第三十七話 どうしよう一発殴りたい。
「あ、来た来た!」
「あっつ!?」
「これを食べればお兄様に会えるのですわ!」
「......うるさい」
王宮で食事をすることになった。
というかしている。
死ぬほど豪華である。
相変わらずデヴィナさんは元気だ。
「おーいしぃー!」
「うん、美味しい!」
「当然ですわ」
「美味」
「おいしいけどそれ以上に胃が痛い」
「「「何故だ」」」
なんでだと思う?
......って、そんなこと決まってるでしょうがぁあ!
「ステラ様、叫ぶにしても心の中までにしておいてくださいね」
「うん、流石に王宮で食事中に叫んだりはしない」
「けれど?」
「正直言ってものすごく叫びたい!」
「でしょうね」
「おい何言わせてんだマイ」
だがまぁ、それが私の本心である。
「ふぇー!ふへはもあひふぁっふぇはへふぁほー」
「............デヴィナさん、食べながら話さないでください。私じゃ何を言っているのかわかりません」
「ごくん。ステラも味わって食べなよー、って」
「逆にデヴィナさんなんでそんなにリラックスしてるんですか.....」
「食べてる間は美味しけりゃそれでいいの」
「はぁ......それは王宮でも同じなんですね......」
デヴィナさんのその気楽さが羨ましい。
そう思いつつ、人生で一番気を使いながら黙々と宮廷料理を食べていると。
「のう、そこの者よ」
「「「「......」」」」
「儂はその黒髪の少女の事を言っておるのだ」
ぐぇっ。
絶対、絶対に、できるだけ気配を消して、なんら陛下とは関わりを持たないようにしようと思ってたのに。くそぉっ。
「は、はい......」
「エステリーゼのルームメイトはアレンが選んだそうだから心配は無いが、やはり我が娘は国の大事な王女だ。その分危険も多いから、貴方達には王女の護衛としての資質も求められておる。もちろんそなたたちが守るのはカルロ王子もだ。儂が預かっている他国の王子に傷をつけようなど以ての外。万一のときは命かけて守るように」
「はっ。えーーーっと、、私が王女と王子の護衛役に選ばれましたこと、至極光栄に存じます」
「うむ」
だが。
「ですが、何故デヴィナやミーヤではなく私に?」
「貴方が一番利用価値がありそうだからだ」
おう。
「.........光栄でございます......?」
「うむ」
いや。利用価値が高いって、光栄かね?
まぁいいや。そこが裁判所でない限り、王に言われたことは全て光栄だと思っとけばいいのである。それが一番無難だ。
「お父様」
「なんだ、エステリーゼ?」
「お兄様はいつ来られるのですか?」
「ふむ。ラエル、御者に連絡せよ」
「はっ。確認させて頂いた所、あと鐘半分ほどで到着されるそうです」
「だ、そうだ」
「それは楽しみですわ」
アルさん?
