第三十五話 自己紹介と、エス。

さて、アルさんが帰って、私達とデヴィナさんは王族二人の前に跪いていた。だって王族だし。


「うーん.........えーっと、、まず、この学園で生徒は対等な存在だから、とりあえず顔は上げよう?」


ほう、顔だけ上げて跪くのは止めないと?

そんでさ、そもそもあんたたちがそうやって指図してる時点で上から目線だって気付いてないと?

なに足組んで座ってるのよ、しかも部屋に二つしかないソファ占領して。特に王女。

完全に八つ当たりだけど。


同じ部屋に王族二人とかありえんよ、マジで。


しかしまぁ王族の言うことを聞かない訳にもいかないよね。


「訂正は後にする」

「あっそこきちんと訂正するんだ、ミーヤ」

「『対等な存在』らしいので」

「まぁーねー.....」


んー..............だってさー............。


対等な存在なわけあるかぁッ!王族と極小貴族よ?王族と平民よ?『学園では』ってことは裏を返せば学園の外ならなんでもできるってことだよ!?普通無礼働く!?


って、なるじゃん?


取り敢えず待たせても悪いので顔を上げる。


そして勿論跪くのもやめるし普通に椅子に座る。王子様ちょっと不愉快な感じだけど無視無視。だって対等らしいし。自分からそれを提示してきたってことは怒れないだろうし。


「で、、、、、同じ部屋なんで自己紹介でもしません?」


気まずいので、ちょっと話を変えてみる。


「あぁ、うん。じゃあ僕から....僕はカルロ。カルロ・ラスカ・ロートリウス」

「かるる....かるらら.....からら........言いにくっ」

「カルロ様に無礼よ!」


おうデヴィーナさんズケズケ行くねっ。んで王女めっちゃ興奮するねー。


「謝りなさい」

「いや、あたしは、、、っていうか王子が対等って言ったんじゃん....ですます!」


おうデヴィナさん正論行くねー。あと敬語慌てて使おうとして色々間違ってるよー。ですますって。


「いや、まぁ、うん......とにかく、僕はカルロだ。隣国のアスカレリア王国の第三王子、14歳だよ。特化能力は光魔術。浄化、治癒、支援とかだね。なんでか攻撃魔術が全くできないから習ってた剣も、人並みにはできる。趣味は――――」

「趣味とか良いから。んじゃ次あたしねー」


おうデヴィナさん言いたいこと言ってくれるから楽だわ。


「あなた、カルロ様のお話を遮ろうなんて――」

「はーいあたしはデヴィナ14歳です。あっデヴィーナじゃなくてデヴィナね。で、あたしはデュッタ男爵家の三女で、うちはパルジャヴェータと交易してる港の街です!特化能力は槍と体術、土魔術は人並み、壁作ったりかな」

「――ざいしなさい!」

「ん?あっ王女様ごめん、全然聞いてなかった」


おいっ。


それにしてもデヴィナさんパワフルだな。元気要素は彼女がカバー、か。


「あなたは、、、、、、、、、、、、もう、あとでお父様に盛大に怒られるのが良いのですわ!

.....こほん。私はエステリーゼ・リルカリリア・エッシェンヒュルトですわ。知っているでしょうけどこの国の第三王女、13歳よ。特化能力は剣、特にレイピアよ。もちろん王族の魔術も使えるけど、私はあまり魔力量が多いわけではないから期待しないで頂戴」


あっ、王女デヴィナさんに怒るの諦めちゃった。


ほうほう、レイピアねー。槍と体術、レイピア、癒やし、あとミーヤが魔矢で私がナイフと魔術だからー、結構バランス良いね。部屋割り当ての担当さんグッジョブ。


でまぁ、自己紹介、次は......。


「......次、ステラ」

「いやミーヤ次!」

「ステラ」

「ミーヤ!」

「ステラ」

「ミーヤ!」

「ステラ」

「ミーヤ!」

「ス、テ、ラ」

「.....はい」


ミーヤの目が本気です。


「え、えーっと.....私はエステラ・イオリ・メデイロス、メデイロス男爵家の次女で13歳です。特化能力はナイフと使役魔術だけど、普通に炎魔術と風魔術もできまーす」


言うことはこれくらいかな。

と、そこで。


「ふむふむ.......なんか..........エステリーゼ、、エステラ、、似てる!」

「「はぁ!?」」


カルロ王子、爆弾投下。


いやいやいやいやいやいやいやいや、この王女に似てるなんてまさかそんな私が、ねぇ?


