第三十一話 入学試験③

「と、いうわけで。ここは二部屋ある」

「はい」

「一つ目の部屋の魔物を五分以内に倒す。五分が過ぎると奥の扉も開くので、そこにいる対象とも戦闘をし、十分過ぎるとここに転移で戻ってくる」

「はい」

「では、扉を開けて試験に行ってきてくれ」

「行ってきます、、」


今回は『それだけ?』とか言わない。だって怖いもん。


本日三回目の黒い扉を開ける動作。


「この扉の重さが今の私の心の重さですね」

「それはまた随分と軽いな」

「これが軽い、ですか!?」

「えっ?―――あぁすまない、私は斥候スキル持ちでな、重力軽滅が少しだけあるから.......」

「あっ、なるほどです」


斥候スキル有能。


「じゃあ行ってきます」

「頑張ってなー」


で、ドアを閉める。


「高ランク光魔物一匹、高ランク闇魔物一匹、トレント、炎鼠、水蛙.......なんて嫌らしい組み合わせだ」


まず闇魔物。私は光属性を持っていない。

次に光魔物。彼らは魔物の中でも唯一善とされるので討伐されず、日に日に魔素を集めてパワーアップしている。それにこの国では闇魔力は許されないため、光魔物を倒すのはかなり難しい。

そしてトレントと炎鼠の組み合わせ。炎鼠の火がトレントに付く。トレントが暴れる。トレントに火が付く。暴れる。悪循環である。

それから水蛙。単純に気持ち悪い。


「.......取り敢えず炎鼠と水蛙を激突させて、トレントはこっちで倒すか......まぁ最初に、ウィンドバリア」


戦いたくないなら、敵と敵を激突させる。雑魚は勝手に死んでればいいのだ。気持ち悪いし。


「トレントは.........改・ファイアースフィアー!」


改・ファイアースフィアとは。単純にファイアースフィアのパワーアップ版をイメージした魔術である。レインさんの助言後、私も色々試しているのだ。


「よし、全滅っと」


改・ファイアースフィアは、三匹のトレントくらいなら全滅させられるのだ。


「それから光と闇はどうすっかね」


ナイフを使うべきか.......。


「まあそうよね、他に武器も無いし」


よしきた、クロ!

(ピカーン!)


「とりあえず光の四肢を切断する、行くよ!」

(ピカックルクル!)


すると、二本の手脚が切れて―――は、いなかった。


「ま、そうだよねー」


Bランクだし。


「あと三回くらいで行けるかな、っと」


気付かないうちにウィンドバリアの上層が破られていた。


「ウィンドバリア、、、、で、はっ!やっ!とうっ!」


もう三回繰り返す。すると、光魔物の四肢はきれいに.....ではないが、一応切断されていた。


「そこに闇魔者がどーん!と襲いかかる」


当たり前である。反対属性の魔素たっぷりな魔物が目の前で弱っていたら、襲うに決まっている。私だって目の前に美味しそうなソーセージがあったら、齧り付く。


「で、そこに自分がドーン!とナイフを突き刺す」


当たり前である。敵が自分の方にコアを向けていたら、突き刺すが抉るか割るに決まっている。どんな冒険者でも目の前に敵のコアがあったら壊している。


「そしてそこに俺がドーン!と襲いかかる」

「へっ?って、うわっ!ウィンドバリア!」


気付いたら、奥の扉が開いていた。


「ほう、ウィンドバリアの二重張りとは中々面白い」

「最後は対人戦かぁ........」

「おっと、呟いてる隙があるなら自分を守れ。ウィンドブレーカー!」


ウィンドブレーカー!?何それ!?


バリンバリン


と、先程張ったはずの結界が破られていく。そしてその結界を破った『ウィンドブレーカー』という名の刃が私に向かい。


「ウィンドバリアウィンドバリア、そしてその刃はクロで叩き割る!」


とりあえずそれごと結界で囲い、叩き割る。


「ふむ、良いじゃないか。ナイフと魔術、ね」

「、改・ファイアスフィア!」

「ぐっ」


ファイアスフィアを撃っても一歩も動かず、彼がそのままダメージを受ける。


?なんで.......?


「なんでここから一歩も動かないのか、と?どうせ受けるなら一番ダメージの少ないように動かなかったか、と?」


そうなのである。ファイアスフィアは全方向から攻撃されるため、こういう密室では避けられない。でもダメージの少ない場所というのはあって、彼ならそこまで移動することはできたはずなのだ。


「それはな、これが俺のハンデなんだよ」

「え?」

「俺はここの教師だからな、お前らじゃ到底勝てん。だから俺はここから一歩も動かない。それが俺のハンデだ。でだな、ウォーターロック!」

「うわっ!?ふむぐぐぐむぐ!」


ウォーターロック。水の力で対象をその場に抑えつける魔術だ。


「っ......」


手が動かせない。

指を向けずに魔術を放つには.........。


思い出せ。読んだこと。


魔術を放つには.....一点に魔力を集めて......。


(密・ウィンドバリア!)


できた!


体にウィンドバリアを密着させる。つまり、この水牢獄も手で振り払えばバリアの力で飛んでいく。

これで縛りも解けるってわけ。


「ほぅ、目から無詠唱で........こりゃ鍛えがいの有りそうなやつだな」


そう、私は思い出したのだ。

イレネさんたちに読ませてもらった文献、それにはなんと書いてあった?


『魔術を放つには、一点に同属性の魔力を集めて発動させる魔術のイメージをしながら詠唱をすること』


このうち、詠唱は省略できる。

注目すべきは、『一点に』ここである。

一点。『何処』とは明言していない。

つまり、手が不自由ならば、他の場所に魔力を集めれば良いのだ。


「凄いアイデアだし、ただの魔術師ならここで合格としたいところだが.......ナイフも使うんだろ?どうだ、俺と一試合ってのは」

「そうですね」


この人には、ツルギも使う。

二刀流で行こう。


「とはいえ教師を殺すわけには行きませんし.....」

「ん?問題ないぞ、これは本当の俺じゃないし。ウィンドブレード」

「はっ!」


飛んでくる魔術は叩き割る。でなきゃマイに教わった意味がない。


「魔術を叩き割る.....?よっしゃ、行くぞ」

「させません!クロ、脚!ツルギ、首!」

(ピカーン!)(ぴかーん!)

「遅い!」


カキーン!


当然のように受け止められる。


「と、見せかけてツルギ、手首!」

(ぴかーん!)

「うおっ、右手首落ちたし。まぁいい、俺は左でも剣ができるんでなぁ」


マジかよ。

まーでも脚は切ったし良いか。


「と、いうふうに舐めてると襲われる。ウィンドバリア!」

「ん?えっ!?」


信じられないものを見た。


「ウィンドバリアが表裏反対になってる......?」

「ファイアウォール、ファイアウォール、ファイアウォール!ほら、早くしないと燃え死ぬぞ」

「熱っ―――う」

「ファイアウォール、ほれ天井も作っとくよ」

「う、ん―――っ、はぁ」


服が焼け、髪が縮れ、、、。

自分をガードすることも忘れ、私の意識は火の中で遠のいていく。


「ぁっ、ローブ―――っ」


最後に思い出したのは、私が身に着けていた高性能の黒ローブの存在。


燃えてないかな、ローブ―――。


そう思いながら、私は地面に崩れ落ちた。

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