時間くらいしか経ってないけどね」


一時間ずっとここに無言で座ってたのか.....。


「ちょっとマイ、お茶入れてきてくれる?あと、なんか軽い食べ物も」

「承知いたしました」

「ありがとー。もうちょっと待ちそうだしね」

「......!来た」


えっ今!?


「マイー!行くよ!」

「了解でーす!」

「イレネさんと私、カイルさんは後衛なのでここに居て、必要であれば援護します。マフカさん、レインさん、マイとレンは直接戦ってください!」

「「「了解」」」


―――外


「引っかかってるね.........」


外組の皆が、玄関を出てすぐ。正門には、一人の男が結界を破ろうとあれこれ試していた。


「これが犯人かい?」

「いえ、流石にガスト夫人もそこまで馬鹿ではないでしょう。これ以外にもいる筈ですし、これはおとりかもしれませんね。これに集中させて、裏から入るとか」


確かに、領の乗っ取りならもっと仕組みそうなものである。

それに、ここの男は装備も粗末、明らかに経験のないゴロツキであろう。


「どちらにしろ屋敷を襲ったことには変わらないんだから、さっさと捕まえて.....捕まえてどうするんだ?」

「捕まえて、そこの転移魔法陣で牢獄に入れる」

「.......転移魔術って、国王の許可無く使ってはいけない物では?それに、転移魔法陣の使用は記録されますよね」


転移魔法陣とは、国家規模で管理するものである。

何故なら、使い道が多過ぎて危険だからだ。例えば、相手国に危険物を送り付けることや王宮の内部から襲撃すること、個人の使用であれば密売や誘拐、国境結界の無視により敵の侵入を容易にするなどができる。

危険すぎる。

なので、転移魔法陣はすべて登録、その動きを記録され厳重な警備と共に国が管理しているのである。

その場所はおろか、存在さえ知らない人が多いという。


「でもこれは僕が1から作ったものだから、そもそも転移魔法陣として国に登録されてないんだ。だから、問題ない」

「...........問題大ありだよ............でもバレなきゃ良いってことなんだろう、どうせ」

「そういうこと。さあ、僕はここで転移魔法陣を開いとくから。皆は門を周ってきて、捕まえたらここに置いて」



「裏門に五人いたよー」

「東門辺りにこいつ居ましたよー」

「窓に三人張り付いていました。.........死んでませんよね?」


―――――ベランダ


「援護は要らなさそうね」

「そうですねー」

「そうだな」


皆はいい感じにやっていた。

ただ一つ。


「あの、、、、あの魔法陣は何でしょうか?さっきから人が乗っては消えてくんですけど」

「あぁ.......あれは............あれは!?」

「え、どうしたんですか?」

「ステラ、私は疲れたわ.......国王殿下に見つかったらと思うと.........」


え?え?


「私の家で何やってるんですか!?」

「あれは、転移魔法陣っていって(カクカクシカジカ)」


レインさん..................。


「私の家で何やってるんですかぁあーーーー!」

「あははー、ごめんごめーん」



「兎も角、これで敵は一掃できました。レインさん、ガスト夫人は恐らくこれで乗っ取り成功の確認を取り、屋敷にやって来ると」

「うん。それがそうだよー」


マイの手には、レインさんが見つけたという通信魔術具が握られている。


「ならば、おびき寄せのために嘘でも返事をさせたほうがいいのでは?」

「うん、そうなんだけど、それはもう僕がやってるから大丈夫だよ」

「お仕事が早いんですね......」

「マイに言われると自信持てるね」


マイの褒め言葉は珍しいからね。


「あ、、、、、、ガスト夫人って、移動速いんだねぇ..........」

「あ、来ましたか。じゃあ、レン行ってきてー」

「はーい」

「貴族を捕まえに行くのって、こんなほんわかした感じだったかしら......」

「違うぞイレネ.......ガスト夫人が簡単だっただけだ..........」

「ただいまですー。お嬢、捕まえてきましたよ―」

「んー!んんっー!」

「よし来たそこに置いといて」

「んんんっ!?んんーんーんー!んーっ!」

「うるさいね......ちょっとサイレンス掛けとくか」


かくして、私達は今回の黒幕(推定)を捕らえることに成功したのである。

非常につまらない数時間であった。

何故ならガスト夫人は、魔物より倒すことが簡単だったのだから。

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