第三十三話 入学試験⑤

『ならば、我を殺してみろ』

「はい?」

『だから、我を殺してみろ』


いやいやいやいや。


「いやだって、それしたらあなた死んじゃうじゃないですか」

『良い、方法がある。とりあえず殺せ』

「とりあえず殺せって.....試験に落ちるんですよ、それじゃ。ねぇ、セリーシア教官?」

「ん?......あぁー.........よく見ろ、としか言えん」


よく見........よく見て..........。


「......................................あっ」


その魔物は、薄ーく光を――分身だけが放つ特徴的な光を――纏っていた。


「確かに、分身なら殺しても本体は無くならないですもんね!..........ん?」


.......?

分身も魔物では?

分身が魔物じゃないとするなら、それはどういう種類の生物?

『分身』という生物?

それじゃあ人間が分身となった場合、魔物の分身と同じ種類の生物として扱われる?

それは魔物は人間の敵主義な王国的に色々まずい気がするし....?うーん?


「すいません、やっぱ心配になってきたので他の方法ありませんかね.......」

『何故だ、我がわざわざ分身を作ってここまで戦ってやったというのに』

「いやだから、これ割と重要な試験なんで.......」

『......おい、そこの教官とやら。分身は魔物としてカウントされるのか』

「私か?........試験官としてそれに答えても良いのかどうか........」

『じゃあ我が答えた場合はどうなのだ』

「それは良いんじゃないのか?魔物と話してはいけない、などと書かれてはないからな」


んーじゃあ良いか。


「というわけで教えて下さい.....」

『うむ。まず「分身」という存在だが、これは本体から魂を一部抜き取り、体を再生させたものだ。つまり本体の我は今、魂が一部欠けているということだ』

「はあ。それ、結構ヤバくないですか?」

『ヤバいが?』

「いや、「ヤバいが?」じゃないですよ!?ちょっ、あの、今すぐ戻ってください!結構心配なんで!」

『.....こほん。ともかく――――』

「スルー!?」

『ともかく、分身とは魂の一部だ。『魔物』でも、『人種』でも無い。『魂』なのだ』

「はあ。で、だったら何なんですか?」

『む?』

「いや、だって、魂だってその生物の一部じゃないですか。それに攻撃したらアウトでは......?」

『あぁ。実はな、魂の一部と言っても既に体から切り離されているのだ。だから、これは『魂の一部』っていう存在なわけで、実際に我の魂の一部ではないのだ』

「何かよく分からないんですが、取り敢えず殺しても大丈夫なんですか?」

「まぁ多分な、条件は『魔物を一切攻撃せずに』なのだろう」

「そうですね」

『別に魂を攻撃するなとは言っていないのだな、ならばすでに魂の一部では無くなった魂の一部を攻撃したところで何の問題もなかろう』

「魂の一部では無くなった魂の一部って色々矛盾してますけど、まあ確かにそうですね」


『というわけで最初に戻るが、我を殺してみろ』


「んぁー........はい。とりあえずウィンドバリア×2!」

「そこ端折る!?」


というツッコミと共に始まり、その戦いは一時間にも渡った。


「はぁ、はぁ.......これが私の最高奥義.......『上目使い』!」

『..........すまん、やはり女子に一時間ぶっ通しで戦わせるのは我としても流石に.......』


そして割とあっさりと終わった。


「じゃじゃ、契約よろしくお願いしますー!」

『鐘一つ分だし、大して何もしないだろうがな』

「まぁそうですけど」

『よし、契約完了だ。.........................って、ん?』

「なんですか?」

『これは、鐘一つじゃなくて一生涯のマークでは無いのか』

「あ」

『我は生涯を貴方と共にするのか.....?』

「うーんふふーぅんふーん..........」

『で?我は貴方の生涯のパートナーとなるのか』

「とりあえずその言い方は誤解を招くからやめよう」


婚約してるみたいやん。


「..................それでセリスきょーかんー........どうしましょー、私この魔物さんとそういう契約を結んだらしいですー..........」

