第二十三話 王族の魔術

「これは、、、、、」

「多分合ってるわね」


龍の血晶メンバー、マイ、ミーヤ、それに私。

呆然とするメンバーの前には、夥しい数の炎魔物がいた.......

それは、数時間前に遡る。


「おはよう御座います、皆さん」

「コンニチハミナサン、キョウハイイテンキデスネ」


ソウ、キョウハイイテンキデアル。


「.......ステラ、なんで抜け殻みたいになってんだ?」


うん。聞いてよマフカさん、あの後さぁ。


「お嬢様の癖に朝早いのねぇ.....」


そうなんですイレネさん、全部マイのせいなんです。


「あの、、、、、回復いるか?」


その回復は精神的ダメージも補えますか?


「マイ.......倒す?」

「あれ、僕の研究器具がないんだけど」

「「起きた瞬間にわかるお前が怖いよ」」


そう、あの後。

カイルさんが蒸発する前にとマイを止めた、あの後。

私は夜中に起こされ、ずっと訓練を強いられていたのである。


「仕方ないんです、仕方ないんです......。だってあのときのマイ、顔が完全にユーレ「ええどうされましたステラ様?まだ途中ですが?」


顔が完全に、闇世界に引きずり込むオバケ的フェイスだったから.......。


「心のなかで言えど、聞こえますよぉ?私には.....。」

「え゛」

「「わあぁあ!」」

「ぎゃあああ――――」

「って、茶番はやめて朝食にするわよ!今日も仕事なんだから!」

「朝焼けの中、巫山戯るパーティーに天罰が降ろうとしていた.....いや、鬼罰か?」


て、昨日と同じ流れじゃんこれ。

それは、それだけは回避しなくては。だってあれ疲れるし、何より私はあのマイを見たくない。夢に出てくるから。

なので―――。


「よおし昼御飯にしよう!」

「今は朝よ!?」

「いえ、そうでもないですよ。あと三、四時間もすれば昼です」

「その三、四時間を仕事に使うって言ってるのよ、マイ!」

「えっ?........あっ!............え?」

「今何をひらめいたのよ!?すごい気になるんだけど!?で、なんでまた疑問に戻った!?」

「さあ?」

「さあじゃないわよ!」


イレネさん、諦めよう。スパルタモードのマイは面倒臭いけど、通常モードはもっと面倒臭いんだから。真面目に取り合ったら負けだから。


「おい、できたぞー」

「イレネが遅いのでミーヤとマフカが持ってきた食料を適当に置いといた」

「遅いのは私のせいじゃないわよ....」


今日も元気な.....いや、オーバーテンションに疲れるパーティーである。


「それでな、今日もこの辺を探って行こうかと思うんだがいいか?」

「「「りょーかい」」って、なんでカイルが指示してるんだ?リーダーはあたしだよ」


確かに。


「まあまあ、この中で一番詳しいのはカイルだし」


確かに。


「それでだが、この地図を見ろ。昨日見つけた足跡の分析なんだが、なにか気づくことはあるか?」


うーん。あっ!


「魔物が急激に減ってる、でしょうか?それと、多くが森から平原に逃げている感じがしますね.....」

「そうだ」

「あーあと、炎系の魔物は森の中心に集まってる気がするわね」

「うんうん」

「他には....?」

「まあそんなもんだ。魔物は同じ属性の魔力を強く感じるところに寄って来る習性があってな。で、反対に他の属性や自分が不利な属性を感じると逃げていく。ほら、逃げてる魔物の中で一番多いのは土属性だろ?」

