第三十二話 入学試験④

結論から言おう。

ローブは燃えていなかった。


「アラクネだからな、少しはダメージ受けてるだろうが......」


だそうだ。


「それにしても、私のどこが男に見えるんですか......」


そう、あの後私が気絶したのを見て教師さんはファイアウォールを解除し、私を抱えて救護所(?)で、寝かせといてくれたのだそうだ。私が目を開けて開口一番、「合格だ!」と叫ばれたものだからびっくりした。


で、起きて一番最初に私がチェックしたのが服だったのだ。


ローブは大丈夫、スカートも縁以外OK、ブラウスは袖が燃えているが胴体は辛うじて大丈夫、ストッキングは燃え、髪は焦げて外側に跳ねている。


「あの場にマイがいたらどれだけ怒られたか........男の人に足見せるなんてはしたないとか色々。結構面倒くさいんですよ?」

「そうだぞアレン、お付きメイドの説教というものはだな、何時間にも及ぶ長丁場でな、叱られる方にとっては耐久戦争のようなものなんだぞ」

「いや、セリス、そうなんだが......だってなぁ、お前が女だって分かってたら気を使ったんだが......」

「男でも貧乏貴族家の服は燃やさないでくださいよ........」


試験案内をしてくださったエルフ教官はセリーシアことセリス教官、私を燃やしたのは教官長のアレン教官だ。

ともかく、まぁ一応大事な部分は守られたわけだが、それにしても私は彼が私を男だと思っていた、その事実に怒っているのである。


「それで、私のどこが男に見えたんですか」

「いや、男に見えたっていうか.......歴代冒険者科教官長のうちの一人になんとなく似てたもんだから.......」

「あぁ、五代前のエセル・ジーン教官長か。確かにどことなく似てるな......?」

「平民でありながら誰よりも飛び抜けた才能を持ち、驚異的な成績で学園を卒業卒業、以後も活躍をし続けたが王からの五度にも渡る爵位献上の提案を全て断り、だが結局英才教育を施された孫が爵位をもらったのでそれと同時に爵位が強制的につけられたっていう凄い人だ」

「なんですか、五回も爵位献上を持ちかけられるって!?」


いや、やばいって。


「孫がもらった家名は、なんだっけ?確か、」

「メデイロス.......」

「メデイロス!?」

「なんだ、知り合いか?」

「知り合いも何も、私の家名ですよ!」

「「はぁ!?」」


どうりでどことなく似てるわけだ。


「お祖父様.....その孫の名前は、」

「「「エドウィン・ジェフリー・メデイロス」」」

「ですよね!?やっぱりお祖父様ですよね!?」


うちの家は現在二代目、まだ新しい貴族家だ。

一代目がお祖父様だと考えて、その祖父が五代前の教官長......うん、年齢的にも全然ありうる。

考えてみれば、うちの「代ごとにG、E、G、と子供の名前の頭文字を変えていく」という謎ルールも。

エステラ、ガイナス、エドウィン、ジェフリー、エセル。その前が、ミドルネームに合わせて恐らくジーン。

しっかり当てはまるわけだ。


「え、マジですか?嘘ですよね?え、そんな偶然ないですよね?」

「いや、でも、似てるんだよなぁ.......」

「マジですかぁ........」

「ちなみに、その教官長は侯爵だったんだぞ」

「..........マジですか?」


侯爵?だって侯爵だよ?えっ、侯爵だよ?王族の二段下のやつよ?


