第三十六話 王宮の夕食にお邪魔することになりまして......。

エス。エステラ。ステラ。エス。

うん、やっぱり「エス」って違和感だわ。


時は午後六時、日が傾きはじめ朱色の光が差し込むルーム1には、王族2人、極小貴族二人、平民一人という普通じゃありえないようなメンバーが集まっていた。


「でね、自己紹介もしたことだし、皆の呼び方を決めようと思うんだー」

「.....それより先に夕食をどうするか決めない?」


さて、あの後王宮から大量の荷物を持ってきた王女を食い止め、家来さんたちにも懇願し、半日かけてどうにか部屋に入りきるくらいに減少させたりして、まぁ一悶着あったのだが。とりあえず大量の荷物に押しつぶされることは回避し、今に至る。

ちなみにどうして同じことがカールに起こってないかというと、単純に男の方が生活必需品が少ないというのもあるが、それよりも彼は平民と同じような生活をすることをあまり気にしていないらしい。エステリーゼさんは言わなくても分かるだろうけど気にするからね。その分荷物量が増えるわけです。


でまあ、スタート地点に戻ると、『ルームメンバーは今後の訓練も共にする故、馴れ合いのために皆で夕食に行くように』っていう学園長からの最初の課題が届いたところである。


「食べる場所、ねぇ......」

「嫌よ、私は。平民と同じ場で夕食を取るなど」

「僕も、ちょっと、慣れないかなぁ.......」


…….うん?

カールあんた気にしないって言ってたじゃん。ねぇ。


あとね.....


「平民って、ミーヤはともかく私とデヴィナさんは男爵令嬢だから!これでも一応貴族!貴族だから!貴族に入るから!」

「そーだそーだ!」

「ミーヤはともかくって.....確かにミーヤは平民だけど」


ですです。


「で、どうすんの?」

「あなた、カルロ様にそのような口の利き方を――!」

「ううん、エステリーゼ嬢。僕がエスに許可をした」

「エス.....とは、その者のことでしょうか?」

「そうだよ。ステラって言いにくいからね」

「いえ、まさか.....いえいえいえ、いえ...........何故彼女が.....私は.......」

「うーん..........」


『どうしよう、困ったなぁーチラッチラッ』みたいな感じの目線向けられても。

うーん、とりあえずリーゼって呼べば?許可取って。


「うん、うーん.......。うん。エステリーゼ嬢、良かったら君もリーゼと呼ばせてほしいんだけど」

「...!大歓迎ですわ!」


ほらね。

私ナイスジョブ。危険回避能力乙。


「それで、夕食どうすんの?」

「.......いつも通り宿で食べたい」

「私はいつも通り宮廷料理人に作らせますわ」

「僕はリーゼのところにお邪魔することになってたんだけど....」

「えぇっ宮廷料理!?めっちゃ美味しいそうじゃん!」

「デヴィナさん........」


まぁ私もいつも通り宿で食べたいけどねー.....。


「本来ならカールとエステリーゼ様に従うべきなんだけど、ここは学園だし、それに王宮にお邪魔するとか無理がある....」


なので、他の方法を―――。


「姫様!」

「なにかしら?」

「今殿下から......はい......左様でございます.....はい、そうです......はい」

「分かったわ.......分かったわよ........」


エステリーゼさん、顔を歪めてどうしたのでしょう。


「.......仕方ないですわね.......誘ってあげないこともなくない、ですわっ」

「「「「え?」」」」

「っですから、その、お父様に言われたのです、部屋の子たちを連れてこいと、それで、ですから....」


…….え?王様、マジ?いやいや、だって、え?エステリーゼ様だよ?無理くない?