「「「「おおっ!ホントだ!」」」」


流石パーティーの魔物担当である。


「......魔物担当って、魔物倒す担当じゃないの?それってどっちかっていうとカイル以外の全員でしょ」


.........じゃあ、魔物に関する知識担当で。


「長いわよ」


じゃあ略して街担で。


「字!字が違う!」


じゃあ、『もしんと』で。


「なんの略!?」


ま『も』のにかんするち『し』きた『ん』『と』うです。街担を一字ズラしたものです。


「分かりにくいわね........」

「じゃあ、いっそのこと『まう』でどうでしょう?最初と最後の文字で....。」

「なんだろう、前のが変すぎてそれがまともに聞こえるわね.....」

「勝手に決めるな。それと、俺の本職は白魔術師だ」

「「そういえばそうだった」」

「忘れてたのか.....?」

「「うん」」

「おい」


だってカイルさんってパーティーで一番がっしりしてるし、どっちかって言うと力量型に見えるからなぁ。


「まあ、とにかく。そういうわけで、今日はこの集まってるところを主に探す。いいな?」

「おー!」


◇◇◇


「「「うわぁ........」」」

「これは凄いですね.........」


そして、今に至る。


「ま、これで依頼がクリアできそうじゃない」

「一つ問題があるとしたらこれで龍の血晶Cランク昇格が無理やり実行されそう、ってことだよね.......」


いや、それ、別に普通は悪いことじゃないけどね。


「それに、Cランクの依頼なら簡単に終わらせちゃうんですよね。レインさんが頑張ればBランクになれるって――――うわ!」


目の前には、炎鼠の......進化系?がいた。


「カイルさん、あれは.....?」

「正直俺もわからん。が、強敵であることは間違いない......」

「ミーヤに攻撃許可を」

「出すっ!どれくらいいるか判らんが、全力でやれ!まだ変形してない奴らなら俺以外の奴らで倒せる。だから有利属性のミーヤはあのデカイのが近づく前に全力攻撃だ!俺も援助する!」

「了解。水よ――――ウォーターボール」


ミーヤの前に、巨大な水玉が出来ていく。

私達も集中しなくては。


「マイ!使うならクロを!命令権限渡すから」

「いえ、命令ならツルギでも良いです。エンチャントのできるクロはステラ様が使ってください」

「分かった!ツルギ、今から命令権限をマイに移行する。いいね!」

(ぴかーん!)

「クロも......カーブして戻ってきて!」

(しゅるるるっとん!)



よし、こっち方面はあと少し.....レインさんたちはどうだろう?


「はっ!やっ!わぁ!?」

「イレネ!後ろに少数だけど土がいる。無理をしないでそっちを倒して」

「分かったわ」

「それと、ステラ!ちょっとこっち来て」

「えっはい」


突然のご指名......。


「僕は今から水魔術を使う。あと、全属性ないと使えない魔術も使う。王族だってバレるけど.......怪我しないことの方が大事だからね。ステラは、僕が隠してるって知ってるだろうから教えておくね。驚かないように」


え.......。


「いいんですか?見つかるかもしれませんよ。そしたら王宮に戻されるでしょう」

「まあまあ、そこは大丈夫だよ。どうにかなるって」


あ、そうか。レインさんは、この人は、自分の将来より仲間に傷一つ付けないことを優先してるんだ.....。

外も中も、イケメンだぁ.........。


「それに、何かあっても僕なら口封じる手段いくらでもあるしねぇ.......」


前言撤回。間違えた。

この人、絶対にバレないってわかった上でしてるんだ。笑顔が黒い。黒い。怖い。


「私が馬鹿でした......」

「いや、ステラは別に馬鹿じゃないよ?」

「違うんです!とにかく、その魔術とやらを使ってください.......」


疲れた......。

この人、忘れてたけどマジ余裕ありすぎの完璧人間だったわ。狂科学者なとこを除いて。


「風よ、我が手となり空気に宿りし魔を集めよ。水よ、顕微し全てを静める流れとなれ」

「―――レイン?それって」


レインさんの周りを水と風が渦巻く。


「炎よ。我が敵を焼き尽くす武器となれ――――」


一筋の赤い光が、そこに足される。


「土よ」


今度はそれだけで、地面に魔力が広がる。

得意属性だ。


「汝を荒らす者に制裁を」


その瞬間、地の怒りを表すような衝撃波が地面を這う。


「光よ、全てを浄化する聖となり、悪しき心を正しき道へ。闇よ、悪しきの力を吸い込み、喰らい尽くしたまえ」


一つは天から、一つは地から。二つの筋が交差して輝く。


「太陽神アマテラスのご加護を我に.......」


魔力が一層濃くなる。


「エンド」


真っ白な視界の後に残ったのは、炎鼠の討伐証明部位―――――私達の戦いの、唯一の証拠だった。


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