なるほど、私も楽しみだ。
ちょっとアルさんには色々言っておきたい事がある。王族は王族でもアルさんはへっちゃらである。っていうか色々逃げられてるから一回面を貸して欲しい。恨み晴らしに軽く殴りたい。
「ステラ様、良いですが人目のないところでしてくださいね」
私が色々思い出してアルさんに軽く殺意を覚えていると、マイが見かねて落ち着かせに来た。
いや、っていうか、人目が無ければ良いんだ。
「うん。人目のないところで軽く殴ってくる」
「まぁ、アルさんも一応お強いですし避けられるとは思いますが」
「当たるまで殴るから、大丈夫☆」
「そうですね☆」
恐ろしい主従である。私達だけど。
「......ステラ、マイ、食べたらすぐ帰るように」
「「あっ、聞かれてた......」」
ミーヤ、猫耳だから耳良いんだ......。
「くっそアルさんめ。絶対いつか殴る」
「......リーゼに殺されても?」
「うっ」
確かにエステリーゼ様に見つかったら色々終わるなぁ......。
「マイ、誰にも見つからずにアルさんを一発殴る方法って無い?」
「あります。私のアサシンスキルを持ってしてそれほど容易なことはないでしょう」
「おぉ!」
「......食事が終わったら直様帰るように」
「「.......はい」」
だが、そうするとアルさんに向けていた殺意はどこにやれば良いのか。
「若干似ているカルロ様を殴れば良いのでは?」
「あ、良いねそれ」
「......リーゼに告げ口されても?」
「うっ」
どっちもリーゼ様と繋がりの深い人間だった......。
あ、でも本人許可があれば。
よし。
「ねね、カールちょっと」
「うん?」
「帰ったら一発殴らせて」
「は!?え!?なんで!?」
「......しーっ、カルロ、しー」
「あ、そうだった......ごめんミーヤ」
「別に」
「うん。で、え?なんで僕を殴るわけ?僕なんかした?」
「いや別に?」
「だよね!?じゃなんで!?」
「カルロ、しー」
「あ、うん。で、エス、なんでなの?」
「いやなんか」
「うん」
「ほんとはアルさんを殴りたいんだけどね」
「うん?」
「殴ったらリーゼ様に怒られるじゃん」
「だろうね?」
「だからさ、若干似てるカールを殴ろうと思って」
「僕完全なるとばっちりだね!?」
「知るか」
「知るよ!?」
「知らん」
「知って!?」
「カルロ、しーーーーー」
「あ、はい。はい。うん」
「カール、うるさい!」
「エスには言われたくないなぁ !?」
「エステラ、うるさいですわ!カルロ様は大変お楽しみなようで!」
「「あ、はい......」」
いや別に私うるさくないもん。
もん。
「いやエスは結構うるさいよ?」
「えっ」
「ステラはいつだって騒がしい」
「いやミーヤ......」
「え、そうかなー?ステラ全然うるさくないじゃん!それに皆も」
「「「「それは君がうるさいからだ」」」」
「えー?あたし別にうるさくないでしょ!」
いやデヴィナさんは結構賑やかだと思うよ、うん......。
「......全員うるさいですわ。早く食べて帰ってくださいませ」
「「「「......はい......」」」」
ごめんなさぁーい......。
ちょっぴり反省しながらスープをすすっていると。
『ね、ねね、ステラちゃん』
「ほわっ!?」
アルさんだった。
「ハァ、もうなんですか?あ、それと、ついでに後で一発殴らせてください」
『なんで!?って、そうじゃなくて。今ね、屋根の上にいるんだけど』
「は?」
『リーゼをびっくりさせたくてね。ここから壁をつたって窓から入ってきたらびっくりすると思わない?』
「びっくりしますよ!?ってか危ないですよ!?あと護衛とかどうしたんですか!?」
『あー、護衛?おいて来た』
「捜索隊出ますよ!?」
『いいのいいの。で、びっくりするかな?』
「いや良くねぇわ!じゃなくて、びっくりするどころか殿下の護衛とかに討たれると思いますよ?」
『あー、それは大丈夫。僕あいつらより強いから』
「じゃなくて迷惑がかかるんですってば!」
『別に良いじゃん』
「良くないですよ全然......」
『まぁいいや、びっくりすることが分かったからそれでもういいんだよ。あ、絶対このことはバラさないでね。じゃ、あと十秒後くらいにねー!』
「え?まさか実行するんですか!?え、絶対やめてくださいね!?え!?」
プツッ
あいつぅー切りやがった都合の良い所で......。
それに、これ絶対後で「なんでアルさんを止めなかったそしてすぐに報告しなかった」って私が怒られるやつやん。くっそぉ報告してやろうか。
よし。報告しよう。
「殿下、少し発言をお許しいいただきたいのですが......」
「む?話せ」
「アルさ―――第七王子殿下、今、窓の外に居ます」
「.......は?」
「ですから、外に―――」
バリーン!
「リーゼー!遅くなってごめん!」
「「「「「「ぎゃぁあああああああ!?!?」」」」」」
どうしよう一発殴りたい。
男爵家令嬢は苦労人のSランク冒険者です。 凪月美和 @011608
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