「それでその侯爵家はエセル教官長の弟家族が続けてるんだがな」

「.......え、それじゃお祖父様の再従兄は侯爵家なんですか!?どの家!?私の遠い親戚ですよね!?」

「あーっと、現当主がエディソン・ジョージ・メネデール様、お前の祖父と同じくらいかな?知ってるだろうが元将軍だ。次期当主がガスパー様、お前の親父くらいだな。んで、お前の一つ下がエリオット、これも男だ。血が似てるのか今年冒険者科にいるぞ」

「すっごい良家!?メネデール......考えてみれば、メデイロスが変形したらそうなってもおかしくないですね」


っていうか、E、Gのルールそっちにも続いてるんだ。


「あーでも、あっちは当然お前のこと知らないからな、声はかけるなよ」

「まぁ、あちらから話しかけてこない限り侯爵家様には、流石に....」

「あぁ、学園では一応全員平等ということになっているんだがな」


変に意識しないようにしなくちゃ。


「っと、話していたら遅れちまった。俺は次の相手をするからそろそろ行くぞ」

「あ、はい、どーも、お疲れ様でーす」

「........ペコペコしてお疲れ様でーすって、お前どっかの平社員か?」

「はい?」

「いや、何でも無い」


平社員ってなんだろ.......?

まぁいっか。


「あのー、回復したか?」

「はいセリーシア教官、もうバッチリです」

「そうか、なら準備ができたから使役魔術の試験に行くぞ」

「はーい......って服!服!」

「あぁそうだったな、ちょっと持ってくるから待っていろ」



◇◇◇



制服を貸してもらった。


「その制服は持って行って良いぞ」

「えっ、でも」

「まぁまぁ、お詫びだからな。それに、試験に合格しなきゃ外では着ないだろう?合格しないと使いみちが無いからな、試験の励ましになるだろう」

「いやまぁそうですけど.....」


これ、結構高価な布やんけ。


「気にするな、持って行け」

「はぁーい......一生気にしますけど......」

「じゃあこれでどうだ、試験に合格しなかったら一生部屋の壁に飾っとく」

「それは嫌です!嫌なので本気でやります!」


それ超恥ずかしいやつ!


「ほら、これで生徒が一人増えた」

「えぇ.......」


まあいいか、最初から本気だったし。


「.......で、これは?」

「この檻の中に入って、中の魔物を全て使役する。一度も攻撃せずに成し遂げれば成功だ」

「なにそれきっつ」


全属性Eランクの大型魔物。一匹だけ、Cランクの闇魔物。Eランクはともかく、Cランクなら『契約』しかできない。契約は、詠唱と魔法陣が必要なのだ。


全方位から襲ってくる魔物たちを避けつつ使役、大人しくするように隅っこで待機させ、ウィンドバリアを張りながら魔法陣と詠唱......いや、ウィンドバリアって攻撃を跳ね返すからなぁ........。避け続けるしかないか......。


「とりあえず、行ってきまーす........」


そして、入ると同時に襲いかかってくる魔物たち。


「使役、使役、使役、使役、使役、使役っ!......魔力消耗したわ」


スキルだから大したことないが。


「契約に足りるかが問題よねー」


そうなのだ。魔法陣を描くのにも使い、発動させるのにも使い、力の差を見せつけて契約してもらうにも使い。


まぁまず、最初に。


「えっと、確かここはこうで......闇だからこの記号で........っと、完成!」


魔法陣を描く。

次。


「ほれほれ、こっちだよーん」


...........決してふざけている訳では無い。魔物を魔法陣上に誘導しているのだ。

次。


「よっしゃ、乗った。えっと、『我、汝との契約を望む者也――――』あぁーちょっ、出ていかないで!ほれほれ、こっちこっち~」


魔法陣から逃げていく魔物を止めつつ、詠唱。


「『我、汝との契約を望む者なり。闇の者よ、汝は我望む下僕なり。我の力を見定めて、逆らうも従うもその意志を示せ。我の力を認めたならば、鐘一つの時を我の下僕として過ごし給え。フォーダステネブリス!』.......よし」


次。


「えーっとぉ......」


契約条件の交渉。


『エステラよ、我を下僕に望むか』

「あー、はいそうですね」

『ならば、我を殺してみろ』

「はい?」


殺すって。いや、殺すって.....。

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