「それに、これをすればお兄様が会いに来てくれるのですわ.....!」

「「「「あぁー.......!」」」」


なるほどね。


で、そうなるとまた問題。


「マイ、貴族服とか偶然持ってきてたりしないよね......?」

「はい、そうですね」

「......ミーヤはそもそも持ってない」

「どうしよー、あたしドレス二着しか持ってきてない。猫耳ちゃんに貸すのが無い.....」

「............................それ、どういう意味?」

「ほぇ?」

「ミーヤ、男だけど......」

「うぇっ!?まじで!?猫耳ちゃん、猫耳くんなの!?」


どっちだよ。


「........ステラ」

「うん、実は私も女の子だと思ってたんですけど、違うみたいです。でも―――」

「「でも?」」

「ミーヤにドレス着せたいから女で良いでしょ!」

「「おぉっ!」」


ふふーん。名案でしょー。


「..........なにが名案、ステラ。あと王子とデヴィナ、『天才だ!』みたいな顔するな。ミーヤは男。ドレスとか断固拒否」

「「「そんなぁー......」」」


「あなた達、殿方にドレスを着せようなど気持ち悪いですわ........」

「「「あ」」」


そういえばエステリーゼ様いるんだった.......やばいめっちゃ引かれてる.......。


「なんでこんな方たちをお招きしなければいけないのかしら......」


いや私自分でもそう思うわ。もう私含めてこんなやつら王宮に招待すんのやめれば?


「..........王女様、迎えの馬車が到着いたしました」

「そう、この者たちを、、、案内、してちょうだい.........」

「畏まりました」


王女様露骨に嫌そうな顔したな!?一瞬ためらってるし!?


「王女様のお客様とあらば丁寧にしなければなりませんね。こちらへどうぞ」

「はぁ、どうも....」


けど、その凍てつくような視線が気になります.......。多分王女様が嫌そうだから警戒してんだろうね.......。


まあでも、こうして、どういうわけか王女様のお許しを頂いたので王宮で夕食を取ることになったのであった。



◇◇◇


王宮に着いた。結論から言うと内装が、もちろん外装もめっちゃ豪華で、流石王宮といったところである。


「「おぉ......」」

「王宮、すげぇ....」


そんなものとは無縁な私ら庶民三人組は、周りをきょろきょろしっぱなしである。


「そりゃ当たり前だよ、エッシェンヒュルトって結構栄えてんだから」

「アウルレーリア王国の王子様に言われたくないですわ」

「あはは、リーゼの父上にはいつもお世話になっているよ」


アウルレーリアは隣国で、うちより国土は小さいが、海に面しているので貿易が盛んでめちゃくちゃ豊かな国だ。

ちなみにじゃあデヴィナさんの実家の港はなんなんだというと、その部分だけ大陸から飛び出しているため、いくつかの貿易船はこっちに来るようになっている、という感じだ。数百年前にそれでアウルレーリアと戦争が起きているが、その後なんとか和解している。それも先代までピリピリ状態だったが、幼いときに会わされた現国王とアウルレーリアの現国王が意気投合し、代替わりしたときに二人の絆もあって完全に両国が仲良くなったらしい。


話が逸れた。長ーーーーーーーーーーーい廊下を歩いて来て、今なんと国王の前である。

「えー、よく来た。カルロ王子よ、一昨日の挨拶でも言ったが、我らは君を歓迎する」

「御歓迎感謝致します」

「そしてエステリーゼと同室の者たちよ」

「えっと、、、お初にお目にかかります、私、メデイロス男爵家次女ステラ、エステリーゼ王女様のご紹介においてこの場に馳せ参じました......」

「......ミーヤ、久しぶり」

「うぇっ!?えーと、えーと、同じくデュッタ男爵家三女デヴィナ、王女様のご紹介において......参じました?」

「馳せ参じました!」

「あっ、馳せ参じました.......うぅ.......」

「.........儂の娘をよろしく頼む」

「「「は、はいっ.....」」」


なにこれ疲れる。


(ちょっとデヴィナさん、そこは間違えちゃだめですよ!?)

(ふぇぇー助けてあたしなんでここにいるのか分かんない.....)

(私だって分かりませんよ.........)

(二人共、落ち着いて。貴族は舐められたら終わり)

((平民のミーヤが一番落ち着いてる.......))


解せぬ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る