「あー、うん........前代未聞だ..........とりあえず本体に帰ってもらったらどうだ?契約した魔物とは遠くからでも会話ができると聞いたことがある」

「あっ、良いですねそれ。それでどうですかね、魔物さん?」

『我もそれで良い。良いのだが、そろそろ適当に名前でも付けてそれで呼んでくれ』

「ん?......あーはい、確かに『魔物さん』って微妙ですね.........そもそも魔物さんってなんの魔物なんです?」

『ナイトメアフォックスだ。見た目は狼だがな』

「そうですか、ナイトメアフォックスさん.........そうですね、ナーフとかどうでしょう」

「『ナ』イトメア『フ』ォックスか、単純だな......」

「セリスさんシャラップ!」

『いや確かに単純だとおも―――』

「ナーフもシャラップ!あんたもうナーフで良いでしょ呼びやすいし!」

『え?あ!?ちょ、貴方が急に命名するからネームドへの進化が始まってしまったではないk.........』


結果。ランクアップは魔力消耗するので、ナーフ寝ちゃいました。



「とりあえず終わりましたが.......」

「あぁ、おめでとう。結果は一週間後、門の掲示板に貼っておくからその時に見に来なさい」

「了解です。じゃあ今日はありがとうございました!」

「あぁ、また会えることを心待ちにしてるぞ!」

「その時はよろしくお願い致しますー!」

「合格しなかったらちゃんと制服壁に飾るんだぞー!」

「.......はぃい」


ナーフとセリスさんを後にし、私は学園を出た。


「っていうかこれ不合格だったらまじハズいわ」


壁に一生涯貼るとか罰ゲームの極み。悪意有り余ってる。


「とりあえずマイ探すか......広場こっちで.....あ、いた!マイー!」

「......?あ、ステラ様!」

「あんた今一瞬『誰だっけ.....?』みたいな顔したね今!?」

「いえいえそんな」

「絶対したって」

「そんなまさかまさか」

「じゃああのブランクなんだったのよ!」

「.......ひゅー♪」

「嘘下手か、アサシンの癖に」

「アサシンとスパイは別物です」

「いやそうだけど」

「スパイは嘘を付き懐に入り込むことで仕事をしますが、アサシンは実力だけで乗り切るのです。気配消し、音消し、同化.......全て自分の力です」

「えー、そうかな?アサシンってさ、いや他の人も大体そうだけど、スキル頼みじゃん。でもその点スパイはさ、嘘つきっていうスキルとかないから大変くない?」

「努力すれば誰でもなれます。その点アサシンは選ばれし者だけが―――」

「シャラップ!『はい論破』顔すんな!うざいから!従者の仕事しろ!」

「おや、私としたことが。失礼致しました。して、お宿にご案内させて頂きたk」

「ごめんやっぱいつも通りの方が良いわ、マイが丁寧とか天地ひっくり返ってもありえないと思ってたからその変わりようが逆に怖い」

「こほん。........で、宿は予約しておきましたから」

「ありがとう」

「ご褒美をくれても良いんですよ?」

「シャラップ!」


うっ........喉枯れた。


「どりあえず、やどづれでっケホッ」

「了解です」


そして歩くこと数十分。


「あら、さっきのメイドさん!お帰りー!後ろの子は?まさかそこの学生?」

「あ、はい。若女将さん、こちら私の主のステラ様です。ステラ様、こちら若女将さんのヨカ様です」

「あ、よろしくです.....」

「ステラちゃんっていうのね!よろしくー!で、そこの学生なの?」

「あっ、えっとですねこれは――――」


試験のことを一から十まで説明するはめになった。


「なにそれ面白ーい!あとナーフってかわいいー!」

「ステラ様、淑女ともあろう者が殿方の前で......羞恥心というものはお持ちでないのですか?そもそもですね、そんな一瞬で燃え尽きるような服を着て試験に臨むのが間違っています。試験の際はもっと冒険者用の丈夫な服をですね、買ったのですから着たほうがよろしいかと思いますよ?それに、気絶するにしても格好というものがあるでしょう、あぁっステラ様髪が縮れているではないですか!旦那様に見つかったらどうするのですそれ私が困るんですよ!?」

「あー、、、、とりあえず、最後のはほんっとごめん。でもそれ私のせいじゃない」


ほんとに私のせいじゃないから。あの教官長のせいだから。


「ではステラ様、この罪を認めないのならば今すぐ熱湯をぶっかけて差し上げてもよろしいのですがいかが致します?」

「マッサージでもしてくれるの?ありがとー」

「ふむ、マッサージ、、、ですか、、、、よし、ステラ様くすぐりの刑!」

「ひにゃあああ!やめっ!ちょっ!マイぃ!」

「このままお部屋に連れていきます!ステラ様の恥ずかしいお姿をたっぷりと皆に見せてあげましょう、、、、ステラ様顔真っ赤ですけどもしかして興奮して―――」

「シャラッ―――――」


声死んだ。

一週間ロクに話もできなかった。

マイめ。

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