「あ、いや、名前がね?」


エステリーゼさん、私を凝視。


「.....あんた、改名しなさい」

「え?普通に嫌です」

「あんたに似てるなんて迷惑なのよ」

「こちらこそ王女様に似てるとかめいわ――――ごほんごほん、王女様に失礼ですわ、私などが似ているなど、オホホホ」

「.......」


危ない危ない、王女様に似てるとか迷惑って、言ったらいかんやつだ。危ない危ない。

よしちょっとエステリーゼさんの突き刺すような視線が気になるけど次行こ、次。


「.....次、ミーヤ。13歳。特化能力は敵感知と水魔術、水の魔矢。以上」


以上......って。

うん、シンプルイズベスト。


これで全員か。


「あ、終わりかな?1、2、3、4、5、、、うん、そうだね。じゃあかいさー....って皆出てくの速!?」


........皆音速超えてたでしょ今の。ってかミーヤに至ってはスピードとかじゃなくて瞬間移動のレベルだわ。


でもね王子、ここを出ていくのはあたりまえだ。だってこんな気まずい空間出ていかないわけ無いでしょ。


と言いつつも私は残っておりますが。


「お言葉ですが、王子様」

「うん、なに?」

「わたくしたち対等な関係なのですよね?」

「う、うん、そうだね?」

「では敬語をやめても良いでしょうか?」

「あ、あぁもちろんだよ」


よし。


「でね、カルロ、あんた私達が対等な関係だって言ったでしょ」

「そうだね」

「じゃあなんであんたが私達に自己紹介しろとか解散しろとか命じないといけない訳?」

「......リーダーみたいな感じのつもり?」

「.........うん。まぁ、うん。そうなのね」


まーそうなのか........でもなー.......まぁいいかー。


「ハァ。あのね、対等、対等って言うけど。あんたたちはそれで良いかもしれないよ?でもね?でもね!?私達男爵令嬢と平民だから!王族と対等とか無理だから!急に言われても!」


だって頂点と底辺だもん!


「でも、現に君は今僕と対等どころか僕を怒っている立場にあると思うんだけど....」


......ん?


「.....あ」

「あははー.....君、面白い子だねー」

「えぇ .......?」

「まぁまぁ、僕達これから一年間ルームメイトなんだし。一年くらい仲良くしよう?」

「そしてその後は?」

「.....君は僕と同じ部屋じゃなくなってもまだ関わりたいと思うかい?」

「いや絶対嫌です他国の王子とか」

「でしょ?だから一年経ったらお互いに関わり合いっこ無し、でどうかな?」

「うーん......分かった」

「......で、解散って言っちゃったけど僕たち今日からここが家だったりするんだよね......」

「私はメイドがいるから呼んでくるけど。カルロ....は、言いにくいな。カル....カール........よし、カールはどうする?」

「なんかあだ名になってる......」

「カールが言いにくい名前なのが悪いんだよ」

「んじゃあ僕も、エステラって言いにくいからエスって呼ばせてもらうよ」

「えぇ....なんかそれエステリーゼ王女が色々めんどくさそう.....」


絶対あだ名で呼ばれたがるじゃん。それに彼女もさ、名前が「エス」テリーゼなんだよねー....。


「だって異国の王女様を略称は流石に良くないからね」

「じゃあ私もやめてよ、とばっちりだし」

「うーん.....でもステラって若干言いにくいことない?」

「いや、慣れてるからそうでも....」

「うーん....」


普通にステラで良いと思うんだけど.....別に言いにくくないし......。


「よし、分かった!エステラはエス、エステリーゼ嬢はリーゼと呼ぼう!」

「『異国の王女様を略称は流石に良くないからね』......」

「もう諦めることにした、そもそも僕達対等らしいし」

「諦めが早すぎる」

「まあこれでいいでしょう。よろしく、エス」

「え?.........あっ、エスって私か」

「そうだよ!?」


違和感ありすぎて反応できんわ。


「うん、でも、まぁ、、よろしくね、カール」



「......で、どうする....?」

「うん.....なんか.....うん......」


どうしようお互い行くとこもないしすっごい気まずいんだけど。どこにいるか知らないけどミーヤ早く来てー...。


「わ、わ私メイド呼んでくる.....」

「もういます」

「ふわぉう!?」


びっくりさせるじゃん。


「マイ、あんた、どうやってここに.....」

「ミーヤが連れてきた」


あ、そゆこと。


「ありがとー、ミーヤ」

「ミーヤさんはステラ様と王子のロマンチックな雰囲気を邪魔してはいけないと思い宿に戻ってきたそうですよ」

「「は!?」」

「マイ、それは違う」

「え?でもミーヤさん、『二人の青春を見届けた―――」

「しーっ。しー、し、しー」

「ミーヤも、マイも......」

「君たちは一体僕とエスの事をなんだと思ってるんだい.....?」

「...ステラ、エスって誰?」

「え?.........あっ、エスって私だった」

「また忘れたのか.....」

「違和感ありすぎて思考が追いつかないの!」


分かりにくいあだ名を付けるカールが悪いのである。

まったく、